春夏秋冬・6

人類はみな兄弟

 といっても、別にノーベル平和賞を狙っているわけではありません。常識的に見て、私たちはみな共通の祖先を持っているということを言いたいのです。この「私」が生まれるためには父母という二人の人間が必要ですし、また、その父母にもそれぞれ二人づつの父母が必要なのは言うまでもありません。こんなふうにさかのぼっていけば、「私」一人の先祖でも、鼠算式に増えていくのです。

 1代さかのぼれば2人。2代で4人。3代で8人。4代で16人。…10代で1024人。…15代で3万2768人。…20代で104万8576人。…25代で3355万4432人。26代で6710万8864人。27代で1億3421万7728人。28代で2億6843万5456人。29代で5億3687万0912人。30代で10億7374万1824人。…33代で85億8993万4592人となり、現在の世界人口(約50億)をはるかにオーバーしてしまいます。

 世界人口は、約3万年前に新人類(ホモサピエンス)が登場したときには何人だったのかわかりませんが、紀元前8000年頃には約1000万人だったと考えられています。その後、キリスト紀元頃には約2億8000万人、西暦1650年には約5億2000万人となり、その間の年平均人口増加数は15万人程度だったと考えられています。

 子供が生まれるまでの1世代を30年と考えれば、たとえば20代前は西暦1394年、25代前は西暦1244年となるわけですが、この割合で計算すると人口増加曲線と先祖増加曲線は28代目と29代目の間、つまり4億5000万人のあたりで交差することになります。28代目は西暦1154年、29代目は西暦1124年になります。ですから、ほぼ西暦1130年前後に、「私」の先祖は当時の世界人口と同数になるわけです。もっとも、交通機関が発達するまでは、婚姻成立範囲はほぼ1里(4キロ)四方程度だったと言われておりますから、必ずしもこんな計算だけで正確なところが分かるわけではありません。

 しかし、過去にさかのぼれば、私たちは必ずどこかで同じ祖先を持つことになるのです。かつては「万世一系の貴種」などという奇妙な言葉もありましたが、私たちだって、人類史の途中から忽然と湧いて出たわけではないのです。強いて言えば、私たちにはそれらしい系図が残っていないというだけです。親鸞聖人が、「一切の有情は、みなもって世々生々の父母兄弟なり」(『歎異鈔』)とおっしゃっているのも、このことだと思います。そんな私たちが、互いに差別しあっても、本当は何の意味もないことなのではないでしょうか。そういう意味でも、私たちは少し頭を冷やす必要があるようです。