【大雪山系縦走記】  Aug/'95
『大雪山 I shall return』

富良野岳からトムラウシ山への山行記
富良野岳〜十勝岳〜トムラウシ山縦走

【大雪山系縦走記】
『大雪山 I shall return』

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プロローグ

 今年の夏休みも世間一般と日程が異なり、また一人で放浪することになった。一週間程度で縦走できるところは無いかと探していると、大雪山、十勝山系に目が止まった。両山系間に縦走路があり、十勝の富良野岳から大雪の旭岳まで5日、予備日や前後の行程を含めても10日間の予定で可能である。

 

●2〜4/Aug/'95 北海道上陸〜十勝岳温泉

 今回の北海道上陸手段は、日頃の睡眠不足解消と休息をかねてフェリー(新日本海フェリー)を利用した。京都からJRで小浜まで行き、駅で知り合ったプータロー二人組の女の子とタクシーで港へ。彼女らのおかげで比較的退屈な船旅が楽しく過ごせた。

 縦走の出発点の富良野岳の登山口は十勝岳温泉になる。フェリーの終着港、小樽から富良野へはJRで行こうと思っていたが、フェリーで知り合った綾子、寛子ちゃん小学生シスターズのファミリーの車に、二人のプータローと共に同乗させてもらうことができた。一緒にJR銭函駅や富良野のラベンダー園に寄り、ワイン工場などを見学する。

 十勝岳温泉への交通手段はJR上富良野駅前から出ている一日2本のバスしかない。午前中のバスでは登山口への到着時間が遅すぎるため、上富良野STB(ステーションビヴァーク)は止め、十勝岳温泉に宿泊することにする。上富良野駅まで送ってもらい、ここでプータロー二人組ともお別れとなる。

 

●5/Aug/'95 十勝岳温泉〜上ホロカメトック

 十勝岳温泉に宿泊施設は三軒有るが、不運にも登山口から一番遠い所しか空いていなかった。登山口まで標高差250m、舗装道路をとぼとぼ半時間ほど歩いていると、途中でマイクロバスに乗せて貰うことができた。登山口付近はキャンプできる所がないと聞いていたが、大きな駐車場がありきれいなトイレもある。快適なビヴァークができる環境である。

 観光用の舗装道路をしばらく進み、茶色い火口壁の見える安政火口へ進む。分岐を右に折れると稜線をめざした登りとなる。登山道の側にクロマメノキがよく実っており、時折ついばみながら登っていく。ダケカンバのトンネルを進み、2本の沢を渡った頃より富良野岳が正面に見え出してくる。太陽高度が高くなるとともに、ガスの高度も上がり富良野の町が見下ろせる。稜線に出るとザックをデポし、富良野岳のピストンに向かう。正面が切り立っていたため、稜線に至る前から全体の山容がわからなかった。そのためピークまでのコースタイムが1時間のところを、30分もかからなかったため何か拍子抜けした。ピーク(1912m)はすでにガスっていたが、新得方向の豊かな森林帯が幾層もの緑となって見えていた。

 ガスって展望のない三峰山の稜線を進む。このあたりは岩稜帯でナキウサギが生息するらしいが、声のみで姿は見えない。1808m地点を過ぎ、上ホロカメトック山とのコルの間はほとんど植物が植生していない。硫黄を含んだ噴煙が影響(硫化物は酸性のため)しているのだろうか。やがて上ホロカメトック山の方から、どこかのワンゲルらしい掛声が聞こえ始める。上ホロカメトック山は火口壁に沿って登っていく。ピーク(1920m)を過ぎると、雪渓と避難小屋が見え始める。上ホロカメトックキャンプ場(無料)には13時過ぎに着いたのだが、すでに5張り張られていた。隣は女子大のワンゲルで、オカリナを吹いている天然記念物級の人がいた。雪渓から水をくみそのまま飲んだりしていたが、テントでお茶を飲んでいる時、近くを野生のキタキツネが通り過ぎた。富良野岳の麓で見た奴と同じである。行動半径は以外と広い。この辺りの水場はエキノコックスに侵されているかもしれない。もう遅いけど

 

●6/Aug/'95 上ホロカメトック〜双子池

 真夜中過ぎ、フライシートに雨が当たる音で目が覚めた。しばらくすると隣が騒ぎだし、しかたなく3時にシュラフから出る。上空には星が出ており、天候は良好である。

これから通過する鋸岳、美瑛岳がよく見える。十勝岳の上部50mが岩稜で他は火山灰の砂礫である。植物が全く植生しておらず、水墨画の砂漠みたいである。鋸岳は三角錐の半分を切り取った山容で、堆積した火山灰を崩しながらトラバースして行く。美瑛岳とのコル辺りから、岩稜に変わり始めそれと共にイワブクロやコメツガザクラの群生が見られる。ザックをデポし美瑛岳をピストンする。富良野岳と同様にピーク(2052m)には航空写真用の対空標識が設置されており、『95年10月末まで壊さないで下さい』と書かれていた。ここからは遥か遠くにトムラウシ山が見えている。

