| JAPAN HOME | Bike Platz | T-bird Diary | Rider Touring Map |

T-Bird Diary


2000年11月3日



<秋の香り・秋の色彩>


2000年11月3日

3日前に宿を予約してしまってから、その後接近してきた台風が心配されたが、どんよりとした雲の隙間から見える陽の光をたよりに出かけた。今回は思いつきの旅で一人だから、時間は自由がきいて良いが、出発の出足が鈍るのが難といえば難かもしれない。

8:00AM家を出て京滋バイパスから名神へ入り、シールドに時折かかる小さな雨粒を手で拭いながら、それでもこれからの一人旅をどう楽しもうかと期待感が沸く。滋賀県を抜ける間に一気に気温が下がる。高速道路の両側の木々や蔓草などは、どんよりと曇った空模様も手伝ってか錦秋の感じよりはむしろ冬枯れといった様子を呈している。多賀で休憩するため、サービスエリアに入ると、3連休とあって大型の観光バスがびっしりと駐車していてトイレは長蛇の列。先を急ぎたかったのでレストランでコーヒーを注文して、そこでトイレを借りた。案内してくれた若いウエイトレスさんが、「バイクですか?」と話しかけてくれる。これから大型の免許をとって、行きたいところがたくさん有る様子。是非、良い愛車に巡り会って永く乗り続けて欲しいと思う。一人旅に、こうして見知らぬ人から声をかけてもらうのは嬉しいことだ。まだ始まったばかりの旅だが、この先はきっと楽しいものになるに違いない。

往きのルートは、適当なところで高速を降りてR19へ入り、そのまま白馬まで行くつもりだった。昨夜ふと友人から、大平峠の五平餅がすばらしく美味しいと聞いていたのを思い出し、寄っていくことにする。飯田ICで降りると目の前にアップルロードという愛称の道があり、なるほど街路樹にはたわわに果実の実ったリンゴの木が植わっていて、信号待ちの度に深呼吸をしてその香りを楽しんだ。峠に行く道をガソリンスタンドで聞いたところ、この天候では大平峠越えは無茶だというアドバイスで、一旦高速道路沿いを戻るような感じで園原方面へ向かい、途中R256から大平峠を目指した。当初は飯田市から木曽へ抜けるつもりを逆の木曽路から入り、「木曽見茶屋」という茶店へ到着したのは14:30頃。天気が良ければさぞ見晴らしが良かったのだろうけれど、霧で見下ろす山々は真っ白に煙っていた。路面にこんもりと積もった落葉と息を吸い込んだとき鼻を刺激する冷気が、深まっている秋を実感させた。苦労して来た目的の五平餅は、ふっくらと適度に柔らかくて焼き目は香ばしく、ほんのりとした上品な甘さと胡麻の風味の味噌だれがかかっていて、3本一皿¥570。見るからに美味しそうなおでんは3本一皿でこちらは¥450だったが、醤油の浸み具合が京都では味わえない素朴かつしっかりした味で、大変美味しかった。ぜひ忘れずにまた訪れたい場所だ。時間さえ有ればカーブがきつく細いだけの道のようなので、今度は峠を全部走り抜けてみよう。

引き返してR19に戻り、妻籠宿あたりで渋滞はあったものの、ノンストップで白馬まで駆け上がる。天候は依然として時折小雨がぱらついていたが、遠くに見える御嶽山の山頂に雲の切れ間の奥の空の色は「生まれたての青」とでも表現したいくらい透明で清らかなセルリアンブルーで、そこから差し込む陽の光が当たり、山のその部分だけが紅葉の鮮やかな色を照らし出していた。木曽路は檜の加工品の感謝祭といった催しが至るところで開催されており、削りたての木の香りの中、どんよりした雲のしたに有るはずの清涼な青空の方へ向かうようにただ走った。

塩尻市に入ると、あちこちに有るブドウ狩りの為の観光農園から、熟した良いにおいがする。まだ目的地へ到着する以前に、思いつきの旅にしては十分すぎるほどに「秋」らしさを既に堪能していた。宿は夏にお世話になった「白馬村のユースビラ白馬とおみ」さんに再びお会いしたくて、ここに決め、着いたのが19:00PM。鍋料理と沢山のおかずに、打ちたてのお蕎麦を頂いてゆっくりと休ませてもらった。

2000年11月4日

今度の旅において唯一にして最大の目的は、「地粉(白馬産の挽きたて)を使用して自分で蕎麦を打たせてもらう」。美味しい蕎麦屋と聞いては東へ西へと食べ歩いている私は、正直いうと自分で打った素人の蕎麦を食べるくらいなら、職人さんの美味しい蕎麦が食べたいんだと言って頑なに打つことはしなかった。夏にこのお宿へ伺ったときもそう言って、いったんは断ったが、そこいらの蕎麦道場では決して使用されない、「地粉」と「挽きたて」にすこぶる興味をそそられ、一人で訪ねて来てしまった。

初めてなので打ちやすいように全部そば粉にせず、2割の小麦粉と8割のそば粉で合計500gの粉を桶にあけ、少量の湯をかけながら混ぜていくと、蕎麦の香りが立って俄然やる気が出てくる。湯は全部で200ccも使わなかったろう。みるみる粉がぽろぽろとまとまって、一気に力で揉み込むように一塊りにしていく。かなりの重労働で、全身を使い素早く作業しなければならない。気温は10℃ほどのはずが、Tシャツ姿でも暑い。そして打つこと自体が楽しい。奥様に付きっきりで指導と手助けを頂きながら、なんとかころんとしたなま暖かい団子状のものになり、素早く丁寧にのばすことにかかる。大体を手のひらで押して伸ばした後、麺棒で厚さ1mm位に伸ばすが、湯の量が多いと破けてしまうそうだ。慎重にやることにする。汗だくで伸ばした麺は直径1メートルほどもあるだろうか、それを縦に4ツ折にし、当て木で幅を決めながら重くて大きな専用の包丁で、1mm〜1.2mmを目標に切っていく。

切れたものを手に取ると、はらはらと麺がほぐれる感触で「自分の手で打った」という感激がこみ上げる。食べるのは出来たての早いほうが美味しいということで、奥様がすぐにゆがいて下さる。11:00AMから打ち始めて丁度昼食の時間に頂く。自分が打ったもの以外に、奥様が打ってくださったそば粉100%のものも、食べ比べさせて頂いた。香りが強く、こしがあってそれは最高の味だったが、打つこと自体があまりにも楽しいことなのを今回初めて気づかせてもらうことが出来たのは、大いなる収穫だ。

清涼な空気と、打ちたてのお蕎麦のおもてなしを受け、満足しきって帰るのを忘れてしまいそうになった。宿を出たのは15:00PM前だった。途中、道に迷って伊那市の商店街で名物の佃煮や鯉の甘露煮などを買ってみたり、駒ヶ根のあたりで峠に寄り道しながら帰り、名古屋の内津峠PAできしめんを食べて20:45PM。ここからノンストップで京都へ着いたのは22:30PM頃で、楽しい2日間をかみしめつつ地図を眺めて赤ワインを2杯飲み、眠った。




To Chieko

Back to Index