ISO14000
地球環境問題とは

科学技術の進歩に伴って、我々人間の生活環境は非常に快適なものとなった。しかし、その欲求はとどまると
ころを知らず、更に楽で便利なものを要求し続けている。

「限り有る資源」は通常の生活を送るにおいて「永遠に無くならないもの」と感じられ、自然の自浄作用は万
能であるかのごとくに環境に対して悪影響を与える副産物(廃棄物)は水に流せと河や海に躊躇無く投棄され
る。

価格破壊によって安くて良いモノを提供するのが企業の使命とされ、環境への配慮によるコストアップ分は価
格転嫁が難しく、それが一層、持続的発展を困難にする。始めは目に見える環境破壊=公害が問題となった。

空の汚れ、水の汚れや廃棄物の増加、それに伴う悪臭など。しかし、見えないところで確実に環境破壊は恐ろ
しいほどの速度で進んでいたのである。それを見せてくれたのも科学技術の進歩であった。

南極のオゾンホールは、人工衛星が地球の写真を撮り続けて始めて確認出来た。これが人間に衝撃を与えた。
目にすることで人間は危機感を持つ。そして改善策を講じようとする。

世界が地球環境に目を向けてから早くも30年が経過した。

1962年に出版されたレイチェル・カーソン女史の「沈黙の春」による警告からスウェーデン・ストックホ
ルムで1972年に開催された第1回国連人間環境会議、そして 1992年ブラジル・リオデェジャネイロ
における環境と開発に関する国連会議(通称、環境サミット)など。

以上、大雑把に環境問題を論じたが、知識を整理するためにここで地球環境問題の構図と現状について考えて
みたい。

地球環境問題の構図と現状

地球環境問題は、「その影響が地域の身近に起こるもの」から、「地球的な広がりを有するもの」まで様々で
ある。

「環境白書」(昭和63年度版)では地球環境問題を、

「地球的規模の環境問題」

「国境を越える環境問題」

「開発途上国の公害問題」の3つに類型化するとともに、

次の8種の地球環境問題を提起している。

1.オゾン層の破壊

電子部品の洗浄剤やヘアスプレーの噴射剤、空調機の冷媒などで使用されているフロンの大気中への放出で、
成層圏のオゾン層が破壊される。皮膚癌、視力障害の増加及び生態系への影響等がある。

2.地球温暖化

大気中の二酸化炭素は地表からの赤外線放射をほとんど吸収して、地球を温暖化させる「温室効果」を有す
る。気温の上昇、海面の上昇、気候変動、農作物への影響等がある。

3.酸性雨

自動車や工場、火力発電所などから排出される二酸化硫黄や窒素酸化物が、空気中で酸化されて降雨が酸性化
(ph5.6以下)する。湖、沼や河川が酸性化して、魚類が死滅したり、森林や農作物、建物等へ被害をあたえ
る。

4.熱帯林の減少

熱帯林の減少の直接的な原因は焼畑移動耕作、林地の農用地への転用、薪炭材の過剰採取、過放牧、用材の不
適切な伐採等である。人類の共通の財産である野生生物の絶滅、気候の安定化を損なう原因となりうる。

5.砂漠化の進行

砂漠化は、地球的な規模での気候的要因と、乾燥地における許容度を超えた人間活動(薪炭材の採取や過放牧
等)による。土壌侵蝕、灌漑農地の塩類集積及び生活基盤の破壊などの影響がある。

6.発展途上国の公害問題

発展途上国における環境衛生問題(飲料水、下水、廃棄物等)や水質汚濁問題、大気汚染問題の他、先進国の
公害輸出などによる被害も見られる。

7.野生生物の絶滅

生息環境の悪化、乱獲、侵入種の影響により野生生物は激減し、世界自然保護戦略(1980年)によると、
2000年までに50〜100万種の絶滅が予想されている。

8.海洋汚染

海洋の汚染は、沿岸からの恒常的な汚水、廃棄物の放出に加えて、船舶の事故や海底油田の影響によるものな
どがある。動植物への直接的な被害に加え、最終的に人体への影響も発生する。

