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T-Bird Diary


1999年2月28日


富久錦醸造所



 3年ほど前、旅先で購入したたった1本の日本酒が縁で、この<富久錦>という醸造蔵と知り合った。買ったときはそのシンプルなラベルが気になって、なにげなく手にとったのだけれど、本物のお酒の味を初めて知ったように思い、うろ覚えの名前と買った酒屋の場所から推理して、図書館にある地方の電話帳で探し当てた。

 毎年、年に1日だけ蔵を見学させてくれる日があって、今年はどうしても来たくてやってきた。兵庫県の加西市というところで、京都からは130km位走らなければならないけれど、バイクにとってはちょっとしたツーリングに過ぎない。天気は朝の内、小雪が舞ったりもしたが昼にはぽかぽかと春の陽気になった。12時30分頃到着すると、すでに大阪や神戸ナンバーの車が沢山やってきていた。

富久錦の事務所

 古くからの醸造所は、その建物自体にそれぞれ独自の酵母菌が住み着いているから、そう簡単には建物を建て替えたりはされない。この由緒ある蔵の事務所も近代的ということとはほど遠い、風情あるものだ。

粕汁  門をくぐると、粕汁を振る舞っていて私も戴いたが、焼いた塩鮭の身が入っていて味噌の風味も少しした、めずらしいものだった。粕汁とは、味噌の替わりに酒の粕を溶いて作ったスープだと思って差し支えない。京都では、粕汁は、昆布だしがベースで粕と僅かの醤油でさっぱりと作るし、具は根菜と揚げが主流だと思う。地方によっては粕汁を全くお食べにならないところもあるようで、名前が<かす>というだけに、何かえたいの知れないモノに思われるかも知れない。酒は、米と水だけで出来ているので、かすと言ってもそれは米の一部なのだから、まずいわけはない。しかしお酒に弱い人は、この粕汁だけで酔ってしまう。

醸造中の倉の中  蔵の中を案内してもらう。一歩踏み込んだだけで、ふんわりと米の蒸した香りが漂う。洗って蒸して、酵母菌と一緒にして発酵が進む工程ごとに、酒が酸味のあるさわやかな香りから、華やかな甘みを含んだ香りに変化していくのが、体感できて大変興味深かった。

醸造中の温度を測る ズラリと並んだ樽 2階の足場から1階の樽を見る

 工程の最後に、絞って透明の酒になったばかりの原酒を振る舞われた。発酵中の炭酸が、まだ少し残っていて、鮮烈な風味でこれもまた格別だ。さらに案内されて、富久錦酒造の全商品を試飲できるコーナーへ入った。私などは日頃手の出ない純米大吟醸酒を口に含むと、先程とはうって変わったまろやかな味で、沢山の種類のそれぞれに、しっかりとした個性のあるものに仕上がっていながら、皆すばらしい出来具合で、改めて来て良かったと思った。

 あまり飲んで運転に差し支えるといけないので、程々にして帰ることにしたが、早く来年にならないものかと思う1日だった。

富久錦
富久錦




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