もう戦争ではない

               大田 修

 

フセインの長男が指揮する

精鋭共和国防衛隊六個師団七万

二男が鍛えぬいた

特別共和国防衛隊五旅団一万余

フセインの誇る

使命に燃えた最新鋭何万の軍隊 

心身共に鍛え抜かれた軍隊が消えた

地下に消えるには余りにも多過ぎ

空に飛び去るには米軍の制空権は完璧だ

この謎をどう解くのか

アメリカの理不尽さに反発し

イラクの抵抗を期待していたぼくには

信じたくない事実

 

イラク軍がかすかに米軍戦車を発見した時

既に米軍の地上と上空から三点測定は完了

数秒の後にイラク軍に降り注ぐ

何千発のクラスター爆弾

数十メートルの範囲に

瞬時600個の子爆弾が広がり爆発する

飛び散る1Cuほどの鋭い破片は

四pの厚さの鋼鉄さえ貫く威力を持ち

総ての生き物は殺傷される

核兵器ではないがそれ以上の虐殺の兵器

何万という屍骸が

一瞬のうちに 装甲車・戦車の内外に

砂漠の塹壕に

累々と連なり重なり

うめき声すら聞こえない

 

 

 

 

米軍認可の

六〇〇人を超える報道陣には

この大量虐殺は

伝えられない

映せない

彼らの伝えるものは

遠い爆発の望遠レンズで見た煙硝と

死傷した市民の映像の一部だけ

報道写真を探しまわって

唯一「AERA」に一枚

掲げた白旗は棒にへばりつき

首のない身体に

蜂の巣のように穴のあいたイラク兵二人

塹壕にうずくまる写真を見つけた

どのルートでか かろうじて

ぼくらの目に触れたイラク兵の死体

 

爆撃され殺される側の恐怖を伝える者も残さぬ

完全に隠蔽された皆殺し戦術は

もう戦争ではなく

計算され尽くしたジェノサイト

正義など物語る資格はない

 

ぼくの想像が幻想であること祈っている

 

注 genocide=集団虐殺

人はクラスター爆弾を、悪魔の兵器と言うが
作ったのは、人間だ!


炸裂したクラスター片は高速であらゆるものを貫き、

人体の軟部組織と器官を冷酷に切り刻む。

破片は圧力波を発生し小さな断片さえ、

脾臓を裂くか、腸が爆発する。これらの爆弾は

生き物皆殺しのために人によって設計された。

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