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京都 黒谷 安らぎの 光 静かに そらへ |
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まごころ かみがしげよし 「お地蔵さんは ありがたいものです。」 「拝むばっかりではあきません」 「お水をかえて・・・」 老婆は持ってきたポットの水を 空き瓶に差した 菊の花に静かに注ぐ 濃い緑葉はむさぼるように ごくごくと水を呑んだ 真言の曼陀羅、基壇のひときは高い彼方に 大日如来は輝いている ここに地蔵の姿を見つけることは難しい 胎蔵堺の宇宙をさすらう仏・・菩薩 仏の世界に燦然と輝く秩序と階級 贅をつくした真理の芸術 |
野の仏の数えられないほどの多くは 草に覆われ、土に埋もれた さすらいの地蔵菩薩 地上の数えられないほどの多くの魂は 民草という雑草に過ぎない いつも いつも 願い事が、頭から肩から 重い喘ぎになって暮らしている |
老婆の艶やかな喜びは しなやかな視線で石の仏を撫る 温かい蒸気が小さな祠に満ちて 一筋のうずまきとなって天へ昇る 「私は幾度も、幾度もお地蔵さまに 助けてもらいました・・・ありがたいことです」 「ありがたいことです」 この世には、一かけらの救いの無いことを 嘆きながら、あの世へ旅だっていった母は 今ごろ地蔵様に何を話しているのだろう 1991.12.6 門前町にて |
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