旅 そして 詩 |
私が小学生の頃、父は口癖のように「支那には四億の民がある」といっていた。漢民族と宦官と辮髪そして、 宮廷の貴女の纏足、貧民の子の売買。これらすべてのあやふやな知識をもってこの大陸の旅についた。 そこに見たものは、人民と言われる人々のたくましい生活力と決して追い詰められない豊かな悠久の時だった。 |
目次へもどる。
虎 丘 春秋戦国の夢を載せて 虎丘塔は空のかなたを見ていた 呉王の見果てぬ想いを秘めて 池深く眠る三千の剣 池の橋を今一人っ子達が 嬉々として飛び回る この国の元気を旅人は 聞いているのか 観前街 人と人との間を街路が走る 春節の喜びを赤や黄色 目をひきさく原色の洪水 唾と甲高い生き様が街を揉み上げる 路上にいざる旅芸人 人々が夕日を赤く染め始めた
|
蘇州・その旅 運河 曇よりとした水を曳いて 砂糖キビを山と積んだジャンクが 遥かにながく長く連なる 点々とボートピープルの小さな影 人々の声はなぜか聞こえない けれど水は確かな波紋をうねらせ 運河を抜けていった 盤 門 運河を見下ろす盤門城閣 東から呼びかける瑞光塔の声は 千五百年の木霊を返す 幾万の民を見据え引き留め 喜びを悲しみを水路に写した呉門橋 盤門閣上に雑草は強く生えていた |
1997.2 |