「古書店散策記」6〜7(信州松本編)


古書店散策記6 信州松本 その1

 信濃の国の中心に位置する松本は、人口20万人足らずの小さな観光都市ではあるが、 古くは大正時代に旧制高校が開設され、以来、瀟洒な文化都市となっている。
 松本駅を出て、東に伸びる大通りを進めば県(あがた)の森に到るが、旧制松高から 信大文理学部に受け継がれた洋館造りの木造校舎は、うっそうと茂るヒマラヤ杉に囲ま れ、かつての面影を伝えている。今では、松本市の文化会館、市立図書館の分室などと して、市民に親しまれているが、古書店巡りの休憩所にはうってつけの場所であろう。


 それはともかく、松本の古書店としてまず思い浮かぶのは青翰堂であるが、こちらは 松本城方面に位置し、お城を摸して作られた店構えは一度見たら忘れないであろう。奥 深い店内には一般書や学術書の他、和書漢籍などが天井近くに積み上げられているが、 文庫本やマンガもあり、切手や葉書、コインなども扱っている。おそらく、長野県一の 質を誇る古書店と思われるが、色々なものがありすぎて一般的な町の古書店といった風 貌も併せ持っている。

 品揃えは、これといった特徴はないように思うが、信大関係のテキストや参考書類が あり、人文社会系の本をかなり購入している。データベースで検索したところ64冊入力 しているが、一冊当たりの平均購入価格は700円と、そんなに高くないが、印象的には 値引率の低い店という印象がある。品揃えの傾向ももう一つ私にあっているわけではな く、そんなこともあって、松本在住の折りは最も利用した店であるが、旅人として立ち 寄るようになってからは、5回に1回ぐらいの割りで、何かを買う程度となっている。

 最近買ったものでは渡辺二郎『ニヒリズム』東大出版会(\1200→\100)ぐらいであろ うか。古くは色々あって書いていればきりがないが、例えば、山本哲士編『小さなテツ ガクシャたち』新曜社(\2400→\1500)、カプラ『タオの自然学』工作舎(\2200→\1500) など、色々である。そういえば、私が初めてコリン・ウィルソンの本を手にしたのは『 宗教と反抗人』紀伊國屋書店(\1200→\700)であった。書き忘れていたが、1994年1月に は、大量に尾崎豊関連の本を購入したのであったが、こういった新しい本も多いのが青 翰堂の特徴なのである。(京都まで持って帰るのに苦労しました(;_;))

 この青翰堂へ行く手前、松本郵便局北から家具屋などのある通りを東に進むと、アガ タ書店という小さな貸し本屋があり、古書も扱っている。5年ほど前に訪れたおり、哲 学系社会思想系の本を何冊か購入したきりであるが、定価の半額程度であった。しかし それ以前は店自体があったという記憶もなく、また最近は訪れても欲しい本が全くない という状態が続いている。

 さらに東に行くと細田書店があるが、ここは松本在住の折りは青翰堂に次いで、私が 最もよく利用した古書店である。古びた小さな店内には、それなりに本はあっても、青 翰堂程の密度はなく、どこかガランとした印象を持っている。山岳書や郷土誌に特徴が あると、「古書店地図帖」などに書いてあるが、新刊本が混じっており、わざわざ見に 来るほどのことはないように思われる。その他は一般書が中心であるが、時々ではある が信大関係の参考書が超破格値で売られていることがあり、これを楽しみに今でもここ を訪れている。青翰堂は、そういった本を常に店出ししているのに対して、細田書店で は、あくまでも「時々」である。そのタイミングにあたれば、かなりいい買い物が出来 るが、はずれれば、坊主である。最近、買ったものでは、『ラッセル』岩波現代選書(\ 1100→\100)、『文化人類学を学ぶ』有斐閣選書(\1200→\100)、『グランドセオリーの 復権』産業図書(\2600→\500)、『自己のテクノロジー フーコー・セミナーの記録』 岩波書店(\1900→\900)、大塚英志『少女雑誌論』東京書籍(\1600→\500)、今西錦司『 私の進化論』思索社(\1600→\500)などがある。


