環境マネジメントシステムの必要性

1.公害から地球環境問題へ

科学技術の進歩に伴って、我々人間の生活環境は非常に快適なものとなった。しかし、その欲求はとどまるところを知
らず、さらに快適で便利なものを要求し続けている。

「限り有る資源」は通常の生活を送るにおいて「永遠に無くならないもの」と感じられ、自然の自浄作用は万能であるか
のごとくに環境に対して悪影響を与える副産物(廃棄物)は水に流せと河や海に躊躇無く投棄される。

価格破壊によって、安くて良いモノを提供するのが企業の使命とされ、環境への配慮によるコストアップ分は価格転嫁
が難しく、それが一層、持続的発展を困難にする。

始めは目に見える環境破壊=公害が問題となった。

空の汚れ、水の汚れや廃棄物の増加、それに伴う悪臭などなど。

しかし、見えないところで確実に環境破壊は恐ろしいほどの速度で進んでいたのである。

それを、我々に見せてくれたのも科学技術の進歩であった。

南極のオゾンホールは、人工衛星が地球の写真を撮り続けて始めて確認出来た。

これが人間に衝撃を与えた。

目にすることで人間は危機感を持つ。そして改善策を講じようとする。

世界が地球環境に目を向けてから早くも30年が経過した。

1962年に出版された故レイチェル・カーソン女史の「沈黙の春」による警告から、スウェーデン・ストックホルムで197
2年に開催された第1回国連人間環境会議、そして1992年ブラジル・リオデェジャネイロにおける環境と開発に関する
国連会議(通称、地球サミット)など。

我が国について年代を追ってみると、1960〜1970年代は産業活動中心の地域限定の「産業公害」の時代であっ
た。

しかしながら、1980年以降になると環境問題がより広域化し、時間的にも空間的にも大変な広がりを見せて「地球環
境問題」へと拡大してきたのである。


2.地球環境問題

1)オゾン層の破壊

電子部品の洗浄剤やヘアスプレーの噴射剤、空調機の冷媒などで使用されていフロンの大気中への放出で、成層圏
のオゾン層が破壊される。皮膚癌、視力障害の増加及び生態系への影響等がある。


2)地球温暖化

大気中の二酸化炭素は地表からの赤外線放射をほとんど吸収して、地球を温暖化させる「温室効果」を有する。
気温の上昇、海面の上昇、気候変動、農作物への影響等がある。


3)酸性雨

自動車や工場、火力発電所などから排出される二酸化硫黄や窒素酸化物が、空気中で酸化されて降雨が酸性化
(ph5.6以下)する。
湖、沼や河川が酸性化して、魚類が死滅したり、森林や農作物、建物等へ被害をあたえる。


4)熱帯林の減少

熱帯林の減少の直接的な原因は焼畑移動耕作、林地の農用地への転用、薪炭材の過剰採取、過放牧、用材の不適
切な伐採等である。
人類の共通の財産である野生生物の絶滅、気候の安定化を損なう原因となりうる。

タイでは、1961年に36万8000ヘクタールあったマングローブ林が1988年にはその50%が消失してしまった。そ
の原因はえびの養殖池の建設という。


5)砂漠化の進行

砂漠化は、地球的な規模での気候的要因と、乾燥地における許容度を超えた人間活動(薪炭材の採取や過放牧等)
による。土壌侵蝕、灌漑農地の塩類集積及び生活基盤の破壊などの影響がある。

6)発展途上国の公害問題

発展途上国における環境衛生問題(飲料水、下水、廃棄物等)や水質汚濁問題、大気汚染問題の他、先進国の公害
輸出などによる被害も見られる。


7)野生生物の絶滅

生息環境の悪化、乱獲、侵入種の影響により野生生物は激減し、世界自然保護戦略(1980年)によると、2000年ま
でに50〜100万種の絶滅が予想されている。


8)海洋汚染

海洋の汚染は、沿岸からの恒常的な汚水、廃棄物の放出に加えて、船舶の事故や海底油田の影響によるものなどが
ある。動植物への直接的な被害に加え、最終的に人体への影響も発生する。


なお、油などの流出原因は過失と故意が上位を占める。

3.警告者達(環境管理責任者には知っておいてほしい)

