何冊かの辞書はあなたに知らせるだろう "Jinx"とは、不運、呪い、縁起の悪いものをもたらすもの」を意味すると、そしてさらにつづけて、軽率にも、それがアメリカの俗語であることをあなたに告げる。それはまさしく、辞書編集者が魔術についてどれくらい知っているかをあなたに示すものである。この語の起源は純粋な古代ギリシア語、そして、もともとは、呪う場合にではなく、恋-魔術の際に、使われる魔法の輪に言及するものである。それはイユンクス(i[ugx) だいたい「yunx」と発音される と呼ばれ、これから、我々の"jinx"が得られたのである。 イユンクスは、基本的には小さな車輪で、この車輪は、環になった弦糸の中央に吊り下げられている。これは引き締められると、弦糸が巻きつき、そして、ほどけるのに応じて、車輪が急回転して、ぶんぶんと音をたてる。このごろ、子供の漫画本の景品としてただでくれる種類のものである……しかし、イユンクスは、実際に、古代のすぐれて魔術的な道具である。 一体となる方法の詳細に入る前に、神話と古代の用途を一瞥しよう。イユンクスは、ニュムペーの名前で、パーンとエコーあるいはペイトー(その名は「説得」を意味する)との間にできた娘であった。そういう生まれのせいで、イユンクスが媚薬の達人となったことは驚くにあたらず、ゼウスがイーオーと恋に落ちる原因になったのは、彼女の飲み物の一服のせいであった。ヘーラーは、もちろん、これを喜ぶはずはなく、執念深くもイユンクスを鳥 アリスイ(wryneck)に変えた。これが、ギリシア語で彼女の名前をつけられているのである。 アリスイは、危険な状態にあるとき、その首をかなり伸ばすことができる鳥である。同時に、頭の羽が逆立ち、首をよじるので、けっこうヘビに似た印象を与える。たいていの注釈者は、アリスイがその頭をぐるりと百八十度めぐらせることができることから、魔法の車輪と関係があると考えるようである。伸ばした首と「怒張した」頭という男根のイメージは、彼らを完全に素通りしたようである。 〔画像はWikipedia。"When disturbed at the nest, they use this snake-like head twisting and hissing as a threat display."とある。The Internet Bird Collection〕 イユンクス魔術の、独創的で、おそらくは全く神話的な形は、アフロディテーによって発明された。彼女は、アリスイを車輪に縛りつけ、これを糸紡ぎに組みこみ、これをイアーソーンに与え、彼はこれを使ってメーデイアを誘惑したのである。その魔力は、明らかに、メーデイアの自身の相当な妖術を圧倒するのに十分であった。 単純な魔法の車輪として、イユンクスはあわただしい風の吹くような、ぶんぶんいう音を出すが、それが一定しないのは、車輪がかわるがわる巻きついたり緩んだりするからである。最後は、むしろ深い呼吸のような音を立てるが、それは、前後関係で、明らかな熱のこもった響きを再び持つことを含意している。古代の絵の中では、イユンクスは時折エロースとヒーメロスのような愛神の手の中に見られる……あるいは、より現実的な場面の中では、女性の手にも。 そういうわけで、神話の概要が含むのは、妖術、性的な象徴、有力な性神である。しかし、古代の魔法の実行においては、月との強い関係もある。もちろん、神話の上では、イユンクスの父パーンは、セレーネーの誘惑者であった(彼が魔法の車輪を使ったという示唆をわれわれは何も持たないけれども)。また、ヘカテーもイユンクスと関係しており、月との交際をもっているほかに、彼女はギリシアの妖術の最高女神でもあったのである。 そのほかに、イユンクス魔法の主な従事者は女性であったように見える(犠牲者が、危険にさらされたアリスイのように、身体的に反応すると思われたことも驚くべきことではない)、そして、女性の妖術は、基本的に、月の神威のしるしのもとで実行されるのである。 イユンクスの使用を含む儀式の、われわれの持っている最高の記述は、テオクリトスの詩に見つけられる。紀元前3世紀に書かれたこの中で、セレーネー、アルテミス、ヘカテーといった女神たち(その天的、大地的、土地的諸相における月-女神)が呼び出される。次いで、いくつかの魔術的な行為が実行される(蜜蝋が溶かされ、大麦が焼かれ、うなり板が回転させられる、等々は)、同時に呪文が唱えられる、「どうか、このように、わたしの恋人を溶かしてちょうだい」。これらの行為の間に、施術者はイユンクスを使い、口頭で反復句を唱える:「わたしの恋人をわたしの家に引き入れてちょうだい、魔法の輪よ」。イユンクスが9回使われ、次いで、施術者はセレーネーとの対話に入り、恋事の進捗について話す。儀式の全体は、セレーネーに対する挨拶で終わる。 その当時の間、イユンクスは恋の魔法に使われ、標的を施術者に引きつけ、これを彼女〔施術者〕に結びつけた。この結びつけの側面は、多分、車輪の旋回につれて、2本の弦糸が絡み合い、たがいに巻きつく仕方によって、さらに象徴されたであろう。また、テッサリアの魔女たちによって、イユンクスが「月を引き降ろす」ために使われたといういくらかの示唆があるようであり、さらにまた、標的(この場合は女神)を施術者に引きつけて、彼らを彼らの意志に結びつけるという考えをわたしたちは持つ。 キリスト紀元の初め以後、イユンクスが魔法(sorcery)のために使われたという伝存する証拠が多くあるようには見えない、そして、実行は世に知られることのない状態へと消えて行ったようである。しかしながら、およそ3、4世紀後、それは降神術(Theurgy)〔qeourgiva(「神の働き」の意)〕の実行の1つとして、新プラトン主義者たちによって復活したように思われる。