[略伝]
アテナイの立法家、筆頭アルコン(任期 前594)。
貴族だが富裕でない家門の出身。領有を放棄する気になっていたアテナイ人にサラミス島をめぐるメガラとの戦争の継続を説いて、はじめて頭角を現わした。彼はこれを詩を用いて行い、その後も彼の政策を表明し正当化するためにも詩文を利用した。
この当時、さまぎまな理由からアテナイでは深刻な不満が高まっていた。多くの貧農が大変過酷な条件の下で富裕な隣人のへクテモロイ(隷属農民)となっていた。債務不履行の場合には、これらの隷農やその他の債務者に対する制裁として、借財者とその家族は奴隷として売られることもあった。同じ頃に、今まで無力だった人々のうちから政治権力の要求が出てきた。ソロンは適切な調停者と考えられ、アルコンに選出された(伝承では前594年)。
彼はへクテモロイと負債奴隷制を廃止し、すべての負債の帳消しを行なって、貧者の重荷を振り落とした(「重荷おろし〔セイサクティア〕」)。
政治的には、もっと大きな権力掌握を望んでいた大衆に共鳴していたが、それ以上の過剰な要求をどうしても認めようとしなかった。彼は市民を四財産等級に分け、各々の等級に応じて一定の官職の資格があるとした。四百人評議会(各部族から百人)を設立し、民会の権力を強化した。彼の改革は万人を満足させるものではなく、一層の変革を求める要求に責めたてられている自分に気づき、10年間アテナイを去ることを決心して、外遊中に彼の法を変えないようにアテナイ人に誓約させた。
旅行中に、クロイソスと有名な会談の機会をえた。帰国するとほとんど引退して暮らしたが、晩年に公の場に姿を現わしてペイシストラトスの勢力が高まるのに反対した。しかし成功はしなかった。
(ダイアナ・バウアー編『古代ギリシア人名辞典』原書房)
[底本]
Greek Elegiac Poetry, Translated by Douglas E. Gerber, Loeb Classical Library, 1999.
生涯と作品(Testimonium)
断片T1
Suda(iv.396.29 Adler)
ソローン、エクセーケスティデースの子、アテーナイ人、哲学者、立法者、民衆指導者。第47オリュムピア紀年〔592/89〕に生存した、しかしある人たちによれば第56オリュムピア紀年〔556/3〕という。僭主ペイシストラトスの策謀により、出郷してキリキアに行き、都市を建設、この都市は、自分にちなんでソロイと呼んだ。ある人たちの主張では、キュプロスにあるソロイも彼にちなむ。彼はキュプロスで没したという。アテーナイ人たちのために法を書き、この法は廻転軸注1)(a)/conej、a)/cwnの複数)というふうに名づけられた。この法が、アテナイ語で木製の軸に書かれたからである。〔作品として〕エレゲイアによる詩――これにはサラミスという題が付けられている――、エレゲイアによる訓告、その他がある。この人物も七賢人と名づけられた智者の一人である。彼の名言として、次のものが伝えられている、「過度をつつしめ」、あるいは、「汝自身を知れ」。
断片集(Fragmenta)
1-3.『サラミス』
断片1
Plut. Sol. 8.1-3
〔アテーナイの〕町衆は、サラミス人たちの島をめぐって、メガラ人たちに対し長期の困難な戦いを続けて疲弊した結果、今後は、〔アテーナイ〕市がサラミス島の領有を主張すべしという提案を、文書によるにせよ口頭にせよ、出すことを禁じ、違反者は死刑に処するとの法律を定めた。このとき、ソローンはこの不名誉に耐えかね、また若者の多くが戦いの再開を欲しながら、この法のゆえに口火を切る勇気をもっていないのを見てとり、理性を失ったふりをし、家の者を市に遣わして、彼は気が狂ったとの噂を広めさせた。そしてひそかにエレゲイア詩を作り、暗誦できるように練習したのち、フェルトの帽子をかぶって、突然、広場に駈け込んだ。大勢の人たちが走って集まったとき、彼は触れ役のための石に登り、そのエレゲイアを終わりまで歌い通した。その詩の冒頭は次のようである。
わたしは触れ役として憧れのサラミスから来た、
