雨の日の思い出




 たにし亭の近くに新婚の頃住んでおりまして、ある夜急に雨が振って来ましたので傘をもってたにし亭へゆきました。中から大勢の笑い声、話し声がきこえ、新婚の私は、とてもガラス戸をあける勇気がなく帰って来ました。あとで主人が「入ってくればよかったのに」と残念がったのを覚えています。それでたにし亭の中は全く見たこともないのです。それも今になると残念です。ただ必ず主人がたにし亭に居ると思っていたのも不思議です。五十余年以前のことです。

2002年7月30日 山口 治子


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