[心理現象としてのパラケルスス]原註・訳註2
- 註001
S3.
- 註002
同書の初版本(1562年)に付されているもの。
- 註003
ここでは一例だけをあげておく。ある一節では、「スカイォラェには可死的なものはいっさいない」といっているのに対し、別の一節では、「スカイオラェの生と死」を諮語っている(後出3章の「<最大の人間>の四元性」および4章を参照)。それゆえ、ポーデンシュタインの「校訂」はあまり信用できない。『長寿論』は講義録であると私は考えるが、また一方、ドイツ語版のための原稿の断片があることも考慮に入れなければならない (S3, pp.295ff.)。これは、ドイツ語版のためのパラケルスス自筆の草稿であるかもしれない。『長寿論』の執筆時期は、おそらく1526年ごろと推定される。ラテン語によるパラケルスス自筆の原稿は現存しない(Ibid., pp,32ff.)。
- 註004
以下の論述は、『長寿論』全体の評価を行おうとするものではない。そこで、この点に関し思想的に重要な貢献をなしたマルシリオ・フィチーノの『生命について、3巻』(Marsilio Ficino, De vita libri tres)の考察は、ここでは割愛した。
- 註005
ラテン語原文中にある aestphara の語源は、アラピア語であるかもしれない。ドルネウスはこれを「腐蝕」(コルプチオ)と訳している。あるいはこれは、favrw(見えないものにする、殺す)とaijstovw(裂く、解体する)に由来するものとも考えられる。腐蝕、腐敗は、当然もとの形の解体と消失を伴う。
- 註006
ルランドス『錬金術辞典』M. Ruland, Lexicon
alchemiae (Frankfurlt a.M., 1612); A Lexicon of Alchemy (translation), London, 1892, p.69. (s. v. Balsamum s. Balsamus.)
「パルサムは身体内に存在する液体の塩分で、身体の腐敗を防ぐきわめて精妙な自然の働きである……ドイツ語でこれに相当するBaldzamen であり、迅速な結合力を意味する〔つまり合一を促進する手段の意。後出の記述を参照〕。諸元素に宿る外的パルサムは、外部にある水銀液である……それは万物に宿る天空の精気、<第五元素>である」
したがって、内的パルサムとは身体内の水銀液のことである。
- 註007
<ケイリ(Cheyri)>は、黄色の花を咲かせるニオイアラセイトウ(Cheiranthus cheiri)。タベルナェモンタヌスの『植物誌』(Tabernaemontanus, Herbal, Basel, 1731)には、イワスミレ(Viola petraea lutea)という不正確な名で出ている。これは堕胎薬であると同時に、強壮剤でもある。四弁の黄色の花を咲かせる。ガレノスは、これが胎内のガスを排出させ、また身体を暖める効能があるという(Galen, De simplicium. medicamentorum facultatibus, Lib,7, Lyons, 1561)。ルランドスの『辞典』(前掲、98頁〉では、「パラケルススのいうケイリ」は、鉱物に当てはめれば水銀に相当する。「ケイリの花」は、白色の銀の錬金薬であり、また金の精髄である。「これは飲用黄金であるとする説もある」。したがって、錬金術の哲学的目的に資する秘薬であると考えられる。パラケルススは、その四元性に言及してこういう。「……そこで錬金術師は、ケイリが四弁の花を咲かせるのと同じように、四〔元素〕から適正な合成物を作り出す」("Fragmenta medica," S3, p.301.)。
- 註008
De vita longa, Lib.4, cap.1. 『長寿論』のドイツ語による草稿断片で、パラケルススはいう。「ケイリはウェヌス以上の強力な作用をもち、マンネンロウは火星より強力である」。
- 註009
おそらく、抽出の作業過程によって産み出す、という意味だろう。
- 註010
次の文は、ユングの死後その遺稿中に発見されたメモの記述を、若干圧縮したものである。メモは、「へルメス哲学におけるメルクリウスの概念」と題されており、アインジーデルンにて、1942年10月11日、の日付がある。 編者。