●モルディブ共和国大統領の警告

モルディブ共和国は1987から1988年にサイクロンの洗礼を受け、海岸が水没の危機に見舞われた。この自然豊か
な国は、国土の最も高い標高でも2mという事情を抱えている。1987年、国連総会の席上で、大統領は次のような演
説を行った。「地球温暖化で、海面の水位が1m高くなるだけで、我が国の国土は水没という致命的な打撃を受ける。

この災害は、我々の引き起こしたものでは無く、また、我々の力で防げるものでも無い」

●南太平洋の島国、ツバル首相の警告

1993年、東京サミットの直前に訪日したツバルの首相は、当時の宮沢喜一総理大臣に訴えた。地球温暖化のもたら
す海面水位の上昇のため、我が国は水没の危機にある。この脅威はジェノサイド(殺戮)であり、これは集団殺戮の防
止と処罰に関して国連が採択したジェノサイド条約違反である。

また、同首相は、日本の大手新聞社のインタビューに答え、冷戦が終わった今、長期的に見て地球温暖化が最も重要
な安全保障問題だ。先進諸国が温室効果ガスの排出を抑制してくれないと、我が国が地球上から消滅する。その結
果、島民が生活の場を奪われて多くの環境難民が生ずる恐れがある。

●ローマクラブの警告

オーレイオ・ペッチェイ氏を中心とする民間団体であるローマクラブは、ドイツのフォルクスワーゲン基金の財政援助の
もと、若手研究グループに地球の限界に関する研究を委託した。研究メンバーはコンピュータモデルを駆使して環境、
工業生産、人口などの相互関連を通じて地球全体の将来像をシュミレーションすることに成功した。そのレポートでは、
人口増加と経済活動が地球の収容能力を上回ることを示し、資源の枯渇と生態系の悪化を予測した。これらの研究成
果は、「成長の限界」というタイトルでローマクラブに報告され、ローマクラブから世界に向けて発表された。このレポート
は大反響を呼んだ。

●米国などの反論

ローマクラブに対する非難の声が無かったわけではない。米国のハーマン・カーンらは、成長の限界は開発途上国の
経済成長を阻害し、いつまでも低開発のままにしておくことを主張するものである。

その論点の根拠は、人間の持つ優れた科学技術開発力によって成長の限界は克服出来る、というものであった。

その論法の背景には、18世紀のイギリスの経済学者トーマス・マルサスの人口論の敗北がある。

算術級数的にしか増えない食料生産は、幾何級数的に増える人口をまかないきれず、自然に人口の増加は抑制され
る。実際には、農薬や人工肥料の開発、普及によってこの論は崩壊した。

一方でカーンらの考え方はあったものの、ローマクラブの発表した成長の限界は国際的な認識を変える大きな原動力
となった。

しかし、これらの警告者達よりも以前に、世の中に教訓は存在していた。

一例を上げよう。

4.教訓(環境管理責任者には知っておいてほしい)

●中世期の共有地の悲劇

中世の牧畜は、共有する土地を誰でも自由に利用できた。皆、自己利益を最大にするため、放牧する家畜の数を増や
し共有地の牧草を無制限に利用した。その結果、共有地の草は食べ尽くされ、家畜は餓死することになる。バランス感
覚を無視した無制限な利益至上主義が生んだ地域社会の悲劇である。

●森の悲鳴

2〜3人も寄ればビールと美しい自然を賛美する歌声に包まれたドイツの森。このクリスマスツリー生育の場であり、グ
リム童話の舞台である伝説の森の木がことごとく枯れてしまった。

今、この森の直ぐ側にはアウトバーンが通り、老若男女は200kmを超えるスピードに熱中する。民家からは牧歌的な
香りのする煙突が消え、付近の住民はエアコンの利いた室内でくつろいでいる。

●アラル海の教訓

アラル海はカザフスタン共和国とウズベキスタン共和国にまたがる内陸閉鎖湖であり、1960年代までその面積は琵
琶湖の100倍、世界で4番目の湖で、水質は海水の塩分濃度の約1/4と海水魚や淡水魚、汽水魚の宝庫であった。

旧ソ連フルシチョフ時代に、湖に流入する水を灌漑用水とする大規模な開発が行われ、日本の面積に匹敵する砂漠の
農地転換が進められた。

一時、大成功と思わたこのプロジェクトは、アラル海の縮小と地下塩分が地表面に集まってしまうという予期せぬ欠陥
のために失敗に終わる。

プロジェクト自体が環境への配慮を考えていなかったため、両共和国は2重・3重の被害に会うこととなった。

湖岸にあった魚の缶詰工場では、魚を入手することが出来なくなったため、はるばる太平洋で取れた魚をシベリア鉄道
で輸送して、何とか操業している。

●湖の悲鳴

大小9万もの湖が点在する伝説の国スウェーデン。今、この国の湖からは魚はおろかバクテリアまでも姿を消そうとし
ている。他国からやって来る酸性雨により酸性化した湖や地下水は井戸の銅配管を緑青に変え、湖岸に住むブロンド
娘の美しい金髪を緑色に染めた。

