連載・モノ ()

テ レ ビ

山下 勉

このシリーズでは、一つのモノに焦点をあて、モノから人を眺めてみるとどうなるのか、に挑戦しています。

 こんにちは。私の名前、「電 視台」ていいます。日本では「てれび」ていう名前で呼ばれること多いけど、でも私、中国生まれだから、電視台の方がいいです。

 生まれてすぐ日本にやってきて、2年目になります。日本にも慣れました。はじめは、日本の言葉、何を言ってるのかまったく分からなかったけど、勉強、がんばったから、分かりました。

 今、利奈さんの部屋でお世話になってます。家には、お母さんとお父さんとお姉さんがいます。お母さんは、朝、利奈さんを起しにに来るから知ってるけど、いつも怒ってるので恐いです。お父さんとお姉さんは、部屋に来ないからあまりよく分かりません。

きっかけは、利奈さんがコウコウセイになったお祝いで、と先輩のおじいさんテレビが教えてくれました。コウコウセイになる、というのが何か、よく分からないのですが、朝になると必ず決まった服を着て、文句をいいながら慌てて出ていくので、コウコウセイっていうのは大変なのかなって思います。

 おじいさんテレビは、日本生まれで、15年も前からずっと居間というところにいるそうです。私よりもずっと大きな顔をしてるていうけど、会ったことないから、分からないです。でも、たくさんのこと、知ってます。アンテナ線を通して、いろんなこと、いつも教えてくれます。 とてもやさしいです。

私がここに来るまで、利奈さんはいつもおじいさんテレビのところにいたっていいます。ときどき、利奈さんの好きな音楽番組と、お父さんの「ヤキュウチュウケイ」ていう番組と、どっちを見るか、ケンカになったりしたけど、楽しく観てくれる時の利奈さんの顔が、とても大好きだとおじいさんテレビはいいます。
でも私がここに来たから、おじいさんテレビのところに来なくなって、少しさびしいっていいます。私も利奈さんの楽しい時の顔はとても大好きです。だからおじいさんの気持ち、分かります。でもどうすればいいか分からない。とても複雑、難しいです。

 利奈さんも、ときどきさびしい顔になります。家の人と、いつもケンカになるっていいます。なんで、人間はケンカするのか、わからない。いつも楽しくいればいいのに。楽しくいれば、それだけでみんな楽しくなる。楽しい、一番。分かってるのに、分からない。

 おじいさんテレビは、それでもいいっていいます。
それが人間なんだって。楽しいことばっかりあったら、楽しいことがあたりまえになったら、それは楽しくなくなるって。今は分からなくても、いつか分かるって。難しいかもしれないけど、そうやって今までやってこれたから。きっとこれからもやっていける。おじいさんテレビの言葉、難しいけど、でも私、おじいさんテレビの言葉、信じたい。利奈さんや、家の人みんなを信じたい。

これからも、みんなの楽しい顔、見ていきたいです。

……次号は冷蔵庫です。


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