この概念 概念といえるとして は、非常に豊かな意味を内包しているだけでなく、次のようなさまざまの異称のもとに多用されている。すなわち、イリアストゥルム、イリアドゥス、イリアステス、イレイデス、イレイドゥス等々。語源に異常なまでの執着を示すパラケルススの造語癖は、さまざまの名で言い換えられる一つの観念が、特に重視されていることを物語っている。イリアステルは、あるときは「始源カ」「第一質料」「混沌」と呼ばれ、また3つの基本的物質である水銀、硫黄、塩からなる「第一合成物」と呼ばれる。またあるときは、人間の五体に遍在する根源的・天上的霊気(アエール)、「人間の内なる真の霊気」と呼ばれる。パラケルススの弟子ルランドスの定義によると(『辞典』、181頁)、それは、「万物の増殖、養育、繁殖、再生を促す自然の不可視の霊能」である。「生命の精気」といわれることもあるが、これは「メルクリウスの力」にほかならない。
以上からして、イリアステルはメルクリウスの霊と同一であって、最古の時代から17世紀の最盛期にいたるまで、錬金術の中心的概念であったものと一致する。賢者メルクリウスと同じく、パラケルススにおけるメルクリウスは、硫黄と塩の助けによって生まれた太陽(ソル)と月(ルナ)の子である。それは「渾沌から生まれた不可思議な子」であり、ゲーテはこれをメフィストフェレスと名づける。パラケルススは、「あらゆる身体に宿る湿り気をおびた気息のような、煙のような魂」と名づける。
イリアステルの最高度の力は、心魂の他界への超出という形で発現するが、エノク、エゼキエルその他の人物においてこれが実現されたのである(ルランドス、前掲書、181頁。また『エゼキエル』1・13、『ルカ』10・18を参照)。それは生命を賦与する力であるだけではなく、霊魂が神秘的変容を遂げ、不壊不滅の境位に到達するまでの過程において、その導き手となる。「イリアステルのカをおびた霊魂の胚種」は、神自身の霊であって、そこには「神の似姿」が刻印されているのである。
- 註011
sancire (不変・不可侵のものにする)の派生語である sanctitus は、「確固不動の」の意。「第一の、すなわち天によって植えつけられた〔イリアステル〕が、その人間の寿命である」(ルランドス『辞典』、181頁)。
- 註012
paratetus は、おそらくギリシア語のparaitevomai(祈願によって得る)に由来する。「第二のイリアステルとは、調合されたイリアステルのことである」(ルランドス)。
- 註013
太陽と月の合一から生まれた者は、両性具有者として表象された。
- 註014
De vita longa, Lib.4, cap.4.
「千種類以上もの〔イリアステル〕があって……その結果、それぞれの<小宇宙>がそれ独自の完璧ともいえる結合力をそなえている。それぞれが、完壁で独自の生命力をもっているのである」。
- 註015
Lib.4, cap.6.
- 註016
『創世記』5・23-24を参照。「エノクは365年生きた。ェノクは神と共に歩み、神が取られたのでいなくなった」。
年代記作者スカリガーによれば、一年の区分はエノクの寿命をもとになされた。またエノクは、メルキセデクと同じく、キリストを予表するものとされた(『エウセピオス年代記批判』Scaliger, Animadversiones in chronologie Eusebii, 1606)。またピコ・デラ・ミランドラの次の記述を参照。
「またシモンはいう。われらの父アダムは、セトによりもう一人の孫をさずけられたが、ラジエルが彼に伝えたカパラの英知を念頭におき、彼の種子から救い主となるべき人間が生まれると信じた。それゆえ、彼はエノス、つまり人間(ホモ)と呼ばれた」 ("De arte cabalistica," Opera omnia, vo.1, p.3020.)。
- 註017
Lib.4, cap.6,
「それゆえ、<小宇宙>の構造は、最高度の反射熱で熱せられなければならない」。この作業は反射炉=カルサイン炉で行われる。「反射熱処理とは燃焼であり、有効な火の影響によって物質を精錬すること、すなわち反射熱の照り返しを利用して、物質を精妙な金属灰(カルクス)に還元することである」(ルランドス『辞典』、276頁)。
- 註018
「気体を高熱の火で焼き尽くせ。そうすれば、おまえの求める恩寵がおまえをひたすであろう」(「黄金論説」第四章、『医学の術』所収。 "Tractatus aureus," Ars chemica, Strasbourg, 1566, p.24.)。
- 註019
Ares(アレス〉は、ときに男性名詞として用いられる。
- 註020
aqua+astrum (水+星)=「水星」
- 註021
アルベルトゥス・マグヌス「鉱物と金属的物質について」Albertus Magnus, "De mineralibus et rebus metallicis," Tract. 1, cap.2. Auguste & Borgnet (eds.), Beati Alberti Magni Opera omnia, vol.5.
