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ダイヤモンド(ajdavmaV)

 逐語訳では「世界-女神」の意味である。 太古の人々は宝石は神の持っている本質そのものが滴り落ちて、それが固体化し、世界が創造されたときに岩石に埋めこまれたものである、と信じていた。ダイヤモンドは神々を生んだ母神に捧げられた。極めて堅いために、他のすべての石をダイヤモンドが「支配した」ためである。タントラを信奉するチベットでは、大地女神タラの本質は、今でもなお、ダイヤモンドの本質と同じ本質を持つ雌ブタ(タラの化身)の中に存在すると思われている。この雌ブタは昔からダライラマの妻、あるいはダライラマに相当する女性であるとされてきた。

 ダイヤモンドは至高女神に捧げられるものであったために、聖母マリア崇拝にも引き継がれた。そして、このようにダイヤモ ンドは純潔との連想が強いために、婚約の贈り物としてふさわしいものであると考えられるようになったのである。タロットカードから今日のトランプカードに変わると、 昔の五芒星形の組み札にダイヤの組み札が取って替わった。五芒星形は大地母神(夕ラ)と女性の持つ大地の要素のシンボルであった。


Barbara G. Walker : The Woman's Encyclopedia of Myths and Secrets (Harper & Row, 1983)



 diamondの語源、ギリシア語の ajdavmaV は「金剛不壊」の意。ダイヤモンドが硬いことは古くから知られていたが、ダイヤモンドが特に珍重されたわけではない。現代でこそダイヤモンドは「産出された貴石の価値の95%を数えるが、18世紀の後期にでさえこの数字は50%にすぎなかったし……われわれの時代(近代)以前では知られていなかったと思われる」(フォーブス『古代の技術』)。

Playing_Card

 トランプカードよりもタロットカードの方が起源が古いという考えは、今日では支持されていない。
 15世紀頃、アラビアからヨーロッパに入って来た遊戯トランプは、すでに貨幣・杯・刀剣・ポロ競技用のスティック(棒)の4種のスート(組み札)に分かれていたと考えられる。それはあたかも、「戦う人」「祈る人」「耕す人」「商う人」の4階級を象徴するものであった。ところが、身分分化の未熟なとくにドイツ語圏では、異なったスートの発展をした。その影響も受けつつ、15世紀の後半、フランスで現在の記号に定着したと考えられている。(右図はスートの変容)
 したがって、「貨幣(coins)」から、タロットカードではペンタクル(五芒星形)へ、トランプカードではダイヤモンドへとそれぞれ独自の展開をした、と考えるのが妥当である。