水晶のX形エステレル式双晶

          Batatais, Diamantina,Minas Gerais Brazil産
  

 水晶のエステレル式双晶は,日本式双晶よりもはるかに稀な存在である.
 これまで,その双晶形態を分かり易く,しかも正確に記載したものがなかったため,エステレル式双晶はかなり見逃されてきたように思われる.
 しかし3年前,本誌に“水晶のエステレル式双晶”の詳しい結晶形態が報告(高田・今井,1998)されて以降,山梨県乙女鉱山付近を中心にして,かなりのエステレル式双晶が見つかっている.
 鶴田は最近,M店が売っていたブラジル産水晶の中に偶然,十数cmにも達する大きな貫入式エステレル式双晶を発見し,購入した.
 日本産の鉱物ではなく,しかも筆者らが採集したものではないが,非常に興味深いものなので,ここに紹介することにした.
 この水晶は2個の水晶が組み合わさったもので“曲がり水晶”という名前で販売されていた.その名前の通り,見た目には曲がりくねっている(写真1 省略).
 しかし,結晶は先端の一部が割れているだけで,2個の水晶とも結晶の成長過程での結晶軸などのズレはなく,単に平行移動しているだけである.また,2個の水晶は両端とも錐面が形成されている.
 産地はブラジルの Batatais, Diamantina,Minas Geraisで,鶴田が以前に大きくて立派
な日本式双晶を買ったのと同じ産地である.この産地のエステレル式双晶が既に知られているかどうかは不明であるが,日本式双晶の産地であることは間違いない.
 この双晶は大きくしかも結晶面が不規則で,測角することは極めて困難であるが,図2に示したように,ABCDの面がすべて平行になっていて,写真3のようにAとCや,BとDで同時に光の反射が起こる.
 これによって,この2個の結晶は間違いなく貫入式のX形エステレル式双晶になっていることが証明される.この標本を改めて観察してみると,エステレル式双晶に特有な晶癖が生じていて,大きい方の結晶は偏平な菱形状の断面を持った柱状結晶になっている.
 一般に,2個の結晶が組み合わさったもので,それにエステレル式双晶特有の晶癖が観察されるものでも,確実にエステレル式双晶であるとは断定し難い.このことは,すでに乙女鉱山のエステレル式双晶の記事(高田・今井,1998)の中で述べているとおりである.
 厳密に測角してみなければ判定できないエステレル式双晶も,このようなX形の貫入双晶では,測角は不要で,写真3のように平行になっていることを光の反射で調べれば確認できる.


                         鶴田憲次・高田雅介 :ペグマタイト51号(01-6),2001年12月号 より

一つ前のページに戻る