- 註022
ホーゲランデ「錬金術の諸困難について」におけるルペスキッサがその一例 (Hoghelande, "De alchemiae difficultatibus," Theatr. chem., vol.1, p.l72.)。
- 註023
Mylius, Phil. ref.; p.16.
- 註024
Ibid.
- 註025
シネシオスとディオスコロスの対話 (Berthelot, Alch. grecs, vol.2, iii.)。
- 註026
ルスカ『哲学者の群れ』第八講話 Ruska (ed.), Turba Philosophorum, Sermo 8(Berlin, 1931), p.122. またセニオールからの引用句としてホーゲランデがあげているもの (Theatr. chem., vol.1, p.150.)。
- 註027
アプル・カシム(ホルムヤード編〉『黄金の錬成に関する知識』Abu'l Qãsim (ed, Holmyard), Kitãb al-'lilm al-muktasab (Paris, 1923), p.23.
- 註028
ドルネウス「天地創造の自然学」Dorn, "Physica genesis," Theatr. chem., vol.1, p.349.
ドルネウスはさらに次のようにいう。「中心は無限であり、その力と神秘の無限の深淵は、いかなる言葉をもってしてもいい表わすことができない」。
- 註029
オリムピオドロスが与えた呼称(Berthelot, Alch. grecs, vol.2, iv, p.32.)。神に呪われた者の神話についての記述は、同書の52頁にある。
- 註030
Hoghelande, "De alch. diff.," p.159.
- 註031
Rosarium philofophorum, Art. aurif., vol.2, p.369.
- 註032
「プラトンの4書」 "Liber Platonis quartorum," Theatr. chem., vol.5, p,118.
- 註033
スカイォラェ(Scaiolae)は高度の精神的機能を指す用語で、心理学的には元型に相当する。後出、3章の「<最大の人間>の四元性」を参照。
- 註034
"necrocomic" とは「ネクロコミカ」、すなわち未来を予示するテレパシー現象・精神感応的事象の起こる領域を指す用語。ルランドスは、この現象は「天から地に降る予兆」であると説明する(『辞典』238頁)。
- 註035
"Liber Azoth," pp.521ff.
- 註036
ホルトゥラヌス「『エメラルド板』注解」、『錬金術論集』所収 Hortulanus, "Super Tabulam Smaragdinam Commentarius," De alchemia (Nuremberg, 1541), pp.363ff.
- 註037
ボーデンシュタイン『特殊用語要覧』Bodenstein, Onomasticon (Frankfurt a.M., 1583), p.18f.
- 註038
ルランドス『辞典』、38頁。
- 註039
アレス=火星。狼との関連性からして、この解釈の妥当性が裏付けられる。狼は、火星の支配下にある動物だからである。パラケルススの同時代人でブリクセンのヨハネス・ブラケスクスは、「生命の木(リグヌム・ウィタエ)=グアヤック樹」のなかで、寿命を延ばす医薬の主要素は火星であるとし、ラゼスの次の言葉をこれと関連づけている(Bracheschus, "Lignum vitae," Bibliotheca chemica curiosa, Geneva, 1702, vol. l, pp.911ff.)。「太陽が白羊宮(アリエス)に入ったあとに、石を取り出すべし」。
プラケスクスはさらにこういう。「これ〔火星〕は、顔色が胆汁質の人間である……この激しやすい胆汁質の人間は鉄であり……魂と身体と霊を持っているので、人間と呼ばれる……その金属は、あらゆる恒星や遊星の働きによって産出されるが、特に最大最高の力を持つ大熊座の北極星によって、地中に産み出される」。
