おばさんとの会話1
おばさんは決してお喋りではなく、いつもは黙々とお客さんの注文をさばいている。それでいて、冷たい感じではなく、お客さんに料理、お茶割りを手渡しながら一言声をかけていた。しかし、店が忙しいので長い会話が出来たのはお客さんが少なくなって手が空いたとき、尚かつおばさんの調子の良い時でした。ただ、おばさんは忙しくても黙っていただけで常連たちの話題については精通していたと思う。
●塩から
学生であまりお金の無かった僕は、ピンチな時はお通し(無料)だけでお茶割り5杯で合計500円の時が多かった。そんなとき、日替わりのお通しが塩からの時は嬉しかった。何故かというと、塩からだけで十分にお茶割りのつまみになったからです。
おばさんの塩からは、あまり塩辛くなくてきれいなピンク色、柚の香りが上品だった。また、中のイカが美味しくゲソが入っていなかったと思う。イカを食べきると、箸に腸を付けながら、お茶割りを飲んだものだ。そして、おばさんが台所に行ったスキを見て、裏からまわって『おばちゃん、お代わりもらえる?』と図々しくお願いしたこともよくある。
お通しが塩からの日はおばさんに、『おばさん、今日の塩からの味は丁度いいね!すごくおいしいですね。』とか、今考えると、ただで出して貰っているのに生意気に『おばさん、今日の塩からチョットしょっぱいね!』などと話した。
おばさんはそれに対して、『ありがとう』とか『いま、暑いから少し塩を多くしているのよ!』
おばさんの塩からがあまり美味しいので、作り方を聞いたことがある。
『おばさん、家で作る塩からは黒くてもっと塩辛くて、おばさんのような味がしないんだけど?』
おばさんは『墨袋は入れないで腸だけを使うのよ。それに”うち”のは塩を少ししか入れないの、だから2〜3日しか保たないのよ。』
たぶんおばさん使うイカは刺身用のものなのだと思う。
●塩抜き
イクラを頼んだときに、おばさんに塩抜きの話を聞いた。おばさんは『塩辛いものから塩を抜くときには、水じゃ塩がでていかないのよ。濃い塩水に入れてやると中から塩が出て行くのよ。』
2000年3月 作井 正人