§1 私は彼(ヘルメス・トリスメギストス)に関するものとしては、ただ次の講話(ロゴス)を一つだけ書き写した。というのは、それは実にたくさん私の手元に届いているからである。私はそれらすべてを書き写すことはしなかったが、その理由は、あなたがたのところにも同じように届いているはずだからである。否、次の講話についても、これをあなたがたのために書き写すことが私にはためらわれる。なぜなら、おそらくそれも、すでにあなたがたの手に入っているだろうから。もしそうであれば、余分なお荷物になるだけだろう。それほどに、彼の者(ヘルメス・トリスメギストス)に関わる講話(ロゴス)は、私の手に入っているものだけでも、数多いのである。
§2 ヘルメス【65】「しかし、もしお前がこの秘義の本質を掴みたいと思うなら、男と女が営む性交のことを考えてみなさい。それは見事な模像となる。すなわち、男は(快感の)頂点に達すると、精液が放出される。その瞬間に女はその男の力を受け取り、男も女の力を受け取る。というのも、これが精液の働きなのだ。それゆえ、性交は隠れたところで行なわれる。そうすることで、男女両性は事を理解しない多くの者たちの目にさらされて、恥をかくことを避けることができる。両性のそれぞれが自分の分を果たすことで生殖は成り立つ。というのも、生殖行為は、事を知らない者たちの面前で行なわれるならば、嗤うべき、かつ信じ難いことと(思われる)からである。
§3 しかし、それはむしろ言葉と業に関わる聖なる秘密なのである。それは聞かれてはならないだけではなく、見られてもならないのである。だから、【66】そのような人間たちは侮辱する者たち、神なき者たち、不敬虔な者たちである。
§4 しかし、それとは別の種類の人間たちは多くはいない。すなわち、敬虔な者たちは数えても少ない。多くの者たちの場合、確固たるものについての知識がないために、悪が生じてくるのである。なぜなら、真に確固としたものについての認識こそが、物質からくる情念を癒してくれるものだからである。だから、知識は認識から生じてくるのである。
§5 ところが、無知がのさばっていて、人間の魂に知識が具わっていない場合、その魂には情念が残ったままであり、それから癒されることがない。そして悪もその魂に不治の傷のように随伴する。その傷は魂を食い荒らす。魂は悪に随伴するその傷によって腐敗して、悪臭を放つようになる。しかし、そのことに神は責任を負わない。なぜなら、神は人間に認識と知識を送り出したのだから」。
§6 アスクレビオス「おお、トリスメギストスよ。彼はそれらを人間たちにだけ送り出したのですか」。
§7 ヘルメス「そのとおりだ。アスクレビオスよ。彼は人間たちにだけ送り出したのだ。そして、なぜ彼は人間たちにだけ認識と知識を贈与して、彼自身の善に与らしめたのか。われわれとしてはその理由を語るべきであろう。それゆえ、よく聞きなさい。父であり、主である神は、人間を神々に倣って創造したのである。神は人間を【67】物質の領域から取ってきた。[神は]物質を[自分の霊と同じ分量だけ]被造物の中へ[分与したので]、(人間の)情念がそれ(物質)によって生じてきた。この理由から、情念はいつも人間の体の上に広がろうとするのである。というのは、そのような生き物は(物質的な)食物を摂取する以外には、存続してゆけないのである。人間は死ぬべき定めのものであるゆえに、重荷とも害ともなる、いくつかの欲望にも避け難く従属している。しかし、神々の方は純粋な物質から成立してきたので、いかなる知識も認識も必要としないのである。神々の不死性がその知識と認識に対応している。神々は純粋な素材(物質)から成立してきたので、彼らにおいては、その不死性が必然的 に認識と知識の場を占めるのである。
§8 しかし、人間には神は限界を設けた。すなわち、人間を知識と認識に参与するべき存在にした。私がすでに初めのところで述べた理由によって、神はそれら(知識と認識)を完全なものとした。それは人間がそれによって、地上的な情念と悪徳から、神の意志に従って、離脱するためである。神は人間の死すべき存在を不死性へと導き、人間が善なる、かつ不死の存在となるようにした。
