三つ半の今さん

『たにし』のカウンターの一番奥の席は今さんの定位置です。ほとんど毎日、今村さんは『たにし』のその場所に座っています。独特のカバンは必ず壁のコート掛けに引っかけています。そのカバンとはブックサイズ位の大きさで手首が潜らせるような革の輪が付いているもの、表現は悪いですが、借金取りが持っているカバンでした。

たわいもない話を今さんとしていると、突然『僕は、三つ半なんだ』と言っています。また、ある時は『いまは二つなんだ』と言ってお茶割りを飲んでいます。初めは何んの事だか分かりませんでした。今さんがおばさんにおかわりをする度に、おばさんは『これで三つね』とか『今さん、これで三つ半よ』とか確認が入ります。ある時、最後の『三つ半』が終わりそうなとき、何か寂しそうだったので、僕の新しいお茶割りを半分入れてあげました。

直ぐにその後何があったかは明らか、僕がおばさんに大目玉を食ったことです。おばさんは今さんの年齢と身体を気遣って三つ半と決めていたんでした。

  2000年1月   作井 正人


やかんからお番茶を注ぐおばさん、今さんの定席


壁に掛かる今さんのカバン



本屋の中村さんとペンキ屋の石井さんといつもの場所で今さん



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