羊の羽伝説

両腕、両足の不自由な少年がいました。 少年は、自分ひとりの力では寝返りもうてません。
少年にはまっすぐなおじいさんと、少年のすべてを受け入れてくれるやさしい おばあさん、すこしまがったお父さん、太ったおかあさん、かわいい弟が一人、 それに少年のいうことをよくきく犬が一匹いました。
少年には大好きな友達がたくさんいました。少年は皆に大切にしてもらいながら、 いつも明るく朗らかに過ごしました。
手足が不自由なところは皆が助けてくれました。少年はそんな皆のことが大好きです。
あるとき、友達の一人が、少年に悩みを相談しました。少年はやさしく「そんなこと、 気にしなくていいよ。」と答えました。すると、なにか、本当に気にしなくてもいい という気持ちになりました。
あるとき、少年は弱虫のトラと出会いました。そして少年は、そのトラの応援をして あげることにしました。するとおどろいたことに、弱虫のトラはいつもこらしめられていた 巨人をやっつけてしまいました。
少年には、傷ついた人の心を癒したり、弱い心を奮い立たせる力があるかのようです。
ある日少年の弟が熱を出し、病院に入院することになりました。弟が家にいなくなって、 少年はとてもさみしがりました。すると少年も病気にかかってしまいました。高熱がでました。 少年は意識を失ってしまいました。
意識を失った少年の前に神様があらわれました。そして、 少年に言いました。
「あなたは、不自由な体に生まれたのに私や人をうらんだりせず、人を 勇気づけました。私のところへ来て、手伝いをしてもらえませんか。」
少年は、大好きな家族や、友達と離れ離れになるのはいやだ、と考えました。
神様はそれを見透かし、「皆と離れ離れになるのではありません、皆といつも一緒にいられる ようになるのですよ。」 「そして今まで以上に皆の力になってあげられますよ。」 「ただ、皆にはあなたが見えなくなるだけです。」といいました。少年は悩みましたが、 神様についてゆくことにしました。
するとどうでしょう、同じように熱を出して苦しんでいた 弟の容体はどんどん回復して、元気になりました。
羊は神様に従順な動物だそうです。少年はその羊に羽がついた「翔」という名前でした。
家族や友達は悲しみました。けれども、皆には少年がいなくなったような気がしません。
いつも少年がそばにいてくれているような気がします。そして、「少年のことを考えたり、 悩み事を相談すると、心がすうーっと楽になる。」そんな伝説となりました。
ただ、少年がいなくなって、あのトラだけはまた弱虫のトラにもどってしまったようです。 けれども、きっとまた勇敢なトラに戻ることができるでしょう。    
         石田俊浩 作