火星は「魔神」(デモゴルゴン)とも呼ばれる。すなわち、「異教徒のあらゆる神々の元祖」である。「厚い雲と闇に完全に包み込まれて、彼は地中の最深奥を歩み、そこに潜み隠れている……何ものによって産み出されたわけでもなく、彼はそこに永遠に生きる万物の父である」。それは「形なきキマイラ」である。「魔神」は「大地の神、恐るべき神であると同時に鉄」でもあるとされる(すでに見たとおり、パラケルススにとっては、火の浄化を受けた身体は、それが「腐触することのない」ものであるかぎりにおいて、鉄と結びつけられた)。
「古代人は<魔神>が永遠と渾沌に深く結びついている、と考えた。すなわち永遠と、永遠の溶液たる……水銀を伴うものとされた」。彼はまた、蛇であり、「メルクリウスの水」である。「<魔神>の第一の子がリティギウスで、これが硫黄であり、また火星と呼ばれる」。「渾沌は地上の塩であり、土星と呼ばれる。それは物質であり、そのなかにあるものは、すべて無定形だからである」。生死にかかわらず、あらゆるものがそこに含まれている。というよりも、そこから生起する。
以上のことからして、「魔神」(デモゴルゴン)とか火星(マルス〉は、パラケルススにおけるアレスと符合する。ペルネティは「鬼神」(ダイモルゴン)を定義して、「大地の守護神」「自然を生気づける火、特に賢者に生得的に宿る地霊、生命を賦与する霊力であり、錬金術の全作業過程で働く」という(『へルメス神話辞典』Pernety, Dictionnaire mytho-hermetique, Paris, 1758)。ペルネティはまた「魔神」(デモルゴン)にも言及し、ライムンドゥス・ルルスのこの名称を冠した論文にふれている。この論文は、ファーガソンの『化学叢書』(Ferguson, Bibliotheca chemica. Glasgow, 1906)では取り上げられていないが、おそらくプラケスクスの「生命の木」をめぐってなされた、ルルスと弟子との対話であろう。
ロッシャーは、「魔神」を「謎の神」であるとし、デミウルゴス(dhmiourgovV)に由来するものであろうという(Roscher, ed., Ausführliches Lexicon der griechischen und römischen Mythologie. Leipzig, 1844--1937, vol.1, col.987.)。占星術では、火星は人間の感情的・本能的性質を特徴づけるものと見なす。この性質を克服し変容することが、錬金術の作業の主眼であると考えられる。
コロンナの『ポリフィロの夢の恋愛合戦』(Colonna, Hypnerotomachia Poliphilii....., Venice, 1499)の冒頭に、秘儀的狼が現れるのは注目に値する。狼は、ダンテの『地獄篇』第一歌でも三つ一組の動物のなかに現れ、同じような意味付けがなされている。この低次元の三者が、高次元の三位一体なるものに対応する。だからこそそれは、第三四歌でふたたび三つの顔を持つ悪魔の姿で現れるのである。
- 註040
Bodenstein, De vita longa, Lib.1, cap.7, p.21.
- 註041
「流星の書」"Das Buch Meteorum," H2, p.79. 『エノク書』(19・2)では、堕天使の妻たちは、海の魔女(セイレン)に変身した。
- 註042
"De sanguine ultra mortem" (「不滅の生命力について」H2, p.271.)
- 註043
"Philosophia ad Athenienses" (「アテネ人への哲学」) Lib.1, cap.8, H2, p.4.
- 註044
"De pygmaeis" (「小人族=土の精について」)H2, p.189.
- 註045
"Liber Azoth," H2, p.534.
- 註046
Ibid., pp.523, 537.
- 註047
Ibid., p.542.
- 註048
Ibid., p.539.
- 註049
Ibid., pp.539, 54l.
- 註050
クローリ『魂の観念』Crawley, The Idea of the
Soul, (London, 1909), pp.19, 237.
