連載・モノ ()

冷 蔵 庫

山下 勉

このシリーズでは、一つのモノに焦点をあて、モノから人を眺めてみるとどうなるのか、に挑戦しています。

 こんにちは。あら、はじめましてですわね。
わたくし、「フリ・イザー」といいますの。サイズがちょっと大きめなのが悩みのタネなんですけども、その分包容力はありますわよ。扉も4つで、野菜室もあって、冷凍室もゆったりサイズ。一番のお気に入りは、色なんですの。スカイブルーなんて、ちょっと他にはない色ざましょ?

 縁あって、十年前からこちらのお宅にお世話になっておりますの。
お母様とお父様、それに可愛いお坊ちゃまが二人いらっしゃいます。お父様はお仕事で朝から夜遅くまで、お坊ちゃまもそれぞれ小学校と幼稚園でやはり朝から夕方まで外に出てらっしゃって、その間ずっとお母様がいろいろと家のことをしていらっしゃいますの。わたくしとも仲が大変よろしいんですのよ。

 お母様は、お昼頃になると毎日決まって「今日の夕御飯、何にしようかしら……?」と尋ねて来られますの。わたくしにとっては、冷凍室に忘れられているミックスベジタブルちゃんや、冷凍エビクンの身を案じてやまないのですけれど、お母様はお気づきにならないご様子。もう3ヶ月経つというのに…いったいいつになればって思うのですけれども、結局新聞の広告を片手に、今日もスーパーにお買い物に行かれるんですのよ……。

 お母様は時々不思議なことをなさいます。ご飯のスイッチを入れ忘れて、生暖かい生米になってたり、一度ゆがいたジャガイモ君たちを、もう一度ゆがいてみたり。この間など、豚の角煮をつくっているのを忘れてお買い物に行かれて、もう少しで火事になるところでしたわ。お父様は「角煮の確認しなきゃ」って笑っていらっしゃったけど、笑い事じゃありませんわよほんとに。

 でも、お父様もお坊ちゃまも、お母様が作られたお料理を、とてもおいしそうに食べられます。その瞬間が幸せだと、お母様はおっしゃいます。私もそのお顔を見るのがとても楽しみなんですの。そのためならわたくしなんだってして差し上げたいですわ。

 どうぞ、これからもよろしくお願いいたします、ね。

……次号は瓶(びん)ビールです。


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