いま考えていること 81(2001年08月;9月;2002年10月)
――外総診――
私のかかっている診療所は7月から外総診を採用しました。その結果変わったことで,
もっとも目立つのは毎月定期的に行われている血液検査の項目が著しく減ったことです。外総診というのは正しくは老人慢性疾患外来総合診察料の略名で、70歳以上の老人が対象になっています。今年の四月老人医療の負担金が引き上げられてから、多くの医療機関で患者数が減ったのですが、外総診を採用している医療機関では影響が少なかったと言います。私のかかっている診療所でもおそらくこのようなことが考慮されたのだと思っています。京都市から送られてきた健康手帳もこれまで使ったことはなかったのですが、外総診採用に伴って、健康手帳に私はM診療所の外総診患者であることが記載されます。他の医療機関に行ったときはこれを提示します。新しく掛かった医療機関は私を外総診患者には出来ないのです。外総診は患者の囲い込み効果を持っています。診療所の収入の安定と言うのは患者一人についていくらと定額で、診察や指導をしておれば診療内容とは関係しません。俗に「マルメ」といわれています。しかも外総診は大病院は採用できず、小さい病院や診療所、医院に採用が限られています。「マルメ」の金額も小さい診療所や医院の方が有利に設定されています。老人のような慢性病では処置も薬剤もほぼ固定していますから、簡単に言えば定額でやれるだろう、大病院に行かなくてもかかりつけの医者で十分だと言う考え方の結果です。この外総診は平成8年から厚生省が採用したものですが、これまではあまり採用する機関はなかったと言います。老人自身の負担が増え、それに伴う患者数の激減からこのところ採用する医療機関が増えているようです。外総診を採用している医療機関では患者の薬剤費は徴収されないことになっています。
小泉内閣は来年度予算を削減します。社会福祉費も今年と同じようにすると1兆円自然に増えるということで、これを7000億円に抑える方針です。なかでも社会福祉費の40%を占める医療費(年金よりも医療費部分が大きいのです!)の増加、なかでも老人医療費の増加を抑制する方針だと言います。具体案はまだ明かではありませんが、医療費の定額制や老人の負担のさらなる増額がうわさされています。定額制は外総診の考え方と一致するものがあります。
確かに検査項目や薬剤の中には必ずしも必要でないものも、これまで出来高払いですから濫用されてきた面を否定できません。外総診ですと医師は検査を外部に委託しますとその費用を与えられた定額の中から支払い、手取りが減ります。また薬も処方箋を出して医薬分業路線で院所外の薬局から患者が受け取るようにした方が経営上有利になります。
私も社会保障は、すべて個人で賄うことは出来ませんから、国がその充実を図るべきだとは思っています。しかし特殊法人問題を始め一度これまでの固定化した制度、一部の人だけが有利になる制度は洗い直して、再出発しなければならないとは思います。そのためにはすべてを一度否定して再吟味することも必要でしょう。早くこの見直しを終わって、新しい社会保障制度を創ることこそ、これからの政府の仕事だと思います。
[追記:8月23日](株)日本総合研究所発行のJapan Research Review 2001.Augには「新たな高齢者医療保険制度の創設と医療保険制度全体の再構築を同時に実施せよ」という論文が出ています。現在老人医療費の負担構造は高齢者の自己負担8%、各保険者からの拠出金64%、公費の負担28%といいます。但し拠出金中には政管健保や市町村国民健保もありますから、公費負担は50%になるといいます。ともかく拠出金を負担している各健保は倒壊の一歩手前です。平成11年の実績では医療費は前年比3.7%増で、ことに老人医療費は前年度比8.4%増といいますから、このままでは2025年には国民医療費は81兆円に達し、うち45兆円が老人医療費になるのだそうです。
この現状をふまえ、いろいろの方策を検討した上でこの論文は、高齢者にも月別支払い上限のない1割負担を求め、高齢者の負担:各保険者からの拠出:公費=15:35:50(現行は8:64:28)にすることおよび70歳以上でも年収600万円以上の老人は新たな高齢者医療保険の対象から外すことを主張しています。また医療保険制度全体の改革として、診療報酬の「出来高払い」から「定額払い」への変換を唱えています。
私は年収による除外措置は壮年者を対象とした一般健保での加入にも、収入による制約を設けるのかという問題と同時に考えてほしいと思います。診療報酬の「定額払い」は上の外総診の考え方と一致するもので、すでに医療機関でも受け入れが進んでいく傾向にあります。診療の標準マニュアル作成が出来るかどうかが問題ですが、患者にも開示しない「出来高払い」制が医療費高騰の原因であることは否定できません。[追記:9月02日]
8月31日厚生労働省は2002年の医療保険改革の原案を作成しました。今後の議論の展開と結論は予測できませんが、高齢者医療については75歳以上とし、公費負担を5割にするといっています。私ども75歳以下の老人には国民健保ですと一般の壮年者並に段階的に3割負担になる案です。この案と上の「外総診」との関連はわかりませんが、「外総診」は「定額払い」の考えですから、医療費高騰の原因にはなっていません。外総診採用医療機関では70歳以上の老人にこれまで通りの医療を継続してほしいものです。70歳から74歳の老人の医療が複線化するのですが、医療機関の考え方と経営方針を切り替えさせる有効な手段になるのではないでしょうか?
(2002年10月追記)10月からの老人医療費の改革に伴って、この外総診制度は廃止されました。
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