整った言葉を歌にして演説の代わりにするために。
この詩の標題はサラミスといい、百行から成っているが、すこぶる優雅な作品である。
断片2
Diog. Laert. 1.47
ところで、アテーナイ人たちのこころを何よりも強く捉えたそのエレゲイア詩というのは、次のようなものであった。
こんなことなら、わたしは、ポレガンドロス島やシキノス島注2)の〔ような小さな島の〕人間でありたいものだ、
アテーナイ人である代わりに、祖国を取り換えて。
すぐにも人々の間でこんな噂が立つことだろうから。
『見ろ、こいつがサラミスを裏切ったアッティカの男だ』と。
断片3
Diogenes 続き。
そしてさらに、
いざ、サラミスに行こう。憧れの島のために戦うために、
そして、つらい恥辱を晴らすために」。
断片4
Dem. 19.254-56
それでは、〔廷吏に向かって〕ソローンのこのエレゲイア詩もとって、わたしのために読んでください、そうすれば、こいつ〔被告〕のような人種をソローンも憎んでいたということが、あなたがた〔裁判官たち〕はおわかりになるでしょう。〔廷吏に向かって〕君、読んでくれたまえ。
しかしながら、われらの都市が滅ばされることは決してあるまい、
ゼウスの摂理、浄福なる不死の神々の意思によっては。
なぜなら、このような度量も大きい監視者、高く尊い父神の娘、
パッラス・アテーナがその上に手を置きたもうがゆえ。
しかるに、偉大なる都市を 愚かな行為によって
金銭に聴従して堕落させんとするは町衆自身、
そして、民衆の指導者の心(no&oj)は不正で、彼らが
大きなヒュブリスから多くの苦難を被るは必定。
というのは、彼らは飽満(ko&roj)の抑え方を知らず、安寧の中に
今ある宴楽の楽しさを整えるすべも知らないから。
……
彼らが富裕なるは、不正なる行為に聴従するがゆえ
……
聖なる財も公共のそれも
彼らは容赦なく盗む 強奪するかのように それぞれ勝手に、
彼らは「正義」の森厳なる礎を護ることさえなく、
彼女〔正義〕は黙して、現在のこと過去のことの目撃証人となり、
やがてまったき報いをせんがためにやってくる。
それが直ちに全都市に避けられぬ傷をもたらし、
たちまち都市は苦しき隷従へと身を落とす、
これ〔隷従〕は内乱(sta&sij)と、眠れる戦争とを呼び醒ます、
これ〔戦争〕は多くの愛しい若者を滅ぼす。
というのは、敵意をいだく者たちによって、愛おしき町は、
友に不正をはたらく人々の集まりの中で食い潰されるから。
一方で、こういった災悪が民衆に見舞い、他方で、貧しき人々の
多くは外国の地へと行く
惨めな束縛につながれて、売られて
……
こうして公共の災悪は各人の家へと入ってくる、
しかし中庭の門扉は、それが入ってくることをもはや食い止めることはできない、
高き垣根も跳び越えた、だからすっかり見つけ出したであろう、
たとえ誰かが奥へ逃げこんで、納戸に隠れたとしても。
これこそアテーナイ人たちに教えるよう心(qumo&j)がわたしに命じていること、――
「デュスノミア(Dusnomi/h)」は都市に最多の災悪をもたらす、
これに反し、「エウノミア(Eu)nomih&)」は、よき秩序(eu)/kosma)と完璧(a)/rtia)のすべてを表す、
そして、不正者たちにしばしば足枷をはめる。
〔Eu)nomih&は〕苛酷なことどもを和らげ、過度ko&rojを終わらせ、ヒュブリスを弱める、
愚かさa)/thより生まれる花々を枯れさせ、
曲がった裁きを真っ直ぐにし、おごれる行為を
和らげる、争いの所行を終わらせ、
苦しき争いの怒りを鎮める、彼女〔Eu)nomih&〕によってこそ
人間界の万事は完璧(a)/rtia)かつ分別のあるもの(pinuta&)となる、と。
聞き取ってください、おお、アテーナイ人諸君、こういった人間どもについて、そして、この都市を救うと彼が謂っている神々についても、ソローンがどういうことを言っているかを。
断片4a
Arist. Ath. Pol. 5
