水晶の日本式双晶とエステレル式双晶

 岐阜県恵那郡蛭川村〜中津川市にかけての花崗岩ペグマタイトの晶洞中には,煙水晶や黒水晶が普通に見られる.
 これらのペグマタイト晶洞中の水晶で日本式双晶やエステレル式双晶をなすものは,これまでほとんど知られていなかった.
 後藤は1974年,蛭川村田原の花崗岩採石場で,ペグマタイト晶洞から小さいながらも明瞭な煙水晶の日本式双晶を採集した.1984年8月20日,後藤はさらにもう1個の日本式双晶を採集した(写真1). 
 後藤から,1個の日本式双晶を譲り受けた鶴田は産状を確認するため2002年5月4日,後藤が日本式双晶を採集した採石場を訪れたが,その折り蛍石の着いたペグマタイトの小晶洞を持ち帰った.さらにまた,他の採石場からも小晶洞に伴う水晶を幾つか持ち帰った.

 帰宅後,これらの小晶洞中の煙・黒水晶を観察すると,複数の日本式双晶とエステレル式双晶を確認した.
 鶴田はペグマタイト中の日本式双晶やエステレル式双晶が決して稀な存在でなく,むしろ普通に見られるのではないか,との推論に立ち,2002年6月1日,高田と共に再び田原の採石場を訪れた.
 その結果,多数の日本式双晶と,エステレル式双晶(写真2)を見いだした

日本式双晶・エステレル双晶の産状

田原地域の花崗岩ペグマタイト晶洞から産する煙水晶の日本式双晶は,一般的に日本式双晶が示す平板状の晶癖をほとんど示さない.
 また2個体の柱面は,連続した1つの平面でなく段差がついていることが多い.
 こうしたことから,余程注意しないと日本式双晶を見つけることは難しく,長い間気付かずにいたものと思われる.
 また,エステレル双晶も特有の晶癖を示すものは殆ど見られない.
 従って,エステレル双晶を見慣れた者でない限り,田原〜苗木地域のペグマタイト晶洞中の煙水晶から,エステレル双晶を見つけることは極めて困難である.

    鶴田憲次・高田雅介・後藤慎介:ペグマタイト,02-4(55号),2002.の記事より

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