石灰で湖を中和しようとする取り組みは、せっかくの美しい光景の湖を、石灰など入れて汚すなという事の重大さに気
付かない無頓着な声に阻まれている。

●原生林の悲鳴

タイ東北部の若者は訴える。何も遊びで木を切ったわけではない。都会では職に就けず、食うや食わずの境遇から脱
するために飼育用のトウモロコシを栽培する焼畑農業を行った。

原生林を伐採し、苦労して山地を開拓して、やっと家族4人が生活する基盤が出来たと思った矢先に過剰生産のため
トウモロコシが値崩れした。

●熱帯マングローブの悲鳴

海岸浸食と水害の最後の防波堤であり、最高の生態系の温床であるマングローブは燃料としても最高であるため、タ
イ内陸部の森林だけでは供給出来なくなった燃料需要のため伐採が進んでいる。

この伐採後は海老の養殖場としても最適であり、そこで養殖された海老は一大消費国日本に輸出される。

現在、日本の森林面積の約半分のマングローブの森が1年で消えている。

以上、我々にとっての警告や教訓について一例を上げた。

こういった世界の状況の中で、最初の環境関連規格であるBS7750が欧州で制定されて(1992年)、それをベースにし
てISO14000シリーズ規格(1996年)が誕生することになる。

5.地球サミット

1992年6月、ブラジルのリオデジャネイロにおいて「環境と開発に関する国連会議」(通称、地球サミット)が開催され
た。

この会議には、約170カ国の代表及び約2万人のNGOが参加した。

なお、NGOとは政府機関でない非営利の民間組織、団体のこと。この組織は環境行政を前進させる大きな力となって
いる。

NGO=Non-Governmental Organaization

地球サミットの目的は、

国連総会決議に基づき、人類共通の課題である「地球環境保全」と「持続可能な開発の実現」のため、具体的な対応
策を得ること。

成果として、

地球環境問題は、世界共通の課題という人類のコンセンサスが得られたこと。

具体的には、「リオ宣言」及び「アジェンダ21」が採択された。

【リオ宣言(環境と開発に関する宣言)】

環境と開発について、人と国家の行動の基本原則を定め、27の原則からなる。

内容の一部(原則1、16等)はISO14000の付属書に活用されている。

【アジェンダ21(21世紀に向けた人類の行動計画)】

国際機関、世界各国、事業者及び国民など、さまざまな立場の人々の取るべき行動の計画を、詳細かつ具体的に実
施に要する費用推計を含めて述べるなど、着実な実行を狙って作られている。

内容は、大気保全や砂漠化防止、貧困の撲滅、人口問題など。

この地球サミットが引き金となって各国の環境政策が促進され、加速された。

ちなみに、この翌年(1993年)に、TC207が設立されISO14000の検討が開始され、我が国では環境基本法が施
行されている。

【環境基本法】

日本の環境行政の基盤となる基本法で、リオ宣言を前提として環境負荷を可能な限り低減し、持続的に発展する社会
を構築することを目的に、公害基本法を引き継いで地球環境保護が盛り込まれている。

その他、日本では、

6月5日(第一回国連人間環境会議開催日)を環境の日とする環境庁、環境NGO支援のための地球環境基金を発足

環境監査協会(日本初の環境監査法人)発足

6.環境マネジメントシステムの必要性

1)日本と世界の環境問題の違い

今一度、先に述べた警告と教訓について考えてみることにしよう。

これらを読み返してみると、大きく2つの問題に気付かされる。

第一は、

「日本における環境問題と世界各国における環境問題は、その内容が違う」ということ。

我が国において1950年代から深刻化した公害問題は、周辺環境破壊の問題であった。※最近になって、その傾向は
変化しつつあるが。

一方、欧州などでは国が幾つも隣接している関係上、環境問題は国際問題となる。

例えば、ライン河の汚染によって被害を受けるオランダ人は、上流のドイツにクレームをつける。

西ドイツの人々はもとベルリンの壁の向こう側の地域に文句を言う。

「貴様らの煤煙のせいで、我が伝統の黒い森が立ち枯れようとしている。」と…。

そういった地域特性を無視して環境問題に取組むと、?ということになる。

第二は、

「環境問題は経済問題と深く関わっている」ということ。

JIS Q14001:1996にはこう記されている。

0序文.02

「環境マネジメントシステムの普及は、厳しさを増す法規制、環境保全を助長するための経済的政策及びその他の対
策の開発、並びに持続可能な開発を含む環境問題に対する利害関係者の関心の高まりを背景としている。」