§9 なぜなら、すでに述べた通り、神は人間に二つの本性を創造したからである。一つは不死のもの、もう一つは可死的なもの。ぎうして人間は、神の意志によって、【68】神々に勝るものとなったのである。すなわち、神々はなるほど不死ではあるが、人間だけが不死であると同時に可死的でもあるからだ。それゆえ、人間は神々と親類なのである。そして、人間と神々はお互いの本質と行動のことをよく知っている。神々は人間のそれを、人間は神々のそれを。
§10 しかし、アスクレビオスよ、私が今語っているのは、知識と認識を身につけた人間たちのことである。それらを身につけていない者たちについて、何か悪しきことを言うのはよろしくない。なぜなら、私たちは神的なものに身を献げているのだから、ひたすら聖なる言葉を口にしなければならないからである。
§11 私たちは今や、人間と神々の問の交流について語るべきところまでやってきた。アスクレビオスよ、一体人間の能力がどこにあるのかを理解しなさい。すなわち、万物の主である父が神々を創造したのと同じように、人間も、現に地上の可死的生き物でありながら、神に似たものであり、それ自身神々なのである。人間は力を受けただけではない。彼は自分からも力を与えるのだ。人間はただ神とされるというだけではない。彼は自分でも神々を創り出すのだ。アスクレビオスよ、お前はこのことに驚くか。お前も他の多くの者たちと同じで、このことを信じないか」。
§12 アスクレビオス 【69】「トリスメギストスよ。私は何と言ったらよいのか、[分かりかねます]。なるほど、あなたの言葉を信頼すると同時に、あなたがおっしゃったことにびつくりもしています。ただ、それほどに大きな力を受けた人間というものを、私は幸福な存在だと思います」。
§13 ヘルメス「アスクレビオスよ。本当に、すべての存在よりも大いなる者は驚嘆に値する。そのことは神々の種族については端的に明白である。私たちは他のすべての者たちと同じように、神々の種族は純粋な素材(物質)から生じてきたのであり、彼らの身体は頭部だけだと考えている。しかしながら、人間たちが創り出すものは神々の模像に過ぎない。それは物質の中でも最下層の部分から、かつ人間の模像の中でも最後のものから生じたのである。(それゆえ)それら(創り出された神々)は頭部だけではなくて、身体のその他の部位も、人間たちの姿に倣って、すべて具えているのである。さて、神が自分の姿に似せて内的な人間を創造したいと欲したとき、人間もまた地上で彼の像に従って神々を創り出したのである」。
§14 アスクレビオス「トリスメギストスよ。あなたが話しているのは、偶像のことではありませんか」。
ヘルメス「アスクレビオスよ。いや、偶像というのは、お前がしゃべっていることだ。アスクレビオスよ、お前も私の言葉を信じていないわけだ。それはお前自身が見ての通りだ。お前は魂と霊を持っていて、かくも偉大な業を成し遂げる者たちのことを偶像と呼ぶのだ。お前が偶像と呼ぶのは、予言をなす者たち、【70】[病気を]もたらす[と同時に]それらを癒す者たち、疾病も[送り出す]者たちのことだ」。
§15 ヘルメス「アスクレビオスよ。お前はエジプトがヘルメスの模像であることを知らないのか。いや、もっと言えば、天と天にあるすべての力たちの住処であることを知らないのか。もし、私たちが真理を語るべきなら ば、この私たちの国は世界(宇宙)の神殿なのだ。しかし、お前は知っておかねばならない。エジプトが信心深さを追い求めてきたのが無駄であったことが明らかになると共に、宗教に関わるあらゆる精進がないがしろにされる時がやがてやってくることを。なぜなら、その時には、すべての神々がエジプトから立ち去り、天に帰って行くであろう。そしてエジプトは寡婦のように神々から見放されるであろう。そして見知らぬ国民がエジプトにやってきて、支配するだろう。そしてエジプト人たちは自分たちの神々に礼拝を献げることを阻まれるだろう。それだけではなく、彼らは拉致されて、神に仕え神を拝むことを厳しく罰せられるだろう。
