カナディアンロッキーへツアー(一)

上西 耕三

 海外旅行に行くなら、次はカナダの国と決めていた私は、夏の長期休暇をもらうと、ルンルン気分で仕事をしていた。海外旅行も三度目となると、手続きや荷物にしてもだいたい頭に入っているし、海外に行くという精神的な不安や心配も薄らぎ、異国への興味とそこでの出会いの楽しみが大きく膨らんでいくのである。

 そんな中で私がひそかにあこがれていたのが、外国人と直接英語で話したいという夢であった。しかし、残念ながら私の英語の能力は、中学校初級程度だったのである。それに今更英会話の学校に行く勇気も時間の余裕もなく、どうしたものかと悶々(もんもん)としていたとき、職場の同僚が「今はテープやCDで初歩的な英会話を自宅で学習できるものがある」と教えてくれた。

 私は早速、大阪の書店に出向き、探していると『もう英語なんてこわくない!!』という嬉しいタイトルが目に飛び込んできた。NHK見に英会話「とっさのひとこと」というもので、CDにテキスト付のものであった。私は ワラ をもつかむ思いで買って帰ったのである。これは、NHKテレビの人気番組をCD化したもので、海外旅行のとき、必要な会話などをコンパクトにまとめられたもので、最初これなら私にも覚えられそうな予感があった。

 ところが、いざ学習して見ると、時間の消費が大きく、CD一枚につき発音練習を入れると約70分程となる。はじめは、覚えようという勢いと夢もあったが、2週間目にはテレビを観ながらCDを聞くという状態になり、それ以後は、テレビに本が加わり、聖徳太子もびっくりの学習状態になっていた。ツアー出発日が近ずくにつれて、準備や何やかやで英会話の学習も怠(おこた)りがちになりながら、それでもなんとか覚えたのは、結局買い物の時のディスカウント(値引き)の会話程度だったのである。

 7月に入り、ツアー会社と最終のコンタクトをとると、今回のツアーメンバーは10名で、男性5名、女性5名。出発は成田空港から7人。名古屋空港から私を含め三人で、ツアーリーダーは現地のカナダ・バンクーバーでお待ちしているとのことだった。

 7月16日 午後16:50分。飛行機は私達の大きな夢と期待を載せ、名古屋空港をゆっくり離陸した。私の隣に座ったのが、30代の青年で留学している彼女に会いにカナダに行くとのことで、まさに現在版ロミオとジュリエット。世の中変わったなあと思いながら、愛する人に会いにカナダに行くという彼が頼もしく、またうらやましかった。夕食も済み、私は寝る体勢に入ったが、彼は初めての海外旅行で気持ちが高ぶっているのか、リーディングライト(読書灯)の明りでしきりにガイドブックを読む彼の姿が印象的であった。

 名古屋からバンクーバーまで、約9時間のフライトも退屈はしなかったが、あまり眠むれなく、あきれかに睡眠不足で午前9時45分バンク−バー空港に降り立った。バンクーバーでツアーリーダーと成田空港組が合流し、簡単な自己紹介がすむと私達はバンクーバーから国内線を乗り継ぎ、カルガリーへ。ツアーリーダーのS氏は、30代前半・フリープロカメラマンが本業で、生粋(きっすい)のアウトドア−マンである。信頼感のアル、そしてユーモアあふれる彼のツアーリーダーぶりは、まさにカナディアンロッキーを誘(いざな)う案内人にふさわしい人物であった。

 夕刻、カナディアンロッキーの玄関とも言える美しいバンフの町に着いた。今回、私と同じ部屋になったOさんは、30代後半の気さくな青年で、日本百名山にも良く精通し、話題も多く、特に南米パタゴニアの話しをする彼の目は光り輝いている。

 夕食後、私達はバンフの町にに繰り出した。異国のおみやげ店は、観ているだけで楽しく、ショッピング欲をそそられた。ここは日本より北に位置するため、夕暮れは午後10時過ぎである。私は時差を甘く考えていた為、あとでエライ目に遭うとは知らず、異国の町をフラフラと楽しんでいたのである。

 翌日、私達はロープウェイでサルファー山の展望台(標高2300m)へ。ここから望む360度のパノラマはすばらしい。広大なカナディアンの荘厳な山々が、私達を圧倒する。眼下には三角形のカスケード山。そして、バンフの街を取り巻くようにボウ河が流れている。私はこの景観を眺めながら、カナディアンロッキーのスケールの大きさに驚くと共に、日頃、私が考えているような悩み事など、この大自然の中ではあまりにもちっぽけで、悩むこと自体バカげてきたように思えてきたから不思議である。

 下山後、私達は針葉樹林の中にたたずむ、お城のような「バンクスプリングホテル」を見学して、ボウ滝にやってきた。マリリンモンローの映画“帰らざる河”のロケ地となったと聞いて、私は日本の女優やったら誰が似合うかなぁ、と考えていたら、故夏目雅子がひらめいた。美人薄命の言葉と共に、生前の彼女の笑顔がボンヤリ浮かんでくる。私はファンの一人として、これからも決して忘れることはない、とあらためて心に誓ったのである。

・・・続く・・・


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