「この規格の全体的な目的は、社会経済的ニーズとのバランスの中で環境保全及び汚染の予防を支えることである。」

これだけを取って、ISO14000シリーズ規格が経済問題と密接な関係を持つとは言えないかもしれないが、規格制定
に至る経過(BCSD:持続可能な発展のための産業人会議 → SAGE:環境に関する戦略諮問グループ → リオ宣言
→ TC207)の中で、環境問題と経済問題のバランスが常に考慮されて来たことは間違いない。

「環境問題も経済活動も共に持続性が重要であり、共に子孫に対する責任である。」 ということだ。

元々、経済活動の持続性について警鐘を鳴らした発言が、環境問題を包括する形に発展した。

なお、これを理解した上でISO14001を読まないと、理解に苦しむことになる。

2)対処療法から体質改善へ

従来の公害防止活動は、それなりの効果をあげ、多くの技術を生み出してきた。

しかし、オゾン層の破壊、地球温暖化、酸性雨、熱帯林の減少、砂漠化の進行、発展途上国の公害問題、野生生物の
絶滅及び海洋汚染などの環境問題は、局地的で地域的な問題から、国境を越えて地球規模で深刻化している。

これらの問題は、従来の後追い的な対策ではどうしようもなく、そのため先取り的で継続的な改善が求められるように
なってきた。

加えて、大量生産、大量消費、大量廃棄から環境に優しい循環型の社会経済システムへの転換が強く求められてい
る。

 

特に、汚染者負担の原則、ゆりかごから墓場までの原則、産業界の自己責任・自主活動の原則などが広く認められる
ようになった。

企業活動においては、従来の公害を減らす製法や工程の改善のような公害防止対策によって公害基準を守ることに
加えて、

・使用段階でエネルギーを節約できて公害を出さない製品の設計

・地球環境への負荷の少ない原材料や部品の使用

・製品の供給段階での負荷の減少

・製品の再使用や部材の再利用が可能な設計

・回収やリサイクルシステムの確立

 などが求められている。

 これらを実現するためには、部分的な管理システムだけでは難しく、

 経営者の関与(コミットメント)やリーダーシップ

 優れたマネジメントシステム

 を含む、「よりよい結果を保証するためのプロセス」として、環境マネジメント及び環境マネジメントシステムの重要性
が増している。

 環境に対する政策や施策と同様に、企業にも対処療法から体質改善が求められているのだ。

ISO14000の概要

1.ISOの設立

ISOは第二次世界大戦後の1947年に、民間の国際機関として、スイスのジュネーブに本部を置いて発足した民間組
織である。

国連をはじめとして、WTO(世界貿易機関)、WHO(世界保健機構)、IAEA(国際原子力機関)、ILO(国際労働機関)
等、多くの国際機関と密接な連携を取っている。

2.ISOとは

International   → 国際

Organization    → 機構

for

Standardization → 標準   国際標準化機構と訳される。

本来は、頭文字を取って「IOS]となるはずであったが、当時、同名の国際機関が存在していたため、ISOとなった。

なお、ギリシャ語のISOSも参考にされたとの説もある。

ISOSは「同じ、等しい」との意味を持ち、英語のisotope(同位元素)やisobar(等圧線)などの語源ともなっている。

3.ISO14000のベース(ISO9000からの流れ)

ISO14000'Sのベースとなった規格は、BS7750である。

BS7750とは、英国規格協会の作成した英国規格のこと。

このBS7750はBS5750をベースにしている。

ちなみに、BS5750とはZ−15(米国のMIL規格)とともに、

ISO9000'Sのベースとなった規格である。

なお、BS5750は「ある程度の規模を持つ製造業を対象に策定された規格」であり、それをベースとしたISO9000やI
SO14000'Sはある意味で大手の製造業者が理解しやすい内容となっている。

