春夏秋冬・5

天下御免の胴元

 「胴元」とは、言うまでもなく、賭博を主催して出来高の歩合を取る者のことだ。賭博の「博」とはサイコロのことである。サイコロを入れて振る竹筒を「筒」(どう)といい、これを扱うことを「筒をとる」と言う。その「筒をとる」者の背後にいて、上前をはねる元締を「筒の元」と呼んだ。これがつまって「筒元」となった。そういう元締は胴巻に大金を入れている。そこから、後には「筒元」が「胴元」と書かれるようになった。歴史的に見て、「筒をとる者」も「胴元」も、ほぼ例外なくヤクザもしくはそれに近い精神構造を持った権力者たちだった。

 現在、賭博や富クジは刑法によって禁じられている。だがこれには例外がある。特別法に基づき、地方公共団体等が施行する「競馬」「競輪」「競艇」「オートレース」「宝くじ」については、例外として違法性が阻却されることになっており、いわゆる「公営賭博」が認められている。ある書物によると、「賭博は適度に行なわれれば娯楽と射幸という人間の欲求をほどよく満たすものであり、政府あるいは地方公共団体が競馬・競輪・宝くじなどの事業を推進あるいは主催することにより、国民の欲求を吸収し、健全な運営とその収入による公共の福祉の増進を図る政策をとっている」のだそうだ。

 「競馬」「競輪」「競艇」「オートレース」は公営競技(4収益事業)と呼ばれ、これらの施行権は、都道府県と自治大臣の指定を受けた市町村などの地方公共団体のみに与えられている。いわば、そういった地方公共団体が「筒をとっている」わけだ。だが、いつの時代でも役人は直接手を汚さない。実際に「筒をとっている」のは、政府全額出資の特殊法人「日本中央競馬会」や、「地方競馬全国協会」「日本自転車振興会」「日本船舶振興会」「日本小型自動車振興会」といった公益法人(?)である。こういった公益法人には、「日本船舶振興会」の会長が、あのノーベル平和賞を渇望する慈善家、笹川良一氏であるところから見ても、歴史的な伝統が脈々と息づいていると考えてよい。

 では、その「胴元」はどこなのか。実は、「競馬」は「農水省」、「オートレース」と「競輪」は「通産省」、「競艇」は「運輸省」が胴元になっている。これにそのうち「サッカーくじ」が加わって「文部省」が胴元になるらしい。これらの胴元は、いわば「天下御免の胴元」というわけだ。だが、「文部省」が「トトカルチョ」の胴元になったなら、学校で「賭博」についてどのように教えるよう指導するつもりなのだろうか。

 おそらくは、「胴元」の精神構造も「筒をとっている者」たちのそれに準ずるはずのものである。とはいえ、何もここでは政治に立ち入るのが本意ではない。ただ、何事においても決して「目的は手段を正当化しない」ということを、この機会に今一度確認しておきたかったのだ。