§16 そしてその時には、それまで他のどの国にも勝って信心深かったエジプトの国は不信心になるだろう。それはもはや神殿ではなく、むしろ墓で満ち溢れた国となり、神々ではなく、死体で満たされるだろう。エジプトよ、ああ、エジプトよ、〈お前の敬虔さ〉はお伽噺に類するものとなり、お前が行なう神々への礼拝を【71】信用する者は誰もいないだろう。また、(お前の)赫々たる業績と聖なる言葉を信用する者も(誰もいないだろう)。たとえ、お前のすばらしい言葉が石に彫られようとも。ああ、エジプトよ。スキュタイ人であれ、インド人であれ、その他何人であれ、野蛮人たちの信心深さの方がお前を凌ぐだろう。
§17 エジプト人そのものについては、私はどう言えばよいか。彼らはエジプトを立ち去らないだろう。むしろ、神々がエジプトの国を離れて天に帰って行ってしまった後、すべてのエジプト人が死に絶えるだろう。そして、エジプトは神々も住む者もいない荒地となるだろう。
§18 そしてお前、親愛なる河ナイルよ。お前の流れが水よりも血となる日がやがてくるだろう。そして、死体の築く山の方が堤防よりも高くなるだろう。そして死者たちよりも、今現に生きている者たちのために、より多くの涙が流されるだろう。〈そして現に生きている者〉はたしかにその話す言葉のゆえに、エジプト人と見なされるだろう。しかし、他方で彼は アスクレビオスよ、お前は誰のために泣くのか その挙動のゆえに他所者と見なされることだろう。
§19 神々しいエジプトは、それ以上にひどい目に遭わねばならないだろう。神々に愛されてきたエジプト、神々の住処であったエジプト、信心深さの学校であったエジプトは、神なき不信心の手本となるだろう。
§20 そしてその日には、世界は【72】[劣悪]と不信心[のゆえに]もはや驚嘆の的ではないであろう。そして、人々はそれ(世界)をもはやあがめないだろう。世界のことを善いとも美しいとも、人々は言わないだろう。それは無二のものでも美しいものでもなく、むしろすべての人間にとって重荷となるだろう。それゆえ人々は、それをないがしろにするだろう。すなわち、神の栄光ある世界、比べるべきものもないほどの作品、神の働きのなせる業を。それに具わる完全さは無数の形で眺められ、惜しげもなくあらゆるもので飾られ、どのような視線をも許容するものであるにもかかわらず。人々は光よりも闇を好み、生命よりも死を好む。天に目を馳せる者は誰もいない。信心深い者は気違いと見なされ、神なき者が賢者のごとくに敬われる。臆病者が勇者と見なされ、善人が悪人として罰せられる。そして、魂およびそれに関わるものについて言えば、また不死性およびその他、私がお前たちに語ってきたすべてについて言えば、おお、タト、アスクレビオス、アンモンよ、人々はこれらすべてをないがしろにするのみならず、考えられないような陵辱を加えるだろう。しかし、お前たちは私を信じるがよい。これらの(信じる)者たちは生命を極度の危険にさらすことになるだろう。そして、新しい法律が宣布されるだろう。【73】[ 第1−4行はほぼ完全に欠損、翻訳不能 ]
§21 [ ±? ]善なる[霊たちは]いなくなる[だろう]。悪しき天使たちだけが残って、人間と一緒にいて、彼らを倣慢、神なき不信心、戦争、略奪で満ち溢れた悪しき行ないに引きずり込むだろう。そして、彼らに自然に外れた行為を教えるだろう。
§22 そのような日々がくると、大地はもはや確固としてとどまらず、海を行き交う船はなくなり、天を行く星辰も見分けられない。神の言葉を告知する聖なる声も沈黙し、大気は病むだろう。神を知らぬ無知、不正直、すべて善なる言葉に対する軽蔑。これが世界の老年期の(徴)である」。