4.ISO14000シリーズ規格が制定されるまでの流れ

●世界における地球環境問題の広がり



●国連のUNEP(United Nations Environment Programme:国連環境計画)の活動



●1991年6月、地球環境サミットの成功のために、BCSDが創設される。

このBCSDには京セラの稲盛氏や日産自動車の久米社長など、日本からも7名が参加し、ISOに対して環境に関する
規格化を要請した。

BCSD=Business Council for Sustainable Development:持続可能な発展のための産業人(経済人)会議



●1991年7月、ISOではIEC(国際電気標準会議)と共同で、ISO/IEC/SAGEを設立

ISO/IEC/SAGE=Strategic Advisory Group on Environment

環境に関する戦略諮問グループ



●1992年、ブラジル・リオデジャネイロで地球環境サミット開催

地球サミット(UNCED=United Nations Conference on Environment and

Development:環境と発展に関する国連会議)



●1993年6月、第1回TC207全体会議がカナダのトロントで開催

幹事国はカナダで、日本を含む26カ国、約200名が参加した。



●1994年5月、第2回TC207全体会議開催

環境規格の規格番号を14000番台にすることが決定した。



●1995年6月、第3回TC207全体会議開催

ISO14001、14004、14010、14011、14012の5つの規格がDIS(国際規格原案)として中央事務局に登録さ
れた。

なお、ISO14020番台の環境ラベルに関する規格及びISO14040番台の「ライフサイクルアセスメント」についてのD
IS化は1997年以降に持ち越された。



●1996年9月、ISO14001発行・10月にJIS化



5.ISO14000の考え方と導入方法

(1).EMS(ISO14000)導入のメリット

1)潜在的リスクの解消

2)従業員の環境に対する意識の向上

3)責任と権限の明確化

4)組織活動の透明化

5)コストダウン

6)社会的な信頼の向上

7)企業のイメージアップ

8)マーケットシェアの拡大

中小企業が生き残り、勝ち残るための方法は各企業にとってまちまちである。

取引先との共存共栄を図るのも良し、熟練技術者に頼るのも良し、新鋭設備を導入するも良し、ISO規格などの各種
管理技法を導入するもまた良しである。

要は自社にあった策を見つけて取組むことだ。

だから、必ずしもISO規格を認証取得しなければならない必然性は無い。

しかし、企業存続のために「マネジメント・システム」を構築しようと考えた場合は、少しニュアンスが違って来る。

企業のシステムを構築するためのツールには様々なものがある。

TQC、TPM、IE手法、5S活動、KT法など日本が最も得意として来た管理手法もマネジメント・システム構築のための
ツールとなる。

だが、経営陣がそっくり入れ替わっても企業体質が変わらない、ある意味で人に頼れない目に見えない部分を構築す
るためのツールはISO規格が最適と考えられる。

それは、従来の管理手法はあくまでも「部分的なシステム構築」のための手段であり、その達成度は現場リーダーの技
量によって左右されるのに比べ、ISO規格は全体的なシステムそのものの構築を主眼に置いていることに他ならない。

目に見えない部分の「非効率」に光りを当てるのがISO規格なのだ。


(2).メリット、デメリットに振り回されるな

先に、EMS導入のメリットを述べたが、正直な話をするとメリットというものは人に教えてもらうものではない。

それに、ISO14000にしてもISO9000にしても、

「いや〜凄いですね!やります、やります、今すぐに来て下さいな!」なんてことを感じてしまうメリットなんてありませ
ん。

それに、うまい話には必ず裏がある。

しかし、それが必ずしもデメリットでないところがまた面白いんですが。

昔、3S(整理、整頓、清掃)をやりましょうと勧める際には「3Sは目に見えないムダを見えるようにする目で見る管理な
んです。現場は最上の営業マンですよ。今、やらないと3年後も同じ状態ですよ。嘘だと思ったら貴方、3年前を思い出
してくださいな。会社が見違えるほど変わりましたか?変わってないでしょ、だから今、やらないといけないんです。そん
なことも理解できないんですか!」

まあ、どっかの営業マンみたいな話だが、こんな話に乗せられて「そんなに言うならやってみようかな」という企業さんは
必ず失敗しています。

なぜならば「言われたことを、やってるだけ」だからというオチなんですが。

3Sのメリットが「ムダを見えるようにするためのステップ」だとすると、

3Sのデメリットは「やり過ぎて、3S=お掃除になってしまう」ことと「永遠に続いてメリハリが無い」ということ。

しかし、このデメリットっていうのは自社が招いた「ありがちの結果」そのものなんです。

ISO14000にしても、「何でも文書化しなければならず、重たいシステムになってしまった」とか、

「責任と権限の明確化のためにハンコが多くなった」とか「部長がいないから決裁できない」とか、

「代行者が増えた」とか、

「仕事じゃない間接工数が増えた」とかいろいろと言う方がいます。

でも、これは本屋で「これで完璧、ISO14000」なんて本を買ってきて、間違ったやり方でシステムを自分で作ってしま
った結果なんです。

それとも、不慣れなコンサルタントを選んでしまったか、仲良しな会社の事例をそっくりもらって来て失敗したのか。

ISO14000のデメリットは、費用がかかるという他はありません。

ただし、これも裏返せば信頼性の向上というメリットにつながります。

もっとも、自信があるならば、これも「自己宣言」という方法で回避できます。

あんまり、他人の言うメリットやデメリットに振り回されないように。

まず、自分がISO14000の世界に飛び込んでみることです。


(3).EMS(ISO14000)導入は当たり前のこと

これについては、EMSの必要性のところで述べていますので多くは語りません。

現実問題として、今から真摯に環境対策に取り組まなければ、自分の子供や孫の世代にそのツケを払わせることにな
ります。

考えれば、我々は高度成長時代に公害を撒き散らしてきました。

その結果、生活は豊かになったのですが、あまりにも豊かになり過ぎました。

振り返れば、高度成長期を含めて最近まで、環境に対して真面目に取り組み、金を使い、将来のことを考えて企業運
営をしてきたところがどれだけあるのでしょうか。

今、皆さんはその何もしてこなかった「先人のツケ」を払っているのかもしれません。

しかし、この先人からのツケに皆さんのツケをプラスして、子供に負担させることは致命的なことであり、それは自然の
みならず人類の死につながります。

だから、今からやらなければならない。

どこかの政治家みたいに、子供が親の面倒を見るのは当たり前という論法は、こと環境については当てはまりません。



審査登録制度の概要と受審の心得

1.審査登録制度とは

ISO14000に取り組む場合、第三者機関(審査登録機関)による審査を受ける方法と、自己宣言を行う方法の2通り
がある。

自己宣言の場合、ISO14001の要求について「自分の会社では完璧にやってます」ということを声高らかに宣言する
だけなので、楽で費用もかからないと錯覚してしまいそうだが、信用してもらうためには相当の努力が必要になる。

誰もが認める存在になるためには欧州CEマーク表示規制のように、しかるべき代理人をたてて証明を得たり、アカウ
ンタビリティのために環境報告書を作成したりしなければならない。

T自動車やIY堂のように「審査登録しなても大丈夫、ISOなんていらない」と言えるところは、非常に少なく一握りのとこ
ろ。

 でも、T自動車だって「ISOなんていらない」と言えるのは日本だけだったりする。

自己宣言については、行政などがISO14001に地域の特性を加味して上乗せ横だし(拡大)のパフォーマンス基準を
含めた「京都スタンダード」などを作成し、独自に監査を行って登録して府民に公開するなどの施策を実施しないことに
は普及しない考え方であろう。

 

しかし、中小企業などについては資金面で弱いところもあり、EMSを構築したいが審査登録のための費用が捻出でき
ないという現実もある。

行政機関には、是非ともこのあたりを考慮していただきたい。

これは、ISO14001を取得している行政機関においても「プラスの環境側面」として有利に働くはずである。

少し話がそれたが、よく聞くISO14000の受審というのは、認められた第三者機関(審査登録機関)によりISO1400
1の規格を審査基準として審査を受けるということである。

先にも述べたが、ISO14001には52の「やってください」という要求事項がある。

これに対して企業が「このようにやる」と決めてそれをルール(文書化)し、そのルールどおりに実行して、その証拠とし
て実行の記録を残す。

審査では、認められた審査員が企業の決めたルールがISO14001の要求事項をすべて網羅しているか、それが皆
に理解されて実行されているか、また、その記録はあるか等についての確認が行われる。


2.審査を受ける前に

1)ISOで会社を変える、ISOに会社を変えない

 会社の既存のシステムについて、何を変えるべきか、何を変えてはいけないのかを明確にする。

2)目的と手段の理解

 ISO14001の認証取得は生半可なことでは出来ない。したがって、審査まではISOを目的として突き進むことが大
切。

ISOをよく理解した上で、それを手段として活用する方が得策と言える。

3)継続的にかかる費用負担

ISO14001の審査後も毎年、維持監査が行われ、3年に一度は更新審査が行われるため、ISO経費を固定費として
考える必要がある。

4)ISO14001ですぐに会社は良くならない

 

ISO14001はマネジメント規格であり、環境に関する仕事のしくみを定めたものである。だから、即効性はない。

しかし、体質強化を期待できるのは確か。認証取得は約1年とし、その後にゆっくりと良い状態へと展開するべき。

5)他社の事例を参考にしない

 

他社の事例を参考に出来るようになるためには、ISO14001の規格に精通していることが絶対条件となる。

生半可な知識で他社の事例を真似するだけだと、全くしっくりこないシステムが出来上がってしまうことになる。

娘がジャニーズJrのファンだからと、同じ髪型にして同じ服を着ても全く似合わないのと同じ。

カッコイイ服を着たければ、お腹をへこませること。まずは、普段着からです。


3.審査登録機関の選定

1)審査登録機関にとって企業はお客様

 審査機関は審査をするところであり、審査員は先生と呼ばれる。

だから、勘違いしているところが多いのだが、審査登録機関にとって企業はお客様なのだ。

企業に営業マンを呼んで見積りさせて、ちゃっかりと助言をもらうことが必要。

 こういったところの対応の仕方に、その審査登録機関の姿勢が見られたりする。

2)疑問点は解消しておく

 

審査の方法や、規格の解釈のしかたなど審査登録機関に問い合わせると親切に教えてくれる。

3)審査範囲の決定

 

審査登録機関との契約までに、どの組織やサイトで受審するのかを決めておく。この審査範囲(従業員数も含めて)で
審査費用も変わってくる。


4.審査準備

1)社長がISO14001の取得を宣言する

 いわゆる社長命令の形を取る。

全従業員を集めてキックオフ大会などを開催して、担当者と受審時期、協力しない奴はただじゃおかん!と宣言する。

2)キーパーソンを選任する

 年齢や役職で選ぶのではなく、EMSのエキスパートと呼べるようなレベルに達する見込みのある人材を選任する。

そんな人材は仕事もバッチリ、バリバリとやるのでISO選任にするのを躊躇するかもしれないが、出来る奴は出来るの
だ。

3)キーパーソンの資質

 大雑把だけれども、仕事はキッチリとやる人。ゆっくり早くが極意。意見の違いを楽しめて、決断力がある人。

生真面目で文書をしこしこと作成するのが好きな人は向いていない。

4)ISO事務局をつくる

 

ISOをやる人を各部、各課に置いて浸透させるとともに、事務局としてISOに日を決めて、たとえ1週間に1時間であっ
てもISOのことだけを検討する時間を持つ。

5)審査までのスケジュールをたてる

 

ISO14001の審査日を入れたスケジュール表を作成して進捗状況管理を行う。

スケジュール表は細分化して実行計画とし、誰が何をどのような方法で何時までに行うかを目標管理する。

6)現状を壁新聞などで全員に知らせる

 

ISO14001のキックオフ大会後、1カ月もすれば担当者以外はISOの存在すら忘れてしまう。

そんな人達に、少しでも取り組み状況を知ってもらうためにも壁新聞などを食堂に張って周知徹底を図る。

壁新聞はISOP(イソップ)と名付けよう。

なお、非協力的な人ほど「何にも聞いてないよ」ってなことを言いたがるので、その牽制にも役立つ。

7)外部者による監査を受ける

 

ちゃんとやっているつもりでも、不安で一杯になってしまう。そんな時は、外部者による監査を受けるのも手。

審査登録機関には予備審査などがあるが、定期的にコンサルタントなどによる監査を受けておくことも大切。

非協力的な人に対する外圧にもなってもらう。


5.審査までのスケジュール

マネジメントサポート社の6Sコンサルティングより

1)導入STEP

(1)現状把握、仕事の棚卸、改善

(2)推進体制づくり

  品質管理責任者の選定

  推進チーム結成:リーダー及びメンバー

  ISOの日及び時間の決定(毎週1回の勉強会)

(3)審査登録機関の選定

(4)スケジュール作成:予備審査、初回訪問、本審査受審日の決定

(5)キックオフ大会

2)現状把握STEP
・社内業務と関連文書、記録等の関連付け表の作成(全体業務及び個別業務)



