風の物語

 

        しげよし

 

 

人はどうしようもなくなった時

空を見上げる

空は目に飛び込んできて

体中に溜まった

悲しみを

すぅーっと吸いとってくれる

 

それが青い空なら

生きているんだなぁー と

つくづく思う

母さんに似た声が聞える

 

 

 

 

 

 

 

今日

ぼくの頭上をゆうゆうと

うねりながら

渡っていく雲は

いくつもの大地の物語を包んで

甘いような

ハッカのような

黒いような

赤いような

不思議な匂いがする

 

風は大地の上を旅して

いつも目障りなものがあった

それは

国家における国民であったり

都市における市民であったり

町における町民であった

 

 

 

 

風は

その欲望の腐敗した匂いが

たまらなく嫌だった

だからタイフーンや

ハリケーンに姿を変えて

気の向くまで吹き飛ばすのだった

 

しかし、その傲慢な群れから

風の心を捉えて離さない幽かな光に

出会うことがある

街の影から

じっと風に向って手をさし出して

いつもその瞳は熱く涙に潤んでいた

 

 

 

 

そんな時

風は

立ち止まり

大きく旋回しながら

愛らしいひとつの魂に話しかける

 

人はどうしようもなくなった時

空を見る

青い大空の下を

風のボヘミアンが旅行く日

また小さな物語が聞える

 

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