- 註051
Ibid., p.178. なお、後出、4章「ゲラルド・ドルネウスの注解」を参照。
- 註052
ロイスナl『パンドラ』Reusner, Pandora. Das ist, die edelst Gab Gottes, order der Werde und heilsame Stein der Weysen (Basel, 1588) ; Codex Germanicus Alchemicus Vadiensis (ザンクト・カレン、16世紀の写本;Rhenoviensis (チューリヒ、15世紀の写本VS図版)。
図版2〜5参照。
以下の文章は、ュングの遺稿中に発見された『パンドラ』に関するメモである。なお日付は不詳。 編者
『パンドラ』は最も古い錬金術概説書で、ドイツ語で書かれた最初の文献といえるかもしれない。これはへンリク・ペトリの手で1588年パーゼルで出版された。まえがきから明らかなように、著者はヒエロニムス・ロイスナーという医師であり、にもかかわらずフランキスクス・エピメテウスなる偽名を用いて、本書が「作られた」ことになる。
ロイスナーは、『錬金術・錬金術師辞典』(Lexicon alchemiae sive Dictionarium alchemisticum, Frankfurt a.M., 1612)の編者として著名なルランドス博士に、これを献呈している。
『パンドラ』の本文は、『哲学者たちの薔薇園』(1550年)の編集方法を踏襲しており、同書からの引用もおびただしい。しかしそれ以外の典拠もあって、たとえば「ヘルメス黄金論説」がその一つである。
ロイスナーはパラケルススの弟子であった。ドイツ語を使って医学を普及させるという、パラケルススの創始した仕事に寄与しただけではなく、まえがきに記されているとおり、パラケルススの実践した原理を踏まえ、錬金術における霊的思想の復興に貢献した。本文の内容には、こういう革新的思想の潮流の影響は見当たらず、伝統的方法にもとづく記述によって、先人の所説をくりかえしているにすぎない。
ただし、最後に添えられた類義語の一覧表は、特に注目に値する。ここには、アラビア語およびそこから派生した用語が採録されていて、このような用語が、おそらく16世には多種多様な形で広く普及していたと思われる。しかし『パンドラ』の主要な価値は、巻末に付されている18葉の一連の象徴的図版にある。例によって、これらもまた本文の説明にはなっていない。あるいは間接的な暗示を含むにすぎない。しかし、それらは錬金術の秘密の内容に関して、かなり重要な手掛かりを与えるものとなっている。
図版のいくつかは15世紀にきかのぼるもので、『聖なる三位一体の書』Dreifaltigkeitsbuch, Codex Germanicus 598,1420(ミュンヘン国立図書館蔵)から引かれているが、大半は16世紀のものである。主なる典拠としては、パーゼル大学図書館所蔵の「錬金術写本」"Alchymistisches Manuscript"があげられる。図版の一つ(メルクリウスをハリモグラの形で象徴的に描いたもの)は、ザンクト・ガレンにある16世紀の写本からとられたものであるかもしれない。
- 註053
『心理学と錬金術』所収の図版224、232を参照(CWJ, vol.12)。
- 註054
『黄金のテーブルの象徴』Maier, Symbola aureae mensae ..... (Frankfurt a.M.), 1617, p.380.
- 註055
『詩篇』130・1。「深い淵の底から、主よ、あなたを呼びます」。
- 註056
詩篇』29・10。「主は洪水の上に御座をおく。とこしえの王として、主は御座をおく」。
- 註057
『詩篇』29・3。「主の御声は水の上に響く。栄光の神の雷鳴はとどろく。主は大水の上にいます」。
- 註058
qeovV a[nqrwpoV = 「神人」の意。
- 註059
th;n monogenhv mou =「わが一人娘」。この女性形の名詞は、娘とか『詩篇』(35・17)における魂とほぼ同義であろう。
「彼らの謀る破滅からわたしの魂を取り返してください。多くの若い獅子からわたしの身を救ってください」。
- 註060
『詩篇』22・22。「獅子のロからわたしを救い……」
- 註061
ヒッポリュトス『反証』Hippolytus, V, 8. Elenchos, Hippolytus' Werke, vol. 3 (Leipzig, 1916) 。救済者の出生の極端な卑しさは、錬金術ではさらにいっそう強調される。石は、「糞の山の上で生み出され」、「汚物のなかに見いだされる」などと表現される。「アリストテレスの論説」は次のように述べている("Tractatus Aristotelis .. ," Theatr. chem., vol.5, p.787)。
「最も完璧な人間性の腐敗墜落した沼から、辛苦のすえに引き出された生ける石は、二つの山にまたがる蛇の形をしているが、それが引き離されると滑るように動きだし、やがて洞穴に閉じ込められる」。
skwvlhx(虫)はejxoudejnhma(放出)と結びつけられているので、回虫を指すと解釈してよいだろう。
- 註062
ajnqemwvnion =アンチモン(金属塩の凝華)。リップマン『錬金術の発祥と伝播』参照(Lippmann, Entstehung und Ausbreitung der Alchemie, Berlin, vol.2, p.40.)。
- 註063
エピファニウス『パナリオン』(ホル編〉異端説第36に対する反駁の第四章 Epiphanius, Ancoratus und Panarium (ed. K. Holl), Haer. 36, cap.4, vol. 2, pp.47ff.
