廃てんぷら油石けんver.2

 

1.廃てんぷら油の処理と石けんづくり

  てんぷら油を繰り返し使っていると,カラッと揚がりにくくなってきます。また,油の量も減ってきます。そこで,「さし油」といって新しい油を加えて使い続けます。また,炒め物などにも利用して,できるだけ廃てんぷら油を出さないようにします。しかし,次第に酸化が進み,匂いも強く色も濃くなって,廃棄しなければならない状態になります。
  廃てんぷら油は毒物ではありませんが,水と簡単に混ざらないため処理の難しい液体ごみとなります。自然の中で徐々に分解されていきますが,分解物も栄養分なので河川を富栄養化していきます。わかりやすく言えば,水が腐ってくるわけです(CODとBODが上昇します)。下水処理場でも処理が難しい汚水となります。

  そこで,最近流行っているのが,油処理剤で固めて一般ごみとして出し,焼却処分する方法です。この方が,下水や河川に流すより環境への負担が減ります。詳しくは,「廃てんぷら油ろうそく」 をご覧ください。

  また,廃てんぷら油から石けんを作って再利用するという方法もあります。石けんは油と違って水によく混ざるので,環境への負担が減るだけでなく,作った分だけ市販の石けん使用量が減ります。合成洗剤との違いを考える機会としても利用できます。

  茨木市消費生活センター「商品簡易テスト室」(Tel.0726-24-1872)では,1990年から「消費生活啓発講座」が行われています。内容は,「科学の楽しさを通じて,生活を考える」を目標に,30〜60分でできる様々な取り組みがあります。そのなかで,廃てんぷら油を使った手作り石けんが好評だということです。そこで,テスト室の指導員として中心的役割をしておられる中島悦子先生に教えていただきました。手作り石けんは,一時期,ブームだったのですが最近では実践が減ってきたようです。水酸化ナトリウムを過剰に用いすぎるといった批判や,できた石けんが油っぽくて実用的でないことなどもあるようです。そんな中,中島先生は,地道な努力で実用的で安全な手作り石けん講座を継続されています。石けんは,日常使い続けるものだけに,長い実績は貴重なものです。プリン状と固形状石けんの資料をいただきましたが,私は固形状を追試して講座を実施しました。

  用いる試薬の量はそのままですが,pH測定などによる安全性の検討とともに実施方法についていくつかの工夫をしました。

2.石けんづくり

(1)石けんと洗浄作用

  石けんは,油汚れを水に混ぜ合わせて洗い流す働きをします。つまり,洗浄作用の主体は水で,石けんは油汚れなどを水に流しやすくする手助けをしていると考えられます。このような石けんの働きは,石けん分子が油にも水にもなじみやすい構造をしていることによります。そのため,油滴の周囲を石けん分子が取囲み,他の油滴と反発してくっつかなくします。攪拌すると,油滴はどんどん小さく分散し(ミセルといいます),全体として水に溶けたような状態になります。洗濯液が白く濁る理由で,このような液をコロイド溶液といいます。


廃てんぷら油石けん
  石けんが油と水の両方になじみやすいということは,石けんの原料の一つが油であるということです。この油の分子にアルカリ性の物質が化合し,水となじみやすい部分ができます。このために用いる強アルカリ性物質が,水酸化ナトリウムです。

  なお,考えようによっては,油汚れの衣類に水酸化ナトリウムを入れると,その油が石けんとなって洗濯できることになります。実はこの考え方による洗濯もあったのです。祖母が,野良仕事で汚れきった衣類を釜に入れ,ソーダ(炭酸ナトリウムの通称)を入れて煮たそうです。このように,天然に得られるソーダを用いた洗濯は,世界各地ですいぶんと昔から行われてきました。ただ,弱アルカリなのでけん化反応があまり進まず,高性能は望めません。また,代りに水酸化ナトリウムを用いると,その強アルカリで衣類を痛めるだけでなく人体に危険です。それらの問題点を克服したのが石けんといえます。



(2)廃油石けんづくり

ア,水90cm3に,水酸化ナトリウム45gを徐々に溶かします。
  強アルカリ性の水溶液ができるので,この作業は極めて危険です。そのため,ディスポ手袋と保護メガネ(スキー用ゴーグルでの代用可)を着用します。また,反応容器の500cm3ビーカーが倒れないようにビーカー保持具などを工夫し,攪拌棒で丁寧に撹拌します。攪拌棒として割箸を用いると,ビーカーを割る心配もなく混ぜられます。ガラス棒を用いる場合は,先にビニルチューブをかぶせたポリスマンを用いてください。

ビーカー保持具とポリスマン

天然香料と香水



イ,水酸化ナトリウム水溶液に廃てんぷら油300cm3を徐々に加えながら,30分〜1時間程度,丁寧に攪拌を続けます。
  攪拌が最も重要で,不充分だったり時間が短かいと油が分離し,よい石けんができにくくなります。数本の割箸(例:2膳4本)を用いると,無理せずに攪拌できるようです。攪拌を続けると,次第にどろっとした液になってきます。
  少し石けんを加えてから攪拌すると混ざりやすくなり,反応が促進されます。

※材料を混ぜる順番は意味があります。水に水酸化ナトリウムを投入しますが,逆では発熱が激しくて危険です。また,水と油を混ぜてから水酸化ナトリウムを入れると,溶解しません。ご注意ください。
※新しい油より廃てんぷら油の方が早くどろっとしてきます。
※攪拌する理由と自動攪拌については,「ハンドミキサーで楽々石けん」 をごらんください。

ウ,ポタージュスープのようになれば石けん成形容器に移します。
  白っぽい,ポタージュスープのようになってきたら石けん成型容器に移します。容器は,使用済みのプリンカップや上部を切断したペットボトルなどを用いるといいでしょう。容器には注意事項を記入するか,注意ラベルを貼ります。下の写真の容器には,お持ち帰りの講座を行った関係でフタがしてあります。通常,容器のフタは不要です。

※ラベル例
《危険:保管注意》(  年 月末)まで使用禁止
洗濯・食器洗い専用:手にあわなければ使用中止

※香料
  香料を入れるなら攪拌作業の終了直前にします。私は,香水や天然のラベンダー油やローズ油などを試しました。また,乾燥ハーブなどを練りこんでもよいでしょう。ただ,石けんができた頃には香りが減少します。強アルカリ故に分解されたのかもしれません。市販の石けんは,数十種類の香料をブレンドした独特なものを用いており,企業秘密ということです。

※ラベンダー油やローズ油などを用いるとケン化反応が阻害されるようです。レモンジュースなどで代用すると,その酸性によって石けんが分離します。ところが,香水を用いると反応が促進されます。これについては,「ペットボトルでアッと石けん」をご覧ください。

  エ,20日以上放置すると廃てんぷら油石けんができます。

  この反応は「けん化反応」といいますが一種の中和反応なので,反応が進むに従ってアルカリ性が弱くなります。酸性やアルカリ性の強さはpHで表わしますが,20日以上経過するとpH10.5 程度になり,石けんのJIS規格であるpH9〜11内におさまります。市販の石けんも同程度のpHです。できればpHメーターで確認した方がよいでしょう。
  できた石けんは,洗濯や台所用として用い,体洗いには使用しないでください。もし,手が荒れるようなら使用を中止し,更に1ケ月ほど放置してください。pHがもっと低下し,肌に優しくなるはずです。ただ,この方法で作成した例で,問題があったという報告はありません。
 

3.備考

(1)手作り石けんと水酸化ナトリウム量

  JIS規格で,石けんはpH9〜11と規定されています。pHが低下すると肌に優しくなりますから,用いる水酸化ナトリウムの割合を減らす努力がなされています。上の方法では,水酸化ナトリウムの割合が13%程度ですが,10%近くのものも作られているようです。しかし,水酸化ナトリウムが少なくなると反応が完結せず,未反応成分で油っぽくなる可能性が高くなります。

  油脂は,3価アルコールであるグリセリン1分子に対して脂肪酸3分子が化合したエステルで,トリグリセリドと呼ばれます。油脂のようなエステルを強アルカリで加水分解することを「けん化」といい,油脂1分子のけん化には,水酸化ナトリウム3分子が必用です。平均分子量の大きい(アルキル基の鎖の長い)油脂を用いると必用な水酸化ナトリウムは少な目となり,逆の場合は多くなります(必要とするアルカリの量を「けん化価」といいます)。従って,水酸化ナトリウムの必要量は用いる油脂の種類と量によって決まってきます。むやみに少なくすることはできません。てんぷら油がC-17の油脂ばかりだと仮定してケン化価を計算すると,11%あたりが限界ではないかと思います。また,反応を進めるためには水酸化ナトリウムが多めに必要ですから,中島先生の13%は理にかなっていると思われます。

  手作り石けんに時間がかかったり水酸化ナトリウムが十分でも油っぽい仕上がりになりやすいのは,最初にできた石けんが未反応の油脂を取り囲んでミセルを作るからです。また,油脂の脂肪酸が3分子とも反応しないで1〜2分子残った中間状態のものもできます。こういった状況から更に反応を進めるには,加熱したり攪拌したり長時間放置したりする必要があります。

CHOCOR
 l
CHOCOR
 l
CHOCOR
3NaOH CHOH
 l
CHOH
 l
CHOH
COONa

 RCOONa

  RCOONa

  油脂 水酸化ナトリウム グリセリン 脂肪酸ナトリウム
( 石けん )

(2)石けんメーカーのせっけんづくり

  石けんメーカーは,油脂からではなく脂肪酸と水酸化ナトリウムによる中和反応で石けんを作っています。中和反応は,ケン化反応よりはるかに確実で簡単な方法です。中和反応熱が利用できるので,量が多いと加熱の必要もありません。

RCOOH NaOH RCOONa
  脂肪酸 水酸化ナトリウム 脂肪酸ナトリウム
( 石けん )

  脂肪酸は,いろいろな動植物性油脂を高温高圧下の水蒸気による加水分解で作られます。この加水分解工程で,色もにおいもなくなります。副産物がグリセリンで,他の用途に販売されます。

CHOCOR
 l
CHOCOR
 l
CHOCOR
3H CHOH
 l
CHOH
 l
CHOH
COOH

 RCOOH

  RCOOH

  油脂 水蒸気(水) グリセリン 脂肪酸

  廃てんぷら油を使った石けんづくりは,リサイクルという,環境を考える教材として位置づけています。もし,石けんづくりだけが目的なら脂肪酸と水酸化ナトリウムの中和反応が簡単で早くて確実にできます。

(3)手作り石けんの今後

  石けんの手作り講座が,環境教育や理科教育として実施されるのは納得できます。しかし,家庭や地域での日常的な活動として位置づけるには危険が大きく,効率的なリサイクル活動とはいえません。少なくとも,ある程度の専門知識を持った指導者が細心の注意をし,実験室のようなところで啓発事業として実施すべきです。品質のよい石けん作りが難しいことも理由の一つです。
  私は,石けん用途としての廃油の処理は,石けん業者らと連携して行うべきだと思います。つまり,回収した廃油を工場で加水分解して脂肪酸を作り,この脂肪酸を用いた石けん作りを地域全体でリサイクルシステムとして位置付けるべきです。

  なお,比較的安全な手作り石けんについては,( 「重ソウでリサイクル米ぬか石けん」 )を参考にしてください。