古書店散策記7 信州松本 その2

 細田書店から東へ行き、車通りを北へ折れて進むと、松信堂があるが、最近、新しい 店舗になり、少し移動したようである。以前の店舗は、本当に古くて狭く、床なども潰 れかけていたように思うが、大きさも広くなり、店出ししている本も増えたが、大衆的 な品揃えである。

 女鳥羽川を渡って縄手商店街に入ると、秋櫻舎という古書店が数年前から開店してい る。店は狭く一般的な品揃えであるが、松信堂よりも学術系が少し多い。記録を見ると 1991年には、本多勝一「貧困なる精神」20、B、E、を各650円で購入とあるから、この 頃に開店したのかもしれない。これは少し高い買い物だったかもしれないが、丁度持っ ていない巻だったのでよかったといえよう。また、1992年には『<私>のメタフィジッ クス』、『<魂>に対する態度』勁草書房をともに、1700円で購入。これは値段的にも いい買い物だったかもしれない。もっとも、松本から京都まで持って帰る手間を考えれ ば、別かもしれない。

 この並びには以前には善林堂という小さな古書店があったが開店休業なのだろうか。 最近は行ったことはない。

 四柱神社から松本城方面に進むと前出の青翰堂があるが、駅方面に戻って伊勢町商店 街に入ると、慶林堂という新しくオープンした古書店がある。新しいといっても、秋櫻 舎と同じく、古いタイプの古書店であるが、店舗はわりと大きく、品揃えも充実してい る。文学書、学術書なども幅広いが、値段的には全体的には強気であると思われる。最 近(1996年1月及び4月)、ここでは、昭和堂から出ている叢書《エチカ》シリーズを購 入した。1巻「道徳の理由」は持っていたので買わなかったが、2巻「マイクロ・エシッ クス」(\2200→\1500)、3巻「自己と他者」(\2500→\1800)、4巻「システムと共同性」 (\2884→\2000)を購入。新刊で買おうか買うまいか迷っていた本だったので、なかなか の買い物であったと思っている。

 こちらとは逆方向になるが、県の森、ジャスコの北に、数年前にオープンしたドゥ・ セコンドの存在も忘れてはならないだろう。こちらは完全に新しいタイプの古書店で、 店のつくりも大きく明るく、中古CD、コミックなどにも力を入れている。ただし、フ ランチャイズの古書店風の店の造りではあっても、学術書や文学書にも力を入れ、信大 関係の参考書類の扱いでは松本一であろう。値段的にも安く、行くたびに何かを買って いる。例えば、『フィクションの美学』勁草書房(\3090→\1500)、『無根拠からの出発 』勁草書房(\3296→\2000)、『生き方について哲学は何が言えるか』産業図書(\3502→ \2100)などがあるが、趣味があえば、お買得の本の山と思うことうけあいである。

 最近、各地の古書店を訪れて思うのは、古書店の本は、新刊書店以上に、その店のあ る地域的制約(どんな関心を持った人が住んでいるかなど)による影響が大きいので、 特に地方都市の場合、そこにある大学の傾向を把握しておく必要があるように思う。さ て、今回の松本であるが、信州大学の人文学部、理学部、教養部などがあるので、哲学 や文学などの文献は充実しているように思われるが、それに反して、長野の場合は、教 育学部、工学部といった実学系の学部しかないので、おのずと傾向は異なっているよう に思われる。といっても、松本には医学部があったり、塩尻には歯科大学があっても、 そちら方面の古書にはあまりお目にかからない。また、学生気質のみならず、地域住民 の傾向によっても、その町の古書店の傾向は違ってくるが、松本は町の規模からして、 そのレベルの高さには目を見張るものがあるように思われてならない。 散人

96/7/19


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