そこでは、イユンクスはヘカテーと密接に関係しており、〔ヘカテーは〕『カルデア人の神託(Chaldean Oracles)』に由来した新プラトン主義の神学において非常に重要な存在であった。 そこでは、その名前は魔法の輪と、そしてまた(複数(lynges)で)天上の王国における諸々の実体の三幅対に関連している。〔この三幅対は〕諸々の世界の間の伝達者の働きをする。lynges〔イユンクスの複数〕は「結合者」「秘儀支配者」としても知られている、そして、それらはまたヘカテーと関係し、その力は、旋回する力として現れると言われるものであった。 実用的な面では、イユンクスの輪が人工降雨のために降神術師たちによって用いられていることをわたしたちは聞いており、そこでは、上界と下界との間の伝達者として奉仕し、雨を引き下ろし、あるいはダイモーンたちを操り、予言的な夢を与えるために彼らを繰り出させる。しかしながら、最も重要なことに、イユンクスは神々を勧請し(その後で解き放つ)のに用いられてきたように見える。イユンクスのせわしげな、風の吹くような音は、神的なプネウマ(風、呼吸、霊 それゆえ、霊感)の接近と関係しているようである。そして最終的に、旋回する力として、イユンクスは単に、儀式に力を与え、これを働かせるために用いられるのが常であった。 あるひとたちは、魔術と降神術とは大きくされなければならないと主張し、そこには明らかに強調の違いがあるという。だが、両方の伝統は、いっしょに引きつけ結びつける伝達者としてイユンクスを用いるという、ありふれた特徴を共有する。とはいえ、それがどんな目的に向けられるにしろ、イユンクスは魔術的な道具である。そこで、あなたが自分自身でいくつかのことを考えることができるように、一体となる仕方の詳細に入りことにしよう。 球体とか三角形のイユンクスについていくらかの言及であるようであるが、標準的なギリシアの原型は平たい円盤、ないし、輻(や)のある車輪であった。これが、通常、縁の周りに鋸のような歯を持っていたのは、雑音を増やすためであったろうが、わたしは絵を描くことができないので、図はただ円盤だけを表す。これは、金属または木でできていたであろう。合板のようなものがよいだろうが、あなたがちょっと実験したいだけならば、厚いボール紙でためすがよい。この、厚さおよそ8分の1インチの重くて圧縮された素材は、あなたにある程度の重さと堅さを与えるので、最高であろう。軽いボール紙は、ばたばたとはためき、ばらばらになるであろうから、このものからちゃんとした音を手に入れるには、ある程度の重さを必要とするのである。 何を使うにしても、直径6インチの円盤に切る。より大きいものは少し扱いにくく、より小さなものは、弾みをつけつづけるだけ重さを持たない。さて、円盤の中心の両側に1つずつ、ほんの半インチ間隔で、2つの穴をあける。それら〔2つの穴の間隔〕がこれより広いと、円盤は弦糸のはすかいでばたばたする傾向がある。強い弦糸をおよそ5フィート切り、終わりを1つの穴に通す、それから、折り返して、もうひとつの〔穴〕に通し、両端を結ぶ。 〔弦糸の〕環の一端を、それぞれの手にとり、円盤が〔環の〕中心にゆくまで跛行させてずらせる。一方の手首をまわして、円盤をぐるりと振る、そうすると、円盤は弦糸を一巻きする。弦糸の巻つきがかなりきつくなるまで、これをつづける。さて、あなたの両手を水平に、スムーズに、やさしい動きで引き離す。弦糸は急速にほどけはじめ、円盤を急旋回させる。引き続けよて、しかし、弦糸が完全に張りつめる直前に、ゆるめる。これにはこつがあるが、それは、練習で身につくであろう。弦糸の緩みと、幾分接近した手の動きによって、円盤は急旋回しつづけて、再び弦糸を巻きあげる。円盤が停止するまさにそのときに、あなた引き離し、張りを増す。あなたが、滑らかにこうして、あなたの手をかわるがわる中に、そして、外に動かせるなら、あなたは円盤の速度をかなり確立することができる。そして、それが速度を増すと、それはうなり始める。あなたがボール紙を使っているなら、音はそんなに大きくないが、マイクによって音を拡大するか、いっしょにこれを利用している数人の人々がいるならば、結果は非常に面白いであろう。 問題点を二つ。あなたの円盤はきわめて速く急旋回している、そして、それが木または金属でできているならば、ギザギザの縁を持っていれば特に、それはきわめて危険でありえる。だから、他の人や、あなた自身の顔から遠ざけること。また、あなたが各々の手の1本の指のまわりに弦糸を持っているならば、あなたはそれがあなたの指をしぼり、締めあげ、しばらく後にはきわめて痛々しいのを見出すであろう、だから、あなたは手袋をはめるか、取っ手をつけたいと思うかもしれない、また、ボール紙の円盤の場合、弦糸が結局は中央の穴をすり減らさないように、中心の穴を補強するのは良い考えである。イユンクスは、もちろん、円形でなければならないことはない、ただし、かなり対称形ではなければならないけれども。そこで実験:五線星形、Chaospheres〔右上図〕、何でもあなたの望むもの。 さて、きまりの悪い個人的告白。わたしはイユンクスの作り方を知っていると、愚かにも言っていたら、わたしは腕をねじられながらこれを書くことになったであろう……が、実際のところ、わたしは魔術的文脈とか儀式的文脈の中でこれを使ったことはない。 更なる読書 テオクリトスの詩は、Arcana Mundi Georg Luck, Aquarian の中で手に入る。 2009.06.12. 訳了 イユンクスの音は、アイヌのムックリとよく似ていると思われる。アイヌのムックリの演奏は、You Tube -Ainu Mukkuriを参照。 |