テーレゴネイア

[解説]
 叙事詩の環の最後の詩は、『オデュッセイア』の続編たることを意図され、オデュッセウス人生の終わりについての釣り合いのとれていない伝説の束となっている[1]。この中で、彼の息子の数は、1人から4ないし可能的には5人が育てられ、3人の異なった母から生まれている。

 テイレシアースは、『オデュッセイア』(11.121-137)の中でオデュッセウスに告げている、イタケーに帰ったら、島内を、海を知らない人を見つけるまで旅すること、そしてそこに櫂を奉納し、ポセイドーンに供犠すべし、と。そうすれば、彼は家郷に帰り、平和裏に民を統治するはずであった。結局は、往古には、彼は海から来る穏やかな死に倒れることになっていた。『テーレゴネイア』の詩人エウガムモーンは、先の預言の方を発展させた。オデュッセウスはテスプローティアに旅するばかりではなく、そこで、地方の女王と結婚し、彼女が亡くなり、彼らの間に生まれた息子をその王国の支配者に残すまで滞在する。イタケーに帰って、彼はペーネロペーが彼に生んだもうひとりの息子を見出す。その一方、その昔、キルケーとの1年間の逗留は、やはり息子を果実として生んでいた。これがテーレゴノス、「遠くに生まれた」の意、である。テーレゴノスの役割は、息子が闘いの中で、知らずに父親を殺すという民間説話を叙事詩に導入することであった。このモティーフは、HildebrandとHadubrand、SohrabとRustum、その他の物語以来なじみのものである[2]。アカエイの棘の槍の使用は、オデュッセウスの海からの死についての預言のいくぶん牽強付会な充足のためのものである。皆がそれぞれに結婚し、永遠に幸せに暮らしたという結末は、純粋の中間小説である。

 このお菓子の作者は、560年代に活動したキュレーネー人と同一視されている。このことは、オデュッセウスとペーネロペーとの間に生まれた2番目の息子がアルケシラーオスと呼ばれたという情報(fr. 4)によって確証されるように見える。ドーリス方言では、アルケシラーオスは、キューレーネーのバットスの後裔の王族の名前であった。アルケシラーオス2世は、560年代に統治した。オデュッセウスにこの名の息子を与えることによって、エウガムモーンは、バットスの末裔はオデュッセウスから血を引くのだという主張に信任状を与えているのである。この物語のテスプローティアの部分は、初期には実在したかも知れないが、地方貴族の気取りを勢いづけるために同様にこしらえられたものである。[3]

[1] これらについては特にAlbert Hartmann, Untersuchungen über die Sagen vom Tod des Odysseus (Munich, 1917)を見よ。
[2] M. A. Potter, Sohrab and Rustem. The Epic Theme of a Combat between Father and Son (London, 1902)を見よ。
[3] エウガムモーンはこれをムーサイオスから剽窃したというクレメンスの申し立て(TESTIMONIAを見よ)は、これ方の名前で流布している詩と何らか独自性を有していることを意味するかも知れない。パウサニアスは(fr. 3で)『テスプローティス』を引用しているが、これは『テーレゴニア』と同一であろう。




テーレゴネイア(Thlegovneia)
テスプローティス(QesprwtivV)

TESTIMONIA

Clem.Strom. 6.25.1
 〔ギリシア人たちは〕他人の作品を勝手気ままに剽窃して、自分のもののように差し出す。まるで、クレーナイ人エウガムモーンが、ムーサイオスからテスプロートイ人に関する完全な書を〔剽窃した〕ように。

Phot. Bibl. 319a26
 そして叙事詩の環は、イタケーへのオデュッセウスの上陸まで、さまざまな詩人たちによって充足されながら完結する。そこでは、わが子テーレゴノスによって、〔父とは〕知らぬままに殺される。

Euseb. Chron.
 Ol. 4.1:(v. ad Chinaethonem).
 Ol. 53.2〔567/566〕:キュレーネー人エウガムモーン、『テーレゴネイア』を構成して、認められる。

Choerob.(?) peri; posovthtoV, An. Ox. ii.299.26 (Herodian. i.249.9, ii.451.20 Lentz)
 とにかく、著された人の所行に関することは、二重母音ειで書かれる。例えば、『オデュッセイア』はオデュッセウスに関わる所行、『ヘーラクレイア』はヘーラクレースに関わる〔所行〕、『テーレゴネイア』は、テーレゴノスに関わる〔所行〕のように。

Cf. Eust. Il. 785.21.


ARGUMENTUM

Proclus, Chrestomathia, suppleta ex Apollod. epit. 7.34-37
 この後、ホメーロスの『オデュッセイア』が来る。次いで、キュレーネー人エウガムモーンの『テーレゴネイア』2巻。内容は以下のとおり。

 (1)求婚者たちは、親類の者たちによって埋葬される。そしてオデュッセウスは、ニュムペーたちに供犠した後、畜群を検分するため、エーリスに出帆する。そしてポリュクセノスに客遇され、贈り物として混酒器を受け取り、これには、トロポーニオス、アガメーデース、アウゲイアースにまつわることが〔描かれている〕。次いでイタケーに帰帆し、テイレシアースに言いつけられていた供犠を遂行する。

 (2)そしてその後、テスプローティア人たちのもとに到着し、<テイレシアースの占いどおり供犠して、ポセイドーンを宥める。Ap.>そしてテスプローティア人の女王カッリディケーと結婚する。次いで、テスプローティア人とブリュゴイ人との間に戦争が勃発する。前者の嚮導はオデュッセウス。ここにおいて、アレースがオデュッセウス麾下の軍勢を敗走させ、アテーナーが戦闘で彼〔アレース〕に対峙する。これをアポッローンが分ける。カッリディケー亡き後、王国はオデュッセウスの息子ポリュポイテースが受け継ぎ、自分はイタケーに到着する。<そして、ペーネロペーからポリポルテース〔プトリポルテース〕が自分に生まれていることを見出す。Ap.>

 (3)一方、テーレゴノスは、<キルケーから、〔自分が〕オデュッセウスの子であることを知り、Ap.>父を求めて、船出し、イタケーに上陸して、島を荒らす。そこでオデュッセウスが救援に来て、〔親子であることを〕知らずに、子によって亡き者にされる。<そこでオデュッセウスが助けに来て、手に持った、アカエイの棘を穂先に有する槍で傷つけられ、そしてオデュッセウスは死ぬ。Ap.>

 (4)さて、テーレゴノスは過ちを悟り、父親の遺体を、テーレマコスとその母親ペーネロペーのもとに移す。すると彼女は彼らを不死とする<浄福者たちの島々に遣る。Ap.>そしてテーレゴノスはペーネロペーと、キルケーとはテーレマコスがいっしょになる。


断片集

1* Ath. 412d
 〔オデュッセウスは〕老人ながらも、

食べきれないほどの肉と甘い酒をがつがつ喰らった。

2 Synes. Epist. 148
 跳びあがる波も、一晩中、彼らを目覚めさせることはなかったからである。

Telegoniae ascriptis E. Livrea, ZPE 122 (1998) 3.

3 Paus. 8.12.5
 そして道の右側に、高い土墳が〔ある〕。言い伝えでは、ペーネロペーの塚だということで、彼女にまつわることでは、『テスプローティス』と名づけられる詩に彼らは同意しない。その詩の中では、トロイアから帰郷したオデュッセウスとの間にペーネロペーはプトリポルテースという子をもうけたことになっている。

4 Eust. Od. 1796.52
 『テーレゴネイア』を書いたキュレーナイオス人は、カリュプソーからは、オデュッセウスの息子として、テーレゴノス、あるいは、テーレダモスを、ペーネロペーからは、テーレマコスとアルケシラーオスを書き留めている。[註]

[註]「カリュプソー」は「キルケー」の間違いである。「テーレゴノス、あるいは、テーレダモス」は、エウスタティウスが写本の中に見つけた異文に注意を引く彼の特徴的なやり方である。アルケシラーオスはプトリポルテースの二者択一的な名前であろう。

5 Schol. Od. 11.134, ”死はそなたに潮海から”
 潮海の外で〔という意味〕。つまり、この詩人は、テーレゴノスのことと、アカエイの棘のことを知らなかったのだ。

 しかし何人かの人たちが……謂うには、キルケーの願いで、ヘーパイストスは、テーレマコスのために、海のアカエイから槍をこしらえてやった。〔このアカエイは〕「ポルキュスの湖」で魚を食っているのを、ポルキュスが亡き者にしたものである。この槍先は金剛から成り、柄は黄金だという。これで彼はオデュッセウスを亡き者にした。

 ホメーロス後の若手詩人たちは、テーレゴノスにまつわることを、キルケーとオデュッセウスの子と造形しなおし、彼は父親を探してイタケーに赴き、知らずに父親をアカエイの棘であやめたように思われている人物である。

6 Eust. Od. 1796.52
 『ノストイ』を詩作したコロポーン人が謂うところでは、テーレマコスは後にキルケーを娶り、テーレゴノスはキルケーの子であるが、逆にペーネロペーを娶ったという。[註]

ここでは、エウスタティウスはテーレゴノスの母親については正しかったが、詩人については間違った。


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