  ※誰が、どんな場合に、何をするか

(2)組織機能の明確化:組織図の作成

(3)責任と権限の明確化:職務分掌表の作成

(4)ISO的な責任と権限の明確化:要求事項と関連部門マトリクス作成

(5)既存文書の抽出:社内規定類、作業指示書、検査基準書、外部文書の一覧表の作成


3)社内文書類の作成STEP

(1)社内規定(レベルB文書)の作成
・品質マニュアルの作成(レベルA文書)の作成
・作業指示書類(レベルC)の作成
・内部品質監査員、検査員、計測機器校正担当者、特殊工程従事者の任命
・下請負契約者の評価選定の実施
・社内の計測機器類の校正の実施
・文書管理台帳の作成及び文書の配布
・内部品質監査の実施:文書上の手順のヒアリングのみを実施し、受け答えすることで文書と現場の整合性を確認する
・文書審査の実施


4)運用STEP
・文書化したシステムの実行と記録の整備 ※約1カ月の運用
・内部品質監査の実施:ヒアリング及び現場巡回を実施し、文書化したシステムの遵守状況の確認及び文書と現状の
整合性と乖離部分の把握を行う
・文書と現状が乖離して整合性がとれていない部分(この部分は文書を改訂する)を除いて是正処置の開始
・マネジメントレビューの実施
・社内文書類の改訂
・改訂後の文書化したシステムの実行と記録の整備 ※約1カ月の運用
・内部品質監査の実施:ヒアリング及び現場巡回を実施し、文書化したシステムの遵守状況の確認を行うとともに前回
の内部品質監査のフォロー及び予備審査演習も兼ねる
・是正処置及び予防処置の開始
・マネジメントレビューの実施



5)最終調整STEP
・審査登録機関への品質マニュアルの提出
・予備審査演習 ※繰り返し
・予備審査の受審
・予備審査で指摘のあった不適合の是正
・予備審査の結果をもとにマネジメントレビューの実施
・初回訪問
・本審査演習 ※繰り返し
・本審査の受審
・本審査で指摘のあった不適合の是正



(10)認証取得

6)フォローアップSTEP
・内部品質監査員の養成
・定期的な教育訓練
・定期的な内部品質監査の実施
・維持審査の準備(演習)
・更新審査の準備(演習)



6.受審の心得

1)予備審査

 受験に例えるならば、模擬試験のようなもの。本審査前に必ずしも受審する必要は無いのだが、予行演習としては最
適である。

(原則は駄目だが)審査員に対してどんどん質問してもよい。

自信のないところや、規格の解釈について審査登録機関に確認しておきたい個所などを、この日に解決しておく。


2)本審査

本審査については、

 環境マネジメントシステムの全体的な運用状況

  遵法性に関する環境マネジメントシステムの運用状況

  環境マネジメントシステムの各部署(各現場)での運用状況

 

について、

手順書の確認、

ヒアリング、

現場巡回及び

記録の確認 によって実施される。

ここでは、原則として質問は禁止。重大な不適合があると追監査となってしまう。


3)受審の心得

 ・審査員は先生ではないことを理解する。

 ・審査員の質問が理解できない場合は、ちゃんと聞き返す。

 ・審査員の指摘について納得できない場合は根拠を確認する。ただし、ケンカはしない。

 ・審査員に対して必要以上にペコペコしない、むやみに謝らない。

 ・審査の進行を意図的に妨害しない。

 ・自部門で回答できない質問については答えなくてもよい。

 ・現場審査などでは審査員の安全に配慮する。

・ぶっちゃけた話はしない。

 ・応援協力者が後ろから切り付けるような真似はしない


4)受審テクニック

・審査員の質問をよく聞き、質問されたことについてのみ穏やかに答える。審査は事例発表会ではない。また、曖昧な
表現はしないこと。



・審査員の漠然とした質問に答えない。質問の範囲が広すぎる場合は、切り返して質問の範囲を狭めるように仕向け
る。

 ・審査員が見解を述べたならば、その理由を尋ねてみる。

 ・審査員の私見に対しては「ご意見として賜りました」と答える。

 ・自分の回答に誤りがあることに気が付いたら、躊躇せずに訂正する。

 ・文書や記録などを提示しながら説明したり回答したりする。

 ・不適合の指摘があった場合は、必ず根拠となる規格の要求事項を確認する。

以上