国制にはこのような規定があり、多くの人々が少数者に隷属していたので、民衆は貴族gnwri/moiに反抗して起った。抗争sta&sijは激しく行われ、人々は久しく反目を続けたので、彼らは合意の上で調停者diallakth&jとして、またアルコンとしてソローンを選び〔594/3年〕、彼に国事を委ねた。というのは、彼が次のような句をもって始まるエレゲイア詩を作っていたからである。
わたしは識る、そしてイアオニアの最も古き地の切り殺されるのを眺めるとき、
わたしの心の奥底に苦痛が横たわる。
この詩で、彼は双方のために双方と戦い、また論難しており、そのあとで、互いに今までの敵愾心(filoniki/a)をやめることを勧告している。
断片4c
Arist. 続き。
ソローンは、その生まれ〔自然〕からいっても名声からいっても、一流中の一人であったが、財産と地位においては、中流に属していた。これは他のことからも認められるが、また彼自身次のような詩句で、富者に貪らぬように勧告しているのもその証拠である。
多くの財宝に満ち飽きたる汝ら、
胸のうちなる激しき情を鎮めて、
大いなる心を適度に保て。われらとても従うまじく、
汝らもすべてを得ることは能わざれば」。
断片4b
Arist. 続き。
そして、彼は全くいつでも抗争sta&sijの責任を富者に帰していたのである。それゆえ彼はエレゲイア詩の初めでも「…〔欠損〕…と傲慢(u(perhfani/a)」とを虞れると歌い、あたかもこれより敵対が起こったかのようにいっている。
Plut. Sol. 14.2
しかしソローン自身が、初めは躊躇しつつ国事に携わったこと、また一方の貪欲(filoxrhmati/a)と他方の傲慢(u(perhfani/a)を恐れたこと、を述べている。
断片5
Arist. Ath. Pol. 11.2-12.1
しかるに、ソローンはいずれの側にも反対し、おのれの欲する側に与して僭主となることもできたにもかかわらず、祖国を救い、また最良の立法を行って双方から憎まれる道を選んだのであった。
このような事情であったことは、他の何びとも一致するところであり、また彼自身その詩の中でこれにつき次のような句で述べている。
わたしは民衆に充分なる権力ge&raを与え、
その名誉については何も奪いはせず、また何も加えはしなかった。
権力du&namijをもち、財産のゆえに尊ばれる人々に対して
これに不当なる取り扱いをせぬように図った、
わたしは双方のために強き楯を取って立ち、
いずれにも不当の勝利を許さなかった。
断片6
アリストテレースの続き。
また、大衆について、これをいかに扱うべきかを述べては――
民衆は最もよくその指導者たちに従うであろう、
余りに緩められもせず、また暴力もて強制されもせぬとき。
心の全からざる人々に
大いなる幸運(o)/lboj)の従うとき、飽満(ko&roj)は傲慢(u(/brij)を生むものゆえ。
fr.34 に続く。
断片7
Plut. Sol. 25.6
……この困難からすっかり身を引き、市民たちの気難しさや揚げ足取りから逃れようと欲し、彼自身いっているように
大きな事業において万人の気に入るのは難しい
ので、貿易を外遊の口実にして、アテーナイ人から10年間の在外を求めて出航した。
断片8
〔欠番〕
断片9
Diod. Sic. 9.20.2
さらにソローンは、アテーナイ人たちに、将来する僭主制を予言したと言われる。次のエレゲイア詩によって――
雲から雪と霰が生まれ、
光る稲妻から雷が鳴る。
そのごとく、強力な男たちによって都市は滅び、
民衆は知らぬ間に独裁者に隷属することになるのだ。
もしも彼らがあまりに高く揚げれば、後からこれを抑えることは容易ではない。
だから今こそ、万事を思惟するときなのだ。
fr.11に続く。
断片10
Diog. Laert. 1.49
彼は鑓と楯を携えて急ぎ民会に乗りこみ、ペイシストラトスの企図を人々に警告した。……すると、すでにペイシストラトスの側に立っていた執務審議会の議員たちは、彼は気が狂っているのだと言った。そこで彼はこう云った。
わたしが狂っているかどうかは、少しの時がたてば、町の衆には分かってもらえるだろう、
真理がみんなの真ん中に現れてくるそのときには。