- 註064
Art. aurif., vol.2, p,329. (リリウスからの引用〉。また、「海のなかから人がのぼってくる」という幻については、『エズラ記』13・25、13・51を参照。
- 註065
Rosarium philosophorum (De alchimia, 1550), fol.L3v.
- 註066
Ars chemica, p,2l. 「黄金論説」の起源はアラビアであるとされているが、その内容はさらに古い典拠にもとづいている。それはハラニト派によって移入されたのかもしれない。
- 註067
Bellator ignis の意味は暖昧。Chermesはアラビア語のkermes(=深紅色)であり、ラテン語のcarmesinusに相当するイタリア語はchermisiで、その派生語がフランス語のcramoisi 英語のcarmine7 crimsonである(Du Cange, Glossarium, s.v. "carrnesinus'' 参照)。
- 註068
ルペスキツサ『万物の精髄の効力と特性』Rupescissa, La Vertu et propriété de la quinte essence de toutes choses (Lyons, 1581), p.26.
- 註069
『自然的物質における円と方形について』De circulo physico quadrato (Oppenheim, 1616), pp.27ff.
- 註070
Berthelot, Alch, grecs, vol.6, i, 2.
- 註071
von Franz (ed.), p,125.
- 註072
『オリンポスの新しき薔薇』Figulus, Rosarium novum olympicum..... (Basel, 1608), p.7l. エノクは「人間の子」である (The Apocrypha and Pseudepigrapha... , ed. by R.H.Charles, vol.2, Oxford, 1913, p.237.)。
- 註073
「神は不可解、不可視、不可測の存在であり、無限にして不確定なものであることは確かだからである。なおつけくわえれば、神は中心において万物を一致させ、合一させるからである。神はいかなる空間を占めることもない。量的存在ではないがゆえに、理解することも、見ることも、測ることもできないからである。またそれゆえに、無限にして際限なきものであるから、いかなる空間を占めることもなく、記述することも、その似姿を作ることもできない。
にもかかわらず、身体を持たぬがゆえに、神と同じくいかなる空間を占めることもないすべてのものが、霊的存在と同様にこの中心に包括されうるのだ。両者はともに、人間の理解できない次元にあるからだ。それゆえに、中心はまったく限度がないので、そのカと神秘の深淵は、いかなる言葉によっても表現し尽くすことができない」(Dorn, "Physica Trismegisti," Theatr, chem., vol.1, pp.375, 376.)。
- 註074
Ibid., p.349. 「トリスメギストスの自然学」でドルネウスは次のようにいう。「太陽は神になぞらえられ、万物の父、万物の親と呼ばれる。そのなかに森羅万象の種子と形が潜んでいるからである」。また、「月は太陽の母であると同時に妻であり、その空霊的子宮に太陽の精気を受けて、錬金術的胎児を孕む」(Dorn, "Physica Trismegisti," Theatr, chem., vol.1, pp.375, 376.)。
- 註075
Ibid., p.363.
- 註076
「トリテミウスの自然学」"Physica Trithemii," Theatr. chem., vol.1, 1659, p,39l.
- 註077
太陽は、前記の「霊的火」の発生する所である。心理学的には、光の象徴はつねに、意識とか意識化されつつある内容と関連して用いられる。
- 註078
「純粋な水」とは、ラテン・アラビア系の錬金術師のいう「永遠の水」であり、ギリシア人のいう「神の水」(ヒュドル・テイオン)である。それは水の形をとったメルクリウスの霊であり、これが物質に宿る「魂」の抽出に役立つ。メルクリウスの霊は、霊的火と対応する。ゆえに水(アクア)=火(イグニス)である。
これらの用語は、厳密な区別なしに用いられているが、概念は同一ではない。火は能動的・霊的・情動的であり、意識に近似した性質をもっているが、水は受動的・物質的であり、冷たく、無意識の性質をおびているからである。錬金術の作業過程にこの二つのものが必要なのは、それが対立物の合一を目標としているからである(『心理学と錬金術』CWJ, vol.12の所収の図版4を参照)。
- 註079
クンラートは次のようにいう。三元的物質は、「四元的物質の回転、すなわち哲学的回転運動によって浄化され……最高の最も純粋な単一性に還元される……それは至高の普遍的単子(モナド)である……隠されていたものを顕現させ、明示されていたものを秘匿することによって、不純・組雑な<一>なるものが、きわめて純粋精妙な<一>に変容するのである」(『根源的質料としての渾沌について』Khunrath, Von hylealischen Chaos, Magdeburg, 1597, p.203.)。
)。
- 註080
"Physica Trithemii," p.39l.