以上、これらが現在、地球が抱えている環境問題の概要である。

では、具体的にはどうなのか。

以下に、世界各国で起こった「教訓」、「警告」と成りうる事例を上げる。

少々、ショッキングな内容のものもあるが、地球環境問題へ取組む前に読んでもらいたい。

警告者達

●モルディブ共和国大統領の警告
モルディブ共和国は1987から1988年にサイクロンの洗礼を受け、海岸が水没の危機に見舞われた。この自然豊か
な国は、国土の最も高い標高でも2mという事情を抱えている。1987年、国連総会の席上で、大統領は次のような演
説を行った。「地球温暖化で、海面の水位が1m高くなるだけで、我が国の国土は水没という致命的な打撃を受ける。
この災害は、我々の引き起こしたものでは無く、また、我々の力で防げるものでも無い。」

●南太平洋の島国、ツバル首相の警告
1993年、東京サミットの直前に訪日したツバルの首相は、当時の宮沢喜一総理大臣に訴えた。地球温暖化のもたら
す海面水位の上昇のため、我が国は水没の危機にある。この脅威はジェノサイド(殺戮)であり、これは集団殺戮の防
止と処罰に関して国連が採択したジェノサイド条約違反である。また、同首相は、日本の大手新聞社のインタビューに
答え、冷戦が終わった今、長期的に見て地球温暖化が最も重要な安全保障問題だ。先進諸国が温室効果ガスの排出
を抑制してくれないと、我が国が地球上から消滅する。その結果、島民が生活の場を奪われて
多くの環境難民が生ずる恐れがある。

●ローマクラブの警告
オーレイオ・ペッチェイ氏を中心とする民間団体であるローマクラブは、ドイツのフォルクスワーゲン基金の財政援助の
もと、若手研究グループに地球の限界に関する研究を委託した。研究メンバーはコンピュータモデルを駆使して環境、
工業生産、人口などの相互関連を通じて地球全体の将来像をシュミレーションすることに成功した。そのレポートでは、
人口増加と経済活動が地球の収容能力を上回ることを示し、資源の枯渇と生態系の悪化を予測した。これらの研究成
果は、「成長の限界」というタイトルでローマクラブに報告され、ローマクラブから世界に向けて発表された。このレポート
は大反響を呼んだ。

●米国などの反論
ローマクラブに対する非難の声が無かったわけではない。米国のハーマン・カーンらは、成長の限界は開発途上国の
経済成長を阻害し、いつまでも低開発のままにしておくことを主張するものである。その論点の根拠は、人間の持つ優
れた科学技術開発力によって成長の限界は克服出来る、というものであった。その論法の背景には、18世紀のイギリ
スの経済学者トーマス・マルサスの人口論の敗北がある。算術級数的にしか増えない食料生産は、幾何級数的に増え
る人口をまかないきれず、自然に人口の増加は抑制される。実際には、農薬や人工肥
料の開発、普及によってこの論は崩壊した。

一方でカーンらの考え方はあったものの、ローマクラブの発表した成長の限界は国際的な 認識を変える大きな原動力
となった。

しかし、これらの警告者達よりも以前に、世の中に教訓は存在していた。一例を上げよう。


教訓

●中世期の共有地の悲劇
中世の牧畜は、共有する土地を誰でも自由に利用できた。皆、自己利益を最大にするため、放牧する家畜の数を増や
し共有地の牧草を無制限に利用した。その結果、共有地の草は食べ尽くされ、家畜は餓死することになる。バランス感
覚を無視した無制限な利益至上主義が生んだ地域社会の悲劇である。

●森の悲鳴
2〜3人も寄ればビールと美しい自然を賛美する歌声に包まれたドイツの森。このクリスマスツリー生育の場であり、グ
リム童話の舞台である伝説の森の木がことごとく枯れてしまった。今、この森の直ぐ側にはアウトバーンが通り、老若
男女は200kmを超えるスピードに熱中する。民家からは牧歌的な香りのする煙突が消え、付近の住民はエアコンの
利いた室内でくつろいでいる。