断片11
Diod. Sic.(fr.9からの)続き。
その後、〔ペイシストラトスが〕僭主になったとき、彼は謂った。
あなた方があなた方自身の悪行(kako&thj)のゆえにひどい目にあっているとしても、
それらのことの責めを神々に帰してはならない。
敵に保証を与えて、彼らを増大させたのはあなた方自身なのだから。
そしてそれゆえに、あなた方はいま悪しき隷属状態に陥っているのだ。
あなた方一人ひとりはキツネのように用心深いが、
全部がいっしょになると、あなた方はまるで分別がないのだ。
甘い言葉で誘う男の舌と話に心を奪われて、
実際に行われていることには何ひとつ注意していないのだから。
断片12
Plut. Sol. 3.6
風によって海は波立つが、動かすものさえなければ、
海ほど平穏なものはない」。
断片13
Stob. 3.9.23
ソローンによる。
「記憶」と、オリュムポスのゼウスとの輝かしき御娘たち、
ピエリアのムーサたちよ、わが祈りに耳傾けたまえ。
浄福なる神々からは、わたしに幸運(o)/lboj)を賜え、そして
人間どもからは、いつも善き名声を得られますよう。
こうして、友たちには甘く、敵対者たちには苦く、
前者には尊敬され、後者には恐れられますように。
もちろん、財を得ることに憧れるものの、不正に所有することは
拒みます。後になって、間違いなく正義がやって来ますから。
もちろん、神々が賜う富は、人に備わる、
最も低い基盤から頭頂まで確かなものとして。
しかし、ひとがヒュブリスから尊ぶもの〔富〕は、秩序正しくはならず、
不正なる行いに聴従して、
拒みつつ従い、たちまちにして破滅(a)/th)と混じり合う。
〔a)/thは〕初めは小さい、あたかも火のように、
最初はつまらぬものだが、最後は悲惨である。
なぜなら、死すべきものらにとってヒュブリスの行いは長続きすることなく、
ゼウスはすべての結果を見そなわし、突如、
春風が雲々を速やかに散らし、
荒涼たる波立つ海の
底を動かせ、小麦を産する大地の
美しき作物を蹂躙して、神々の天上の高き座に
達するや、再び晴天を眼にさせる。
かくて太陽の美しき命は肥沃な大地に照り輝き、
片や、雲ひとつ眼にすることはできない――
これこそゼウスの応報。死すべき人間とことなり
いちいち癇癪を起こされることはないが、 罰当たりな心(qumo&j)を持つ者は、
いまだかつて誰ひとりとして、彼に気づかれなかったためしなく、
最後にはすっかり露見する。
こうして、ある者はただちに償いをし、ある者は後に。
自分はまぬがれ、神々の運命が襲い来て身に及ぶことはなくとも、
いつか必ずやってくる。罪なき者たちが行いの償いをするであろう、
彼らの子どもたちか、あるいは後に来る子孫かが。
こういうふうに、われら死すべき者は考える、善き者であれ悪しき者であれ、 何らかの目に遭うまでは、それぞれに長き名声を
得ようとする。しかし、結局は嘆きの時が来る。しかしその時までは、
大口開けて、空しい希望を喜ぶ。ひどい病に苦しめられる者は誰しも、
健康であろうと、そのことを心にかける。
怯懦である他の者は、善勇の士たらんと思い、
優美ならざる姿をしていながら、美しき者たらんと思う。
さらに誰か文無しで、貧しい生活がこのひとを強制する場合は、
必ずや多くの財を得られるものと思う。
各人は各様に〔財を得ることに〕熱中する。ある者は海をさまよう
船に乗って、家に利益をもたらすことを切望して
魚多き海を、荒々しい風に運ばれて、
魂〔=命〕を惜しむこともなく。
他の者は、年中、樹々多き土地を耕して
奉仕する、この者たちにとっての気がかりは曲がれる犂。
他の者は、業多き双神アテーナとヘーパイストスとの
業を学んで、手で生計を立てている、
他の者はオリュムポスのムーサたちの贈り物を授かり、
憧れの知の韻律を知って〔生計を立てている〕。
他の者は、遠矢射る主アポッローンが占い師となし、
遠い将来の災悪を人に知らせる、
神々の加護がこれにあればだが。されど宿命は必ずや
鳥占いも犠牲も避けることはできない。
