いま考えていること 390(2010年04月)
――TWRについて――
化石燃料による地球温暖化が問題になっても、原子力発電にエネルギーを求めることに否定的な意見を持つ人は相変わらず大勢います。その人達は再生可能エネルギーによる代替を説きます。曰く太陽電池、曰く風力発電(風力発電に伴う公害は低周波公害を御覧ください)、地熱発電などなど。しかし太陽から地球に来ているエネルギーは本質的にある限度以上では有り得ず、すべての再生可能エネルギーを集計しても現在人間生活を支えている全エネルギーをカバーするエネルギーは得られないと思います。人間が何世紀も前の生活に戻るというならともかく、あくまでも再生可能エネルギーは補助的な量でしょう。やはりこのピンチを打開するには、原子力からエネルギーを得る以外に必要を満たす充分なエネルギーは得られないと思います。こういう意味から原子力発電は目下世界的に注目されたエネルギー入手方法ですからTWRには関心を持たざるを得ません。
先ず原子力をエネルギー源にすることにわたしがどう思っているかを記しましょう。
石油はやがては枯渇してなくなるでしょう。それがいつの日かは分かりませんが。その時にはおそらく高い費用をかけて人造石油の技術が現実のものになるのかも知れません。プラスチックの多くは石油から造られているからどうしても石油は必要だからです。石油を燃料としてどんどん消費することはこの面からもぜひ避けたいことですし、地球温暖化の弊害は既に現実のものとなっています。石炭はまだ何百年も使えるだけの埋蔵がありますが、液体の石油と比べると輸送の面でも、燃焼に伴う二酸化炭素の排出、不純物の含有の多さという点でもいまさら石油を代行するものではありません。では必要なエネルギーは何から調達するかといえば、原子力をしのぐものはないでしょう。原子核分裂に伴う厄介な放射性廃棄物は崩壊の速度を人間が制御することは出来ないので、大変厄介な問題を抱えていることは否定出来ませんが、地球温暖化に伴う問題は今日現実の被害をもたらしていますから、何としても二酸化炭素を始めとする温暖化ガスを減らすことはもはや猶予出来ない段階になっています。
原子エネルギーはこれまでのエネルギー源とは全く異なる原理から成り立ちます。それは質量とエネルギーは本質的に同質だという原理から質量のエネルギーへの転換を利用している点です。この転換効率は高く、E=mc*c(E:エネルギー(エルグ) m:質量(グラム) c:高速度2.99792458X(10の10乗)センチメートル)で計算出来ます。言い換えれば1kgの質量は約250億 kWh に変わりうることになります。現行の濃縮ウランを利用した発電ですとウラン238がプルトニウムに変わりますから、このプルトニウムの核分裂を利用したエネルギー発生が現実のものとなってきました。現在、プルトニウムは酸化物に変え、酸化ウランと混合してmox燃料としてプルサーマルとして原子力発電所で再利用される段階に入りました。これまでの燃料では考えられない燃焼後の物質をエネルギー源として再利用出来るというのも特色です。ウラン軽水炉で有効なのはウラン235ですが、天然ウラン中のウラン235の含有率は0.7%程度で核分裂を起こさせるためには含有率を高めるための濃縮が必要です。天然ウラン約160トンから出来る濃縮ウランは約25トン、残りの135トンは劣化ウランとなります。六ヶ所村のウラン濃縮工場からは、年間約600トンの劣化ウランが発生することになります。
最近ビル・ゲーツと東芝の提携で話題になりましたTWR(Traveling Wave Reactor)はこの劣化ウランがそのまま利用出来るというのですからエネルギーの上から注目されます。この原子炉でも臨界点を超えて反応しているのですが、核分裂ゾーンに限られ全体としての爆発の心配はないというのですから、この点でも注目されます。TWRでは燃料の交換も100年は不要ということです。このTWR方式の考え方は1950年代にすでに現れ、1958年にはSaveri Feinberg、1979年にはMichael Driscoll、1988年にはLev Fecktistov、1995年Edward Teller/Lowel Wood、2000年Hugo van Dam、2001年関本博と続々研究者が現れています。実用化されたものはありませんが2006年にTerraPowerが実用化を目指して活動を開始しています。ゲイツ氏はこのTerraPowerの主要株主でTWRに深い関心をもっており、東芝と協力してTWRを開発しようとしたのは、既に東芝は燃料交換なしで30年間稼働する出力1万キロワットの小型原子炉「4S」を開発済みで、維持管理の困難なへき地での発電に適したこの「4S」を、当局の認証を得られれば14年にも米国で初号機を着工する方針という技術を持っているからでしょう。TWRはこれから開発される原子炉ですが、これまでの原子炉が持っていた安全上の問題も兼ねて注目され、成功が望まれます。
TWRの構造模式図で説明しますと、運転開始時に十分な量の劣化ウラニウムを充填しますと反応開始に伴って、この図では左端のdepleted zone(使用済みゾーン)、fission zone(核分裂ゾーン)、breeding zone(増殖ゾーン),fresh zone(未反応ゾーン)が出来てきます。このfission zoneがエネルギー発生の中心ゾーンですが反応進行と共に右へ移動していきますのでtraveling
wave(移動する波)と呼ばれます。つまりはじめに左端でウラニウム235の含量の多いウランで核分裂を起こさせますとそこで発生した中性子がウラン238に吸収され順次プルトニウムに変わっていき(breeding zone)つぎの核分裂資材に変わるのです。その右側にはまだ未反応の劣化ウランが変化しないままに残っていますが、反応の進行と共にbreeding zoneとなり続いてfission zoneに変わっていきます。
いわば反応器の中でプルトニウムが順次作られ核分裂を起こすのです。参照TerraPower,LLC Nuclear Initiative
日本は原子爆弾の惨禍を経験した唯一の国ですから、原子力に対する拒否反応は本能的とも言えるのでしょうが、やはりエネルギーの未来を考えると、核エネルギーすべてを拒否するよりも、平和的利用は受け入れて核操作の経験を深め、少しでも欠陥の少ない原子力発電を積極的に試みることが必要だと思います。質量−エネルギーの転換でエネルギ−を得るこの方法はこれまでの物質取り扱いとは次元の異なる基礎知識と取り組みの技術を必要とします。核をおそれるだけでなく、親しみ、理解し、取り扱いに習熟することが避けられないのです。
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