§23 ヘルメス「アスクレビオスよ。これらのことが起こつてしまうと、主であり、父である神、すなわち、最初の『独り子なる神』を創造した方が、そのように生じたことを眺め降ろす。彼の計画は善であって、秩序の乱 れに逆らうもの。それゆえ彼はそこ(世界)から誤りを取り除く。彼は邪悪を取り除く。彼は時にはそれを洪水で滅ぼし、時には燃え盛る業火で焼き尽くし、時には戦争と疾病で壊滅させて、ついには【74】この業の[ 第1−5行はほとんど完全に欠損、翻訳不能 ]をもたらす。そして、これが世界の誕生である。信心深く善なる者たちの本性が、時間的な周期を経る中で再興されるだろう。その周期には、かつて始まりというものがなかった。なぜなら、神の意志は、自然と同じように始まりというものがないのである。自然は、彼の意志なのだ。なぜなら、神の自然が意志であり、その意志は善なるものなのだ」。
§24 アスクレビオス「トリスメギストスよ。その計画と意志は互いに一致するのですか」。
ヘルメス「アスクレビオスよ、そのとおり。なぜなら、彼の意志が彼の計画の中に含まれているからである。彼が何かを持っているとして、それは彼が何か欠乏を抱えているからではない。彼はあらゆる場所を満たしている充満であり、(すでに)充満しているものが彼の意志なのだ。そして善なるもの、そのすべてを彼は意志し、彼が意志するもの、それを彼は持っている。彼は善なるものを持っていて、それを意志する。そして善なる世界は、その善なるものの写しなのである」。
§25 アスクレビオス「トリスメギストスよ。この世界は善なのですか」。
ヘルメス「アスクレビオスよ、それが善であることは、私がこれからお前に教える通りだ。なぜなら、【75】[ 第1−2行は完全に欠損、翻訳不能 ][神が、……霊、魂、そして]生命を[配分する]のと同じように、[世界も]物質から善なるものを生じさせるからである。すなわち、その善なるものとは、気候の移り変わり、果物の成長と成熟、およびこれに類するすべてのことである。それゆえに、神は天の高みを支配しているのである。神はいたるところにおられて、すべてを見ておられる。ただし、神がおられる場所そのものには、天はなく、星もなく、どのような身体的なものも存在しない。造物主は、大地と天の中間を支配している。彼はゼウスと呼ばれるが、それは「生命」という意味である。ゼウス・プルートニオスこそが、大地と海の支配者である。しかし、すべて死すべき生き物のために食べ物を備えるのは彼ではない。なぜなら、果実をもたらすのはコーレーたちだからである。これらの力が、いつでもそろって大地の周りで働いており、他のものの力がいつでも存在しているものの〈上に働いている〉。
§26 しかし、地上の君主たちがそれら(の力)を移植して、エジプトの一番上端にある別の町に住まわせるだろう。太陽が沈む方角にその町を建てるだろう。すべての人間が、海から陸からやってきて、その中へ入ってゆくだろう」。
§27 アスクレビオス「トリスメギストスよ。彼らはその後、一体どこに定住することになるのですか」。
ヘルメス「アスクレビオスよ。それは[リビアの]【76】大いなる沙漠の山の中にある町である」。
§28 ヘルメス[ 第1−4行ほぼ完全に欠損、翻訳不能 ]真の事情を知らないばかりに、最大の禍いであるかのように[ ±? ]。すなわち死は、もしそれが訪れるならば、身体の苦痛が解消されることである。また、数から言えば、身体の数が満ちた時に、(死が訪れるのである)。その数とは、身体の合成のことである。身体はもはや、(内的な)人間を担い得なくなった時に死ぬのである。身体の解消と、身体に具わる感覚による知覚の損壊、これが死である。人はそのいずれをも恐れるべきではない。恐れるべきは、むしろ、誰にも分からないこと、誰にも信じられないことである」。
§29 アスクレビオス「誰にも分からないこと、誰にも信じられないこと、とは?」
ヘルメス「アスクレビオスよ、よく聞きなさい。大いなる悪霊がいるのだ。偉大な(かつ権能の)神は、その悪霊を人間たちの魂を監督し裁く者に任命したのである。神は彼を、天と大地の間の大気の領域の中央に置いた。そして、魂が肉体を離脱する時がくると、その魂は否が応でもこの悪霊に顔を合わせねばならない。この悪霊は、直ちにこの者(内的人間)を自分のもとへこさせる。そして、彼の生前の生き様がどうであったかに従って審査するのだ。さて、その人間が世界の中に生まれてからの(生前の)言動を、すべて信心深く行なつてきたとその悪霊が見なすならば、それはその者から離れてゆく。【77】[ ほぼ完全に欠損、翻訳不能 ][ ±7 ]彼の向きを変える[ ±7 ]しかし、も[しその悪霊が]、誰か生前の生涯を悪しき言動でもって過ごしてきたのを[見て、その者に立腹すれば]、その者(の魂)が上に向かって昇って行こうとする時に、それを捕まえて、下に向かって投げ降ろす。その結果、その者(の魂)は天と地の間に宙づりになり、大いなる刑罰を受ける。そうして、その者は何の希望もなくなって、ひどく落ち込むことになる。そしてその魂は、大地の上にも天上にも場所を得ず、あの宇宙の大気の海にまでやってくる。その場所では巨大な火が燃え盛り、水は凍って氷ばかり、炎と大混乱が起きている。そして、多くの肉体がそれぞれ違った仕方で懲罰を受けている。ある魂たちはすべてを流し去る奔流に投げ込まれ、別の魂たちは業火の中に突き落とされ、それに呑み込まれる。それでも私は、これが魂の最期だとは言わない。むしろ、こうして魂は(さらに大きな)禍いを免れるのである。つまり、これは死に等しい刑罰なのだ。
§30 アスクレビオスよ。これらのことを、信じねばならない。そうならないように、恐れねばならない。不信心な者たちとは、不敬虔で罪を犯す者たちのことである。時がくれば、彼らは無理矢理に信じさせられるだろう。そして、ただ言葉を聞くだけではなくて、事の道理を自分で納得するだろう。なぜなら、もし彼らがもっと以前に信じていたならば、こんな目に遭わずに済んだことだろうから」。
§31 アスクレビオス「ただ単に[ ±? ]ではなく、【78】[ 完全に欠損、翻訳不能 ]
ヘルメス「[おお、アスクレビオスよ、]最初にまず、すべ[て地]上の存在は[死す]べきもの、すべての身体は朽[ちる]ものなのだ5[ ±8 ]悪の[ ±9 ]この種の者たちと一緒に[ ±6 ]。なぜなら、ここ(地上)にあるものはかなた(天上)にあるものとは似ていないからである。それはちょうど、悪霊たちが[ A ]人間たちを[ B、A+B=±5 ]そこで軽蔑する[ ±6 ]のと同じである。しかし、それが唯一の(処罰の)在り方ではない。実際には、かの場所にいるのは神々であって、ここ地上では、日々隠れ通していた者をもっと厳しく処罰するだろう」。
§32 アスクレビオス「トリスメギストスよ。彼らの中にはどんな悪行が宿っているのですか」。
ヘルメス「アスクレビオスよ。おそらくお前は、例えば或る人が神殿から何かを盗み出せば、その者は神なき罪人だと思っているのではないか。そのような者は強盗あるいは泥棒だ。しかし、(私たちにとっての)目下の事柄は神々と人間に関わるものである。ここ(地上)で起きることを、かしこ(天上)で起きることと比べてはならない。私がこれからお前に告げることは秘義であって、誰一人それを信じる者はいないだろう。すなわち、魂たちがとことん悪行に染まってしまっている場合、それらはもはや大気の領域にはとどめられず、悪霊たちのいる場所にとどめられるのである。それらの場所は、苦痛と血と殺人で満ち満ちている。泣くこと、嘆息、呻きがそれらの魂の食べ物となる」。
§33 アスクレビオス「トリスメギストスよ。その悪霊たちというのは、一体何者なのですか」。
ヘルメス「アスクレビオスよ。彼らの多くは 『縊死させる者』とも呼ばれる。また別の者たちは、それらの魂を高いところから突き落とし、また別の者たちは鞭打ち、水と火の中に投げ込んで、人間たちを苦悶にさらして、のたうち回らせる。なぜなら、彼らは、神々の魂も、理性ある人間の魂も持ち合わせず、恐ろしい悪からなる魂しか持っていないからである」。
2010.12.24. 入力。