他の者たちは、数多の薬草の知を持つパイオーンの業を持つ
医師たち。この者たちも、何の効き目も持たない。
しばしば小さな苦しみから大きな苦痛が生まれ、
鎮痛の薬を与えても、これを治すことはできない。
かとおもうと、悪しき激烈な病に罹った者を
手で触れるだけで、たちまち健康にすることもある。
げに、「運命」は死すべき者たちに災悪を、そしてまた善福をもたらすが、
不死なる神々の賜物は逃れることができない。
げに、あらゆる行いには危険がつきものだが、いつ事が始まり、
どうなってゆくのかを知る者とてない。
いやそれどころか、善い行いをしようとしながら、思いもよらず、
大いなる困難な迷妄(a)/th)へと陥る者あり、
悪しき行いをする者に、神は万事において
善き巡り合わせ、愚かさからの救済を与えたもう。
されど、富には、人々にとって判然たる限界(te&rma)なし。
なぜなら、われわれのうち、今、最多の生活の資を有する者たちは、
その真剣さたるや2倍であるから。あらゆることに飽満する者がありえようか?
げに、不死なる者たちは死すべき者たちに利得を授けたもうが、
それらからは迷妄(a)/th)が立ち現れ、この償いをするよう
ゼウスが送りたもうとき、これ〔迷妄〕を得るのは、時により人により異なる。
断片14
Stob. 4.34.23
ソローンによる。
はかなき者にして浄福なる者はひとりとしてなく、
太陽の照覧したもう死すべき者はみな惨め。
断片15
Plut. Sol. 3.2
しかし、彼自身が、富んだ者よりもむしろ貧しい者の側に立っていたことは、次の詩句からも明らかである。
多くの悪しき者たちが富み、善き者たちが貧しくなっている。
しかし、われわれは彼らの富と我らの徳とを
交換することはなかろう。徳は確固たるものなのに、
財宝は時とともに持ち主のかわるものだから。
断片16
Clem. Strom. 5.81.1
さて、神に関する次の至賢のことばはソローンによって書かれた。
判断(gnwmosu&nh)の見えざる基準(me&tron)は、思惟すること最も困難なものである、
これのみが万物の決定権を持っているのだが。
断片17
Clem. Strom. 5.129.5
しかし、ヘーシオドスも、その書において前述の事柄に同意している。(fr.303 M.-W.)……要するに、アテーナイ人ソローンが、そのエレゲイア詩の中で、みずからもヘーシオドスに追随して
不死なものらの心は、人間どもにはちっとも見えない
と書いているのは、尤もなことなのだ。
断片18
Ps.-Plat. Amat. 133c
(愛知するということは)ソローンのいうことよりほかに、いったい何があろうか。すなわち、ソローンはたしかこう云っている。
わしは齢を重ねつつ、日々、多くの事柄を学んでいる。
断片19
Plut. Sol. 26.2-4
次に、〔エジプトから〕キュプロスに航海して、その地の王の一人のピロキュプロスという人に、殊の外の寵遇を享けた。この人は大きくない都市の主であった。……そこでソローンは、市の下に美しい平野があったので、市を移してもっと快適で大きなものにするように説得した。彼自身現場で建設(sunoikismo&j)に従い、……彼自身もこの都市建設(sunoikismo&j)のことを謳っている。そのエレゲイア詩の中でピロキュプロスに呼びかけて云う。
今より貴下はここソロイの人々に末永く君臨し、
御子孫の裔に至るまでこの市を都とせられたい。
しかしわたしは、菫の冠のキュプリスが、船足速く、
この名だたる島からつつがなく送り出し賜うよう。
この邑には幸せと誉れとを、
わたしには祖国へのめでたい帰還を給えかし。
断片20
Diog. Laert. 1.61(v. ad Mimn. fr.6)
だがもし、今でもなおわたしの言うことに従ってくれるなら、その詩句は取り消したまえ。
わたしの方が君より立派なことを考えついたからといって、妬まないでくれ。
そして作り直して、リギュアスタデース〔ミムネルモス〕よ、次のように謳いたまえ。
『八十歳で死の定めに会いたいものだ』と。
断片21