●アラル海の教訓
アラル海はカザフスタン共和国とウズベキスタン共和国にまたがる内陸閉鎖湖であり、1960年代までその面積は琵
琶湖の100倍、世界で4番目の湖で、水質は海水の塩分濃度の約1/4と海水魚や淡水魚、汽水魚の宝庫であった。
旧ソ連フルシチョフ時代に、湖に流入する水を灌漑用水とする大規模な開発が行われ、日本の面積に匹敵する砂漠の
農地転換が進められた。一時、大成功と思わたこのプロジェクトは、アラル海の縮小と地下塩分が地表面に集まってし
まうという予期せぬ欠陥のために失敗に終わる。プロジェクト自体が環境への配慮を考
えていなかったため、両共和国は2重・3重の被害に会うこととなった。湖岸にあった魚の缶詰工場では、魚を入手する
ことが出来なくなったため、はるばる太平洋で取れた魚をシベリア鉄道で輸送して、何とか操業している。

●湖の悲鳴
大小9万もの湖が点在する伝説の国スウェーデン。今、この国の湖からは魚はおろかバクテリアまでも姿を消そうとし
ている。他国からやって来る酸性雨により酸性化した湖や地下水は井戸の銅配管を緑青に変え、湖岸に住むブロンド
娘の美しい金髪を緑色に染めた。石灰で湖を中和して生き返らせようとする取組みは、せっかくの美しい光景の湖を、
石灰など入れて汚すなという事の重大さに気付かない無頓着な声に阻まれている。

●原生林の悲鳴
タイ東北部の若者は訴える。何も遊びで木を切ったわけではない。都会では職に就けず、食うや食わずの境遇から脱
するために飼育用のトウモロコシを栽培する焼畑農業を行った。原生林を伐採し、苦労して山地を開拓して、やっと家
族4人が生活する基盤が出来たと思った矢先に過剰生産のためトウモロコシが値崩れした。

●熱帯マングローブの悲鳴
海岸浸食と水害の最後の防波堤であり、最高の生態系の温床であるマングローブは燃料としても最高であるため、タ
イ内陸部の森林だけでは供給出来なくなった燃料需要のため伐採が進んでいる。この伐採後は海老の養殖場としても
最適であり、そこで養殖された海老は一大消費国日本に輸出される。現在、日本の森林面積の約半分のマングローブ
の森が1年で消えている。

以上、我々にとっての警告や教訓について一例を上げた。

こういった世界の状況の中で、最初の環境関連規格であるBS7750が欧州で制定されて(1992年)、それをベースにし
てISO14000'S(1996年)が誕生することになる。

日本と世界の環境問題の違い

今一度、先に述べた警告と教訓について考えてみることにしよう。
これらを読み返してみると、大きく2つの問題に気付かされる。

第一は、日本における環境問題と世界各国における環境問題は、その内容が違うというこ と。
我が国において1950年代から深刻化した公害問題は、周辺環境破壊の問題であった。
※最近になって、その傾向は変化しつつあるが。

一方、欧州などでは国が幾つも隣接している関係上、環境問題は国際問題となる。
例えば、ライン河の汚染によって被害を受けるオランダ人は、上流のドイツにクレームをつける。
西ドイツの人々はもとベルリンの壁の向こう側の地域に文句を言う。
「貴様らの煤煙のせいで、我が伝統の黒い森が立ち枯れようとしている。」と…。
そういった地域特性を無視して環境問題に取組むと、?ということになる。

第二は、「環境問題は経済問題と深く関わっている」ということ。

JIS Q14001:1996にはこう記されている。

0序文.02
「環境マネジメントシステムの普及は、厳しさを増す法規制、環境保全を助長するための経済的政策及びその他の対
策の開発、並びに持続可能な開発を含む環境問題に対する利害関係者の関心の高まりを背景としている。」
「この規格の全体的な目的は、社会経済的ニーズとのバランスの中で環境保全及び汚染の予防を支えることである。」

これだけを取って、ISO14000'S規格が経済問題と密接な関係を持つとは言えないが、規格制定に至る経過(BCS
D:持続可能な発展のための産業人会議 → SAGE:環境に関する戦略諮問グループ → リオ宣言 → TC207)の中
で、環境問題と経済問題のバランスが常に考慮されて来たことは間違いない。

「環境問題も経済活動も共に持続性が重要であり、共に子孫に対する責任である。」ということだ。
元々、経済活動の持続性について警鐘を鳴らした発言が、環境問題を包括する形に発展した。
これを理解した上で、ISO14000'S規格を読まないと、理解に苦しむことになる。