檜と草花文様


檜と草花文様 訪問着
徳川家康所用の胴服とされている物の意匠を写したものです。
裾には浅葱色の染分けが施され、そこから、檜と思われる針葉樹が描かれています。
裾の、浅葱色の部分には、紫陽花や撫子、笹等が墨で描かれ、檜の幹と葉は絞りで
染め出し、更に墨で細部が表現されています。

当時の辻ヶ花染とは幾分異なると思われますが、この着物の染め工程の一部を紹介します。


草稿・色見本


白生地 地染め済


青花あたり
青花(帽子花)の色素で生地に下書きをします。
青花の色素は、水洗いで消えますので、
染物の下書きに使われます。


糸入れ 色番付け
あたりに沿って、絞る為の糸を入れて
いきます。
染める前の水元(水洗い)であたりが
消えてしまいますので、この段階で、
全ての柄に糸を入れ、色番を付けて
いきます。


ねよせ
糸入れされた部分を寄せていきます。
生地が慣れて、綺麗に整うまで何度も繰り返します。
この部分を境に、染める部分だけ外に出し、染めない部分は中にしまいます。


桶(胴)
大きな部分の染分けや、同色で数多
い部分を染めるときに、桶を使います。
桶の縁に沿って紙を貼り、桶が汚れ
るのを防ぎます。
後に他の物を染める時に、前の色が
生地につかないようにする為です。
以前は真綿が使われていたそうです。


針打ち
桶の縁に、桶針を使い、生地を仮止めします。


桶(蓋) さん木をあてる
蓋にも紙を貼り、汚れを防ぎます。
蓋には、ほんの少し反りが有ります。
さん木の当る部分と、その他の部分
では力の係り具合が異なりますので、
それを一定にする為です。
蓋の反りと合うようにあてます。
より均一な染をする為に、さん木の下
になる部分には、生地がこないように
します。


仮締め
さん木に緒を掛け、てこの原理で締めます。


ねぞろえ 本締め
「ねよせ」された生地が、綺麗に整う
ように調整します。
まず。緒が平行になるように掛け、
締めます。


もじをきる
平行な緒を一捻りさせ、更に締めます。
万力の原理です。


桶ごみ 桶出しの完成です。
「こみがね」を使って、再度調整します。 一色ごとにこの作業を繰り返します。
この桶ごと、染料の中に浸します。


一回目が染め上がった状態です。
堅牢度や、染め上がりを良くする為に、
水元も染料にも、井戸水が使われています。
室町時代の辻ヶ花は草木染ですが、この着物は、化学染料で染めています。


一色染まる毎に、余分な染料や不純物を取り除く為に水元をして、乾燥します。
その後に、次の色の柄を絞っていきます。


三回目の染め上がった状態です。


絞り染めの場合は、基本的に薄い色から濃い色へと染めていきます。
ただし、柄の混み具合などによって、同色でも二回、三回に分けなければならない場合もあり、
色数以上の絞りの作業が必要になります。


帽子絞り
染めない部分をナイロンで包みます。
以前は、胴の部分に油紙などで、帽子の部分に竹の皮などが使われていたそうです。


柄によって、寄せた時の大きさがさま
ざまです。
それぞれに合うように、芯も大きさや
長さの違うものが用意されています。


たこぼう
蛸の足のような形になる絞りかたです。


たこぼうは、この柄の幹のような、
細く長い柄を絞るときなどに使います。


染め上がり
この柄で、十一回の「絞り、染」を繰り返しました。
この後、手伸しをして生地を伸ばし、「カチン描き」や「隈取り」をします。


カチン描き・隈取り
墨で柄を描きます。
細い線描きが「カチン(褐)描き」です。
後に影などを表現するのに、「隈取り」をします。


この後、再度手伸しをして、仮絵羽仕立てをして完成です。


背面 前面



桶絞りの道具
絞り用の桶は上下が開いています。
素材は檜です。檜でも、丹波の檜が硬く、絞り染め用の桶に適しています。
蓋も檜で、一枚板の節の無い部分を使います。節があると、繰り返し使うことで、境目から染料が染み込む恐れがあるからです。
さん木も檜です。

桶の縁は、絞るごとに生地を挟み込むことで、ごくわずかですが、へこみます。
木材ですので、時間が経てば、或いは水分を与えることで、殆ど回復するのですが、いずれもどらなくなります。
その場合、縁に鉋をかけ、調整します。そのため長年使われた桶の胴は、背が低くなっていきます。


「もじをきる」道具です。
素材は樫の木で、緒を締める時に使
われますので、さん木の当る部分に
少しずつへこみができて、使いやすく
なるそうです。
「こみがね」と「桶針」です。
「こみがね」の素材は鉄で、針打ちに
も使われますので、針の当る部分に
穴が開いてしまいます。

「桶針」は桶絞り専用の針で、糸を通
す穴は開いておらず、普通の縫い針
より少し大きいものです。
以前は鉄だったそうですが、現在は
ステンレスです。

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