高木茂のホームページ アルコール依存症について02
エッセイなど
    <<前のエッセイへ<<              >>次のエッセイへ>>
 
  1999.1 京都府断酒平安会
機関誌第34号   
京都府断酒平安会機関誌「断酒平安」投稿記事
   
 
断酒の喜びを多くの人に
 中京支部 高木茂
 
 この世に生を受け、物心ついてから53歳になるまで、自分を生んだ親を恨み、常に自分を卑下し、世の中や人を嘲り、寂しがりやのくせに孤独を愛するという人生を送ってきました。
 子供の頃から劣等感の固まりであった私に初めて心和む思いをさせてくれたのは「酒の酔い」でした。酒を飲めば思っていることがうまく話せ、この世はバラ色。自分の能力が二倍にも三倍にもなったように感じました。 事実、酒が入ると人間関係がうまくゆき、仕事や趣味の世界も能力以上にはかどり、文字通り「酒は百薬の長」の頃もありました。 でも、身勝手で自己愛の強い私は、快楽と禁断の実をむさぼってしまったのです。
 そしていつしか、変わったことをしたり、妙に目立ったり、能力以上に頑張ったりして人から誉められたり,呆れられたりすることに喜びを覚えるようになっていました。
 「酒豪」を誇り、ひたすら飲んだ酒が「酒乱の大酒飲み」から「アルコール依存症」へと変貌して行ったのは、今考えれば当然の結果であったと思います。
 結婚して三十年。三人の子を持つ父として妻や子供に対して人間として許されないことを繰り返し、そのたびに後悔して酒を止めなければと悩み苦しみながらも,また孤独な酒に浸る毎日でした。
 そしで、最後は食事さえ満足にできず、風呂にも入らず、仕事をさぼり、人を恨み、自分をさげすみ、酒をやめたいと思いながらどうしても止められず、泣きながら隠れてワンカップを流し込む情けない姿に成り果てていました。
 何度もトライした断酒ですが、ほんとに一人ではどうにもなりませんでした。
 今でも一番申し訳ないと思うのは、せっかく妻が丹精込めて作った食事を、何の理由もないのに、再三に亘りテーブルごとひっくり返しては、「お前たちが悪い」と家族に怒鳴りつけては、大酒を飲む理由にしていたことです。
 そして酒の上で起こした問題をすべて妻や知人に解決させて、もう「一生飲まない」と言って誓ったその舌の根が乾くまでに,もう酒を口にしているのです。
 長年こんなに辛い目に遭いながらも、今は何もなかったように私に優しくしてくれている妻や家族には頭が下がる思いです。
 仕事も何とか首の皮一枚で元通り続けられています。
 自分がいなければ、仕事が旨く進まないなんて.とんでもない考え違いをして、酒の力を借りて無理をしてきた私ですが、自分の力なんてたかが知れてる、ということにやっと気付くことができました。
 元より何とかして酒を止めてたいと思っていた私が、断酒会の存在を知ったのは渡りに船でした、探し求めていた恋人に巡り会ったように、感動を持って、喜びを覚えながら断酒会につながることができました。
 こんなすばらしい自助組織があるなんてどうして今まで知らなかったのか、また、知る機会がなかったのか不思議でなりません。
 私は、入会その日から即依存症を認め生涯断酒を決意しました。
 「たとえ殺されても酒は飲まない。」これが私の自分に対する戒めであり、生きがいでもあります。酒を飲まずに生きる人生を誇りしていきたいと思っています。
 そしてようやく2年の月日がたちました。 例会に出席し皆さんの体験談や、医療関係の先生方のお話を伺っているうちに、少しずつ人生感や価値観が変わってきました。
 身体あっての人生。自分あっての家族、家族あっての仕事です。でも、これまでの考えはすべて順序が逆であったことに気づきました。良い意味で自分を大切にすること。今までの私にはこのことが欠けていたのです。
 最近、久しぶりに会った人に「このごろ顔色が良くなったね」といわれることがあり、ほんとにうれしいことです。
 酒を飲まなくてもいろんなことができる自分が、まるで生まれ変わったみたいで、こんなこともできる、あんなことも・・・・と小さな幸せに大きな感動を感じている毎日です。
 これからの人生は、静かで目立たず、人のじゃまをしないこと、それでいて存在感のある人間、天台宗の教えにある「一隅を照らす」」人を自分の生涯の指標にして、ゆっくり着実に新しい人生を自分の足で歩んで行く所存です。
 そして、せっかく断酒できているのだから,「ただ酒を止めているだけ」の人ではなく、ライフワークとしてアルコール問題について社会の理解と関心を高めるための身近な啓蒙活動に取り組んで行きたいと思っています。 私の、新しくもらったこの生命を、私のように「酒を止めたいと切望し悩みながらどうしても止められない人」や「酒害に悩みながらも、誰にも話せずひた隠しにして耐えている家族」の断酒へのきっかけづくりに役立
つことができないか・・・
 早期発見、早期治療。これはあらゆる病気の治療の原点です。
 できるか限り早く、若いうちにアルコール地獄から抜け出せるためのPR活動に私なりに取り組んでいきたいと考えています。
 大層な話ですが、日本の、そして世界のアルコール問題を解決するためには、私たち酒害者自身が、世に広く啓蒙活動を繰り広げていくことが必要不可欠であると思います。
 かつて、自らを閉ざし、世間からも隔離され差別を受け続けた「体に障害をもつ人々」が自ら立ち上がり、今や人間として誇りをもって生きておられるように・・・・
 この断酒の喜びを多くの人が分かち合えることを目指して一歩ずつ歩んでいきます。

このページのトップへ


<<前のエッセイへ<<
            >>次のエッセイへ>>
since 1997.10
貴方からのメールをお待ちしています。京都市中京区高木茂st0125@mbox.kyoto-inet.or.jp