「奪取」真保裕一


 「奪取」は、真保裕一さんの第10回山本周五郎賞受賞作です。97’「このミステリーがすごい!」の第2位にも選ばれているそうです。

 真保裕一さんは、江戸川乱歩賞や吉川英治文学新人賞を受賞されていますが、先日新聞に真保裕一さんのことが載ったときに、「江戸川乱歩賞を取ったときに『江戸川乱歩賞もレベルが下がった』と言われたことがとても悔しかったので、今回賞がもらえてとてもうれしい」というようなことを言っておられました。
 この言葉にすごく好感が持てたので、読んでみました。

 この本は、実は偽札作りをする青年+その友達+少女+老人の4人が主人公です。
 犯罪小説で犯罪を犯す側を主人公にする、というのも異例なことですが、なんと、いつの間にかこの偽札作りの犯人達を応援してしまっている、ということにびっくりでした。

 主人公達は、純粋に完璧な偽札を作りたい、そして自分達を騙したある銀行に復讐したい、という目的で、「完璧な」偽札を作って銀行に一泡吹かせてやろうとするのです。
 主人公達の動機が結構純なので、読み進めていくと、どんどん主人公達に感情移入してしまって、いつの間にか「偽札作り頑張れ!!」と応援してしまいます。
 で、ふと「おいおい、偽札作りを応援してどないするねん」と思うのですが、本を読むとやっぱり彼らを応援してしまいます。
 このあたりが、真保裕一さんの上手いところですね。

 この本をよんでいくと、ほんとに自分でも偽札が作れるんではないか、と思えるぐらいに細かくお札のことが書かれています。思わず財布から1万円札を取り出して、じっくり見てしまいました。

 お札に関する技術的なうんちくと、息詰まる展開、主人公達の人生模様。それらが一気に読ませてくれます。山本周五郎賞受賞作だけのことはあって、とっても面白いです。