ヘルメス選集(CH) VII

神の覚知をもたないことが、人間どもにおける最大の悪であること





[底本]
TLG1286
CORPUS HERMETICUM
vel Hermes Trismegistus, vel Hermetica
(A.D. 2?/4)
7 1
1286 007
$Oti mevgiston kako;n ejn ajnqrwvpoioV hJ peri; tou: qeou:
ajgnwsiva, ed. A.D. Nock and A.-J. Festugière, Corpus
Hermeticum
, vol. 1. Paris: Les Belles Lettres, 1946 (repr. 1972): 81-82.
5
(Cod: 254: Phil., Theol.)




神の覚知をもたないことが、人間どもにおける最大の悪であること

1
 どこに運ばれ行くのか、おお、人間どもよ、覚知なしという生(き)のロゴスを飲みほして、酩酊し、その〔ロゴス〕を担うこともできず、もはやそれを吐き出そうとしているとは。素面となって、立て。心の眼によって仰ぎ見よ。もしも汝らすべてにはできないなら、せめては、できる者たちだけでも。なぜなら、覚知をもたぬという悪が全地に溢れ、身体の内に閉じこめられた魂を〔身体と〕ともに腐らせ、救済の港に碇を降ろせなくしているからだ。


 そういうわけだから、汝ら、奔流に押し流されてならない、むしろ逆流を利用して、救済の港に行き着くことの可能な者どもは、そこに碇を降ろして、汝らを覚知(gnwvsiV)の門へと手引きしてくれるはずの道案内人を探せ、そこにあるのは、闇から浄められた輝く光、そこではひとりとして酩酊する者なく、万人が素面で、見られることを望むかたを心で見つめている。というのは、〔このかたは〕聞かれることなく、ましてや言われることもなく、肉眼で見られることもなく、〔見られるのは〕理性(nou:V)と心によってなのだから。
 そこで先ず、汝は身につけた外衣を引き裂かなければならない、覚知なしという織物、悪の支え、腐敗の束縛、暗黒の囲い、生ける死、感覚を持った屍体、引きずりゆく墓標、住みついた盗賊、愛するものらによって憎み、憎むものらによって妬むものを。


 このようなものが、汝が外衣として纏っている敵であり、汝を自分〔敵〕の方へ、下方へと締めつける、 — それは、汝が仰ぎ見て、真理の美と〔そこに〕内在する善を観照した結果、これ〔敵〕が汝にめぐらせた策謀を理会して、これの悪を憎むことのないようにするため、思いなしをつくる(doou:nta)[しかし確信をつくるのではない(kai; mh; nomizovmena)]諸感覚器官をば、汝が多量の質料(u{lh)で塞ぎ、憎むべき快楽で充満させて、その結果これ〔諸感覚器官〕を感受できぬものにして、汝が聞くべきことを聞かず、見るべきものを見ないようにするためである。

2008.09.04. 訳了。


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