- 註081
ドルネウス「肉体に対する魂の戦い」Dorn, "Duellum animi cum corpore," Theatr. chem, vol.1 (1659), p.484.
この数字の象徴は、マリアの公理に関連して用いられている。「<一>が<二>となり、<二>が<三>となり、この<第三のもの>から、<第四のもの>としての<一>が生ずる」(Berthelot, Alch. grecs, vol.6, v, 6)
この公理は錬金術のすべてを貫く思想であり、三位一体を重視するキリスト教の思想とも無縁ではない。ユング「心理学と宗教」Psychologie und Religion ("Psychology and Religion"), CWJ, vol. 11, p.60.「三位体の教義への心理学的アプローチ」"Versuch zu einer psychologischen Deutung des Trinitätsdogmas"("A Psychological Approach to the Dogma of the Trinity,") CWJ, vol. 11. pp.164ff .を参照。
- 註082
シュテープ『セフィロー卜の天国』5teeb, Coelum sephiroticum hebraeorum (Mainz, 1697), p.19.
- 註083
Ibid., p.38.
- 註084
Ibid" p,42.
- 註085
Ibid" p.ll7.
- 註086
Ruska (ed.), Turba philosophorum, p.94, Codex Berolinensis 532, fol.154v (Berlin)を参照。「黄味のなかにある卵の原基、すなわち……太陽点」。
- 註087
Ars chemica.「合一の集い」(コンシリウム・コンィウギ〉は、13世紀にさかのぼる文献であると恩われる。
- 註088
Mylius, Phil. ref. , p,131.
- 註089
唯一度、稲妻がひらめき、土星の闇を木星の光に変える。ルランドスはいう(『辞典』、153頁)。「稲妻の閃光に似た金属の爆発は、高質の金属を精錬する過程で起こる……爆発は、金属を溶解しつつしだいにその質を高め、純粋な部分を抽出する過程で起こるが、作業の完成は光輝の放射によって示される」。
- 註090
ここにいう色は、孔雀の尾羽の色合いを指すが、それは作業完成の直前に現れる。
- 註091
後出、3章の「人間の二つの本性の合一」を参照。
- 註092
「現身の人間から、長寿の原動力を引き出すことはできない、それは人体の外にあるからだ」("Fragment a medica," 53, p. 291.)。
- 註093
テレニアピンはパラケルスス愛用の秘薬。それは、一般には甘露として知られていたマナの油脂で、葉に付着した粘液性の樹脂のころものことで、甘味がある。この甘露は大気から降る、とパラケルススはいう。天から降る食物なので、昇華を助ける。彼はそれを「五月の朝露」とも呼ぶ。
麦角から作られる甘露と、コールリッジの『クプラ・カン』のなかに用いられているイメージとの関連性については、トッド「コールリッジとパラケルスス 甘露とLSD」 (Todd, "Coleridge and Paracelsus, Honeydew and LSD," London Magazine, March, 1967)を参照。 編者
- 註094
ポーデンシュタインの推定によると、ノストックは火の一種ではなく、長雨のあとに発生するゼラチン状の藻(アルガエ)である。この類の藻は、現代の植物学でも、ネンジュモの名で知られている。古くは、大気ないし星から降るものとされていた(星のジェリーとか魔女のバターともいわれる)。ルランドス(『辞典』、240頁)は、これを「ある一定の星からの光線、放射物、あるいは地上に放下された滓、剰余物の類」と定義する。それゆえにこれは、天に由来するものであるところから、テレニアピンと同様に昇華を促進する秘薬である。
- 註095
Tabernaemontanus, Herbal (s.v. "Melissa").
- 註096
それゆえに、合一は『薔薇園』におけるように、翼ある二つの存在の抱擁の形で描かれる。『心理学と錬金術』(CWJ, vol.12)所収の図版268を参照。
- 註097
本文は紀元1世紀のものと見なされている(Berthelot, Alch. grecs, vol.4, xx, 8.)。
- 註098
ペルシアの錬金術師で、当時すでに伝説的人物となっていた。おそらく紀元前4世紀の人。
- 註099
文意を明快にするために、私はベルトロの本文に「パリ写本2250」の文言(kai; katevtaton w{ste)を捜
入した(Paris. Bibliothéque National, Ms.gr.2250)。
- 註100
ラテン系の錬金術師のいう「孔雀の尾羽」の色合い。
- 註101
aniadorumの複数形主格は、おそらくaniadiではなくaniadaであろう。
- 註102
ルランドス『辞典』、30頁。
- 註103
aniadus の語源は、意味の上で最も近いajnuvein(完成する)であろう。ルランドスは(『辞典』、32頁)、Anyadei を「永遠の春、新世界、来るべき楽園」と定義しているが、これも同じ解釈に立っている。
- 註104
黄道十二宮の五月に当たる<金牛宮=夕ウルス>は<ウェヌスの館>である。ギリシア、エジプトの十二宮図では、雄牛が丸い太陽を鎌型の月(ウェヌスの舟)にのせて引いている。これは合一(コンイゥンクティオ)のイメージである。Budge, Amulets and Superstitions, London, 1930, p.410.) <金牛宮>の図像は、丸い太陽と角の形をした月とが組み合わされている(
)。ディー「聖なる神秘の単子(モナス)に、錬金術においてこれに相当するものの記述がある(Dee, "Monas hieroglyphica, Tbeatr. chem, vol. 2, 1659, pp.200ff.)。
- 註105
この部分は、次の文の逐語訳("nitetque ac splendet flammulae color")。しかし、パラケルススはアグリッパの『オカルト哲学について』を熟知していたのだから、これは同書の文への言及ないし引用であるかもしれない。同書の第1巻、第二七章には、「鋭い刺をもち、触れると皮膚をひりひりさせ、また皮膚を刺したり切り傷を負わせるアザミ、刺草、「小さな火炎状の草」(flammula)など、いくつかの木や植物のことが述べられている。ここにいう「小さな火炎状の草」とは、諸種のウマノアシガタを指す名称であるが、これは腐蝕剤とか発泡剤として用いられ、ディオスコリデスも言及している(Dioscorides, Medica materia, Venice, 1554, p.295.)。
- 註106
ピキネルス『象徴的世界』Picinellus, Mundus symbolicus (Cologne, 1687), s.v. "urtica."
- 註107
アナクムスはスカイォラェと関連づけて用いられている。後出、3章の「<最大の人間>の四元性」を参照。
- 註108
「匂い玉(pomander)を指す名称としては、pomanbra=pomum ambraeが用いられる。ambra はマッコウクジラから取る解毒剤で、その芳香(アムベルグリス〉ゆえに珍重された。これ以外の香料も、病室の悪臭に満ちた空気を追い払うために、「悪臭防止剤」として用いられた。
麝香(ムスクス)は、香料としてディオスコリデスが言及している(Medica materia, p.42.)。アグリッパによれば、ウェヌスに従属する香料のなかに、「ラダヌム、アムプラ・ムスクス」が含まれている(Occult. phil., vol.1, p.34.)。パラケルススの本文では、「匂い玉のなかの麝香」
のすぐ次に「ラウダヌム」がくる。ディオスコリデス (Medica materia, p.106.)によれば、「ラダヌム」は外来種の植物の汁で、その葉が「春に脂肪質をおびたときに……ラダヌムというものが作られる」。タベルナエモンタヌスは、この汁が芳香を放つという。
- 註109
「アへンチンキ」(laudanum)とは、パラケルススの秘薬。これは阿片とは無関係であるが、前記の「ラダヌム」であるかもしれない。アダム・フォン・ポーデンシュタインは、アヘンチンキに関するパラケルススの二つの処方に言及している (De vita longa, p.98.)。