 美瑛富士とのコルへ降り、ハイマツ帯の麓をトラバースし美瑛富士避難小屋近くで大休憩する。上空には巻雲が出始めており、太陽の回りに虹色のハロが見える。ベベツ岳の途中で、
『双子池の回りの水場は枯れていて、オタマジャクシがいる溜まり水を飲まなくてはならない』
という情報を得る。今回行動時間が長いため水は3リットル以上持って来たため問題はないが、オプタテシケ山とのコルに雪渓を見つけ、沢を降り新鮮な水を補給する。オプタテシケ山はハイマツと巨大な岩石との間を縫うようにして登り、またガスも高度を上げてくる。そのおかげでピーク(2012m)ではトムラウシ山にガスが掛かりよく見えないが、時折顕著な双耳峰が窺える。双子池との高度差は600m、テントが一つ小さく見える。南面とは異なり、小さな岩石を積み上げた急峻な稜である。降りの途中よりガスが晴れ、緩やかな傾斜を持つ緑の平地と丘陵地帯が続く様は、北アルプスの雲の平を遥かに凌ぐスケールである。

 双子池キャンプ場(無料)の双子池の溜まり水は生では飲もうとする気は起きないが、動物性プランクトンがいる割には程透明度は悪くない。やがて上空に高積雲が西の方から広がり始める。昨日の天気図より東北地方に停滞する前線が北上しており、低気圧も近づいて来ている。明日の日中続くかどうかというところである。

 

●7/Aug/'95 双子池〜ヒサゴ沼キャンプ場

 翌朝3時起床。星が見えるため午前中はOK!。ダケカンバ帯をくぐり抜けるようにして緩やかなアップダウンを進む。ヒグマさんが出そうな雰囲気なので、クマよけ用のカウベルをザックにつける。縦走路以外は全く手つかずの自然である。コスマヌプリ(1626m)からトムラウシ山が見え始め、昨日より大きく見える。ツリガネ山(1708m)で大阪外大のワンゲル連中と出合い、お互いに写真を撮り合う。ツリガネ山よりトムラウシ山は直線距離で5km程であるが、ユウトムラウシ川が間に流れているため、かなり迂回しなければならない。
 美瑛川、辺別川、ユウトムラウシ川の分水嶺となる三川台を過ぎると、そこはすばらしい景色である。ユウトムラウシ川側は切り立っており、眼下に雪渓、鏡面のような沼、入り組んだ支流がまるで箱庭のように見える。また反対側は黄金ヶ原と呼ばれるスケールの大きい湿原地帯である。遥か彼方に旭岳が見え、ゴールが確認できた。トムラウシ山は双耳峰が重なり合い、また違った雰囲気である。黄金ヶ原はイワイチョウの群生があり、水平線の彼方まで続いている。
 縦走路の真ん中に動物のフンが落ちていた。大きさから考えるとキツネではない。キツネ以上大きさの動物となるとヒグマさんしか考えられない。辺りはヒグマの好きそうな植物がいっぱいある。カウベルを意識的に鳴らし、時折後ろを振り向きながら心持ち早足で歩くが全然人と逢わない。1時間程でようやく湿原を抜け、一息吐く。トムラウシ山の麓の岩稜地帯で念願のナキウサギを一瞬だが見ることができた。

 南沼キャンプ場は数多くのテントが幕営されており、人も多い。岩稜を20分程登るとピーク(2141m)である。ピークからは縦走してきたオプタテシケ山、美瑛岳が見える。北側には化雲岳が見えるが上空には、もう高層雲が出ている。
 北沼を通り過ぎ岩稜の急斜面を降りていく。あちこちからナキウサギの声が聞こえるが、やはり姿は見えない。この辺りは日本庭園と呼ばれており、高く積まれた岩石や沼、ハイマツによる自然が造った庭園である。数多くの小さな沼の辺りはチングルマ、ヨツバシオガマなどが群生している。やがて西面に雪渓をたたえたヒサゴ沼が見えだした。

 ヒサゴ沼キャンプ場(無料)はヒサゴ沼の側にあり、周辺はニッコウキスゲ、ワタスゲが一面に広がっている。テントは湿原を痛めないようガイドロープ内で幕営しなければならない。雨が降ると水に浸かる可能性があるため、できるだけ高台を選ぶ。気象通報から予想すると、明日昼頃に低気圧が通過し引きずっている停滞前線は南下するはずである。また大雪山の南西側になる胆振地方には大雨洪水警報が出ているので、明日は停滞して次の日に行動した方が良いかもしれない。18時頃より雨が降り始めた。

8/8 ヒサゴ沼キャンプ場停滞

 3時に起床し、後はテント撤収するだけの体制で待機する。しかし、雨は小降りにならず激しくなるばかりである。周辺のテントも動く様子がない。今日は行動時間が短いため、しばらく様子を見るが、まだ風は南東から吹いている。9時停滞決定。

 午後より北西の風となり、低気圧は通過したみたいである。雨も小降りとなった。しかし悪いことに気象情報では停滞前線が北上し、また日本海に低気圧が発生し明後日通過する可能性が大きい。しかも北海道全域に大雨洪水警報、注意報が出ている。

 

●9/Aug/'95 ヒサゴ沼キャンプ場〜天人峡温泉

 2時半起床。昨日と同じように待機していたが、雨は降り続いている。4時半、しびれを切らして出発。ガスのため化雲岳の登りの雪渓でルートを見失い、30分程時間をロスする。化雲岳はピーク付近は平坦な地形でありどの辺りがピーク(1954m)か良くわからない。視界が悪いため、踏跡を見つけながら注意深く進むと大きな岩のシルエットが見えてくる。これが化雲石である。

 視界が悪く天候も良くなる様子もないので、残念であるが旭岳への縦走は止め一日で降りられる天人峡温泉の方へ降りることにする。ガレ場のため踏跡が良くわからず、とりあえずコンパスナビゲーションで尾根を降りていく。しばらく行くと、トレースが雨の通り道となっており少なくともルートは確認できる。しかしルートに雨水が集中し、だんだん水かさが増えてくる。雨も激しく降りだし流れは勢いを増し、水かさは膝下あたりまで増えてくる。このまま流されてしまうかもしれないという不安が頭をよぎり始めた頃、水流は逸れていった。しかし、また再び水かさが増えてくる。そのうち滝のような音が聞こえ始め、いやな予感がする。予想通り大きな流れが合流し、滝となっている。そこをなんとか迂回すると、その後水の心配をすることはなかった。針葉樹林が見え始めた頃、湿原地帯が広がった。尾根にあるため全体に傾斜している。トレース跡が幾筋も走り、地表が現れ雨水が流れていく。木道を設置するなどの対策を早急に打たないと、湿原が破壊されてしまう。

 湿原も終わり樹林帯に突入し、降りの傾斜がきつくなりだした頃から、両足の親指の爪がかなり痛みだし、ペースが落ちる。天人峡から旭川までのバスは1日2本なので、時間に気にして多少焦る。やがて沢の音が聞こえだし、滝見台にでる。
 ここから天人峡までは31曲がりのつづら折れの涙壁を降りる。数えると33曲がりであった。道路が樹林の間から見えだし、天人峡温泉に出る。少しはなれたところにバス停と営林署を兼ねた小屋があり、下山届を出す。着替えと洗濯するために温泉(@\500)に入浴し、その後旭川電気軌道バスで旭川に出る。このあと三日間雨で、函館からの帰りの列車も東北地方の豪雨で不通となり、東京まわりを余儀なくされた。最後まで雨に祟られた山行でした、

 

エピローグ

 縦走できなかったのは残念であったが、今回の山行もいろいろな人々に出逢いお世話になった。北海道の魅力は自然もさることながら、人とのふれあいにもある。来年は節目休暇がもらえるため、一ヶ月ほど滞在したい。その時は今回断念した続きのルートを歩くつもりだ。

 

              

5/Aug/'95

6/Aug/'95

7/Aug/'95

9/Aug/'95

登山口

8:15発

キャンプ場

4:30発

双子池

4:20発

ヒサゴ沼

4:25発

 

2:05

 

0:40

 

1:00

 

0:55

富良野岳

 

十勝岳

 

コスヌマプリ

 

化雲岳

 

 

1:35 

 

1:30

 

1:40

 

2:25

上ホロカメトック分岐

 

美瑛岳

 

ツリガネ山

 

第二展望台

  

 

0:25

 

1:40

 

1:05

 

1:00

キャンプ場

13:20着

ベベツ岳

 

三川台

 

滝見台

 

 

 

 

1:00

 

1:55

 

1:30

 

 

オプタケシケ山

  

トムラウシ山

 

天人峡温泉

10:30着

 

 

 

1:20

 

2:45

 

 

 

 

双子池

14:05着

ヒサゴ沼

14:20着

 

 

  

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