連載・モノ (四)
瓶 ビ ー ル
山下 勉
このシリーズでは、一つのモノに焦点をあて、モノから人を眺めてみるとどうなるのか、に挑戦しています。
まいど。もうかりまっか?
わぃは、「ビンビ イル」てまわりから呼ばれとる。ほんまは「瓶酒 麦」いう名前があるんやけど、なんやみんなが「ビンビイル」いうよってからに、もうええわぃって、この名前になったっちゅうわけや。
わぃの仕事は、「ビイル」っちゅう液体の運搬や。会社に戻って、入るだけの「ビイル」を体につめて、あっちこっちのお店に行って、お客さんに「ビイル」を届けたら終わり。ほんでまた会社に戻って、「ビイル」をつめて……の繰り返し。そないたいそうに人に自慢できるような仕事とちゃうけど、それでもやってたらいろんなことがありよるさかい、やりがいのある仕事やで。
それにしても、人間てのは「ビイル」っちゅうのがよっぽど好きなんやな。何かしら理由つけて呑んでよる。こっちで嬉しそうな顔して呑んでるヤツがいる思たら、あっちの方じゃ沈んだ顔で呑みよるヤツもおる。さっきまで静かやな思とったヤツが、いきなり暴れだしよるし、きっと人間にとって何かよっぽどええもんが入っとるんやろな。
わぃにとったら、嬉しい顔して呑んでくれたほうが、そら嬉しいで。しんどい思いしてここまで運んできて良かったわぁって思えるんやからな。みんなにこにこ笑って呑んでくれるんやで。それだけでも嬉しいやないか。
せやけど、周りの人間に迷惑かけるような呑み方するヤツがおったら、わぃ、悲しゅうてな。できるもんやったら、そいつをはったおしてやりたいって、ほんまに思うで。
仕事が仕事なだけに、他の仲間ともよぅ話するんやけど、たまにおもろいヤツがおったりしてな。こないだも、「リンダ ビンダァ リンダビンダビンダァアァ〜」なんて歌いながら瓶のままビイルを呑んでるヤツがおったんやと。はじめ聞いたとき、なに考えとんねんそいつ大丈夫かって思たけど、よう聞いたら周りの人間も楽しくしとったらしい。人間て、やっぱよぅ分からん生きもんや。
わぃらが死ぬときは、ほんま突然や。ついさっきまで元気にしとったやつが、「ガシャーン」とばらばらにされてしもうて。わしの知り合いも、何瓶かそうやって突然死んでいきよった。わしもいつ死ぬやも分からんけどな。でもそれが瓶生っちゅうもんや。せめて悔いのないよう、今を精一杯生きていこて思うてる。
……次号はブランコです。