Plut. Publ. 24.5(comp. Sol. et Publ. 1.5)
かてて加えて、人生の長さについて、ミムネルモスに反論して言明した。
わたしには、誰にも嘆かれることのないような死が来ませんように、
死んだとき、友たちに悲しみや嘆きを残せますように。
彼はポプリコラ注3)を幸せな男だとしている。
断片22
Plat. Tim. 20e
さて、(あのソローンという人は)自分でも自作の詩のあちこちで言っているように、わたしたち〔クリティアス〕の曾祖父ドローピデースとは親族の間柄でもあり、また大いに仲のよい友だちでもあった。
Plat. Charm. 157e
なにしろ、君たち〔カルミデスとクリティアス〕の父方たるや、ドローピデースの子クリティアスを先祖にもち、その美しさと徳とにおいて、また、その他の家門の幸福と言われるものにおいて、いかにまさっているかということが、アナクレオーン〔fr. 95 MPG〕やソローンによって、あるいは他の多くの詩人たちによって、ほめたたえられて今に至っている家柄なのだから。
断片22a
Procl. in Tim. l.c. (i. 81.27 Diehl); cf. schol. Plat. (p.280 Greene)
ソローンの家系と、これとプラトーンとの親戚関係とについての歴史は、次のようなものである。エクセーケスティデースの子がソローンとドローピデース、ドローピデースの子がクリティアスである。ソローンもこの〔クリティアス〕について詩の中で言及して、こう言っている。
父親のいうことを聞くよう、亜麻色の髪をしたクリティアスに、どうか云ってくれ。
そうすれば、誤った導きに聴従することはあるまい。
断片23
Plat. Lys. 212d-e
それとも、彼らは各々それらのものを愛していながら、しかもそれらは友〔=愛しいもの〕ではなく、次のように言った詩人は嘘をついているのか。
幸いなるかな、童も単蹄の馬も、
猟犬も遠来の客も友たる人は。
断片24
Stob. 4.33.7(テオグニスの作品);Theognis 719-28; Plut. Sol. 2.3
多くの銀や
金に富み、小麦の実る広い大地や
幾頭もの馬や騾馬を持つ人も、宝といえば
腹や脇腹や足で栄耀を楽しみ、
少年または女が手に入れば、
いずれも若くて美しく、おのれの齢にかなっていることよりないような者も
富んでいる点では同じこと。
これらこそ、死すべきものらにとっての財宝。なぜなら、有り余る
財貨をすべて持っても、ハデースの館に赴かぬ者は一人としてなく、
身代金を払っても、死を、重き病を、
襲い来る老いの悪を、逃れられる者はいないのだから。
断片25
Plut. amat. 5.751b
ゼウスにかけて、いいねぇ、と彼は謂った、君がソローンのこと言及したのはね、彼を恋する男の指針にすべきだ。
腿と甘き口に焦がれつつ、
少年愛の花時に、ついに若者の愛者となった」。
断片26
Plut. amat. 5.751e
ここからして、思うに、ソローンが先ほどの詩句〔fr. 25〕を書いたのも、まだ若く、プラトーンが謂うように、「精力絶倫」〔Leges 8.839b〕のときであろう。歳をくってからは、こうだ――
今は、キュプロス生まれの女神と、ディオニュソスと、ムーサたちの業が
わしにとって愛しい。それは人々に喜びをもたらす。
あたかも、少年愛の豪雨と嵐から、結婚と愛知の凪に、その生活を据えるように。
断片27
Philo, de opif. mundi 104(i.36.8 Cohn-Wendland)
アテーナイの立法者ソローンも、これらの年齢の〔諸段階の〕ことを書いて、次のようなエレゲイア詩を作った。
少年は、まだ青年にもならぬ子どもの間、歯の垣根が
生え、7歳までに初めて抜ける。
次なる7年間を神が完成なさるときに、
来たるべき年頃の徴を〔神は〕出現させられる。
第3の〔7年〕間には、肢体が大きくなり、顎は
産毛が生え、花のかんばせも変色する。
第4の〔7年〕間には、ひとはみな強さにおいてはるかに
最善となり、この期間にはまた男たちは徳の徴を得る。
第5の〔7年〕間には、男は結婚に心を留める時期であり、
後に続く子どもたちの誕生を求める。
第6の〔7年〕間には、万事にわたって男の理性は鍛えられ、
それまでのように、無謀な行いを敢えてしようとはしなくなる。
理性も舌も、はるかに最善となるのは第7の〔7〕年間と
第8の〔7〕年間。両方あわせて14年。
第9の〔7年〕間には、まだ力はあるが、彼より弱くなる
彼の舌も知恵も、大いなる徳と比べると。
そして〔諸段階〕を完成して、第10の期間に到達した者は、
死の運命を持ったとしても、早すぎることはない。
断片28
Plut. Sol. 26.1
さて、彼は最初アイギュプトスに着き、みずから謂っているように、そこに滞在した。
ネイロスの河口、カノーボスの岸の近くに。
断片29
Ps.-Plat.『義しさについて』374a
しかし、おお、ソークラテース、昔の諺はなかなか名言ですな、
「歌うたいに虚言多し」というのは。
断片30
Diogen. 2.99
「支配者たちの言うことを聞け、義しかろうと不正であろうと」。ソローンのエレゲイア詩にある忠告。
断片30a
Io. Diac. in Hermog.
悲劇を最初に導入したのは、メーテュムナ人アリオーンだとは、ソローンに帰せられるエレゲイア詩の中で、ソローンが教えているとおりである。
《六脚韻詩》
断片31
Plut. Sol. 3.5
彼がその法律を詩の形で公布しようと企てたという人もあるが、彼らは次のような詩の書き出しを引き合いに出す。
先ず祈ろう、クロノスの子にして王たるゼウスに。
これらの掟(qesmo~i)に幸運(tu&xh a)gaqh)と光栄(ku~doj)を賜らんことを。
《32-35.四脚韻詩》
断片32
Plut. Sol. 14.8
しかし、これらの事情〔親しい者たちはソローンに僭主になるよう勧めた〕にもかかわらず、ソローンは自分の決意を変えることなく、友人たちに対しては、僭主の地位は美しい場所だが、そこから降りる道がないと言われているというふうに云った。また彼はポーコスに宛てて、詩で次のように書いて、
わたしは祖国の土をいたわり、(と彼は謂う)、
僭主制や手荒い暴力に手を出して
自分の名声を汚したり辱めたりはしなかったが、
決してそれを恥じていない。この方がいっそう
すべての人々に立ち優る途と信ずるから。
これによって、立法の仕事をする前から、彼が大きな名声を得ていたことがわかる。
断片33
Plut.続き。(14.9-15.1)
彼が僭主制を避けたために、多くの人々が嘲笑していった言葉を、ソローンは次のように書いている。
ソローンは生来深慮遠謀の人ではない。
神が賜物を与えたのに、受けなかったのだから。
愚かなことに、獲物の入った大網を引かなかった。
意気地もなければ頭も足りない。
わたしなら権力を握り、大きな富を手に入れて
たった1日でも、アテーナイの僭主となれば
あとは生皮を剥がれ、家が滅びてもかまわないのだが。
ソローンは自分自身について、多数の卑俗な者どもの口を借りて、上のように言わしめている。
断片34
Arist. Ath. Pol. 12.3(fr.6からの続き)
また、別の或るところでは、土地の分配を欲する人々について語っている。
彼らは掠奪を目当てに来たり、豊かなる希望を懐いて、
各々大いなる幸運(o)/lboj)を見出そうと予期し、
わたしが柔らかい言葉もて語りながら、いつかは荒い心を顕わすことと思っていた。
彼らはその頃空虚なる望みを懐いていたが、今はわたしに対して憤りつつ、
皆あたかも仇敵を見るごとく
横眼もて私を見る。これは間違っている。
わたしは自ら言ったところを、神々の助けにより達成し、
その他何事も軽々しく行なったことはない。また私は借主のごとき
強力もて事を行なうのを好まぬし、祖国の豊かなる土地に
貴い人々が悪しき〔賤しき〕人々と同じ分け前をもつことを好まない。
fr.36に続く。
断片35
〔欠番〕
《36-40. イアムポス調三脚韻詩》
断片36
Arist. 続き(fr.34からの)=L; hic accedit O. Berol.
[また]負債の切棄てと、以前は奴隷であったが「重荷おろし」により自由にされた人々については、
わたしは*それら*の目的で民衆を集めた、
それらのうち何かわたしが達成せずして手を引いたものがあったか。
証明してくれるであろう、それらのことを時の裁きの中で
オリュムボスのダイモーンたちのうち最大・最善の母、
黒き大地が。そのときわたしは大地から
至る所に立てられし抵当標を引き抜いた。
かくて土地は、以前の隷属の状態から今や自由となった。
さらに多くの人々を、神の造りし祖国アテナイに
連れ戻した。或いは不当に、或いは正当に、
売られていた人々を。或いは困窮より生じた苦しみから
逃れていた人々をも〔連れ戻した〕。彼らはもはやアッティケの言葉を
話さなかった、まさに諸所を放浪していた故に。
さらにここで惨めな隷属の状態にわが身を
おいていた人々を、主人の性格に恐れおののいていた人々を、
わたしは自由の身となした。以上のことどもを、一方においてわたしは力をもって
力と正義とを調和せしめつつ
なし遂げた、そして約束した通りに達成した。
他方においてわたしは諸法を劣者にも優者にも等しく
各々の人に真っ直ぐな正義をととのえて
書き上げた。突き棒をわたしが持ったように、もし他の人が、
思慮なく強欲なる人が持ったとすれば、
その者は民衆を抑止し得なかったであろう。というのも、もしわたしが その当時、敵が喜んだ事柄を、
さらに後に彼らに対して他の者たちが企んだ事柄をなしていたとすれば、
この都市は多くの人々を奪われたであろう。
その目的のためにわたしは双方の側からわが身を守って
身をそらした。多くの犬に囲まれた狼がまさにそうするように。
断片37
Arist. 続き。
また、彼らが後になって、両派ともどもに不平を鳴らすことを非難しては、
もし民衆を明らさまに非難すべきであるとすれば、
〔私はあえて言おうが〕彼らは今もつところのものを夢の中でさえその眼もて見たことがなかったろう……。
彼らより大いなる人々、カある人々は
わたしを賞し、友とするであろう。
何となれば、もし誰か他の人が、と彼は謂う、この名誉の仕事を得たならば、
乳をかき混ぜて、その粋を取り出すまでは、
民衆を抑制しもせず、自ら手を引きもしなかったであろう。
わたしはいわば彼らの戦線の間に
境界のごとく立ったのであった。
断片38
Ath. 14.645f
ケーキ(gou~roj)、これが平菓子(plakou~j)の一種であることは、ソローンがイアムボス詩の中で謂っている。
彼らは飲んで、胡麻菓子を頬張る者あり、
自分たちのパンを頬張る者あり、ケーキをレンズ豆といっしょに
むしゃむしゃやる者もある。そこにないケーキなどない。
黒い大地が人間のために産みだして
くれるものなら、何でもあふれるほどある。
断片39
Pollux 10.103
また、それ〔漆喰?(quei/a)〕のことをイグディス(i)/gdij)と呼んでいたと、ソローンもイアムボス詩の中で言っている。
i)/gdijを渇望する者あり、si/lfionを渇望するのも、酢を渇望するのもあり。
断片40
Phryn. Ecl. 374 (pp.102 et 122 Fischer)
現在でも多くの人たちが〔ザクロの実を〕ko&kkwnと言っているのは正しい。じっさいソローンも、その詩の中で次のように使っている。
他の者はko&kkwnを、別の者は胡麻を〔渇望する?〕。
断片41
Phot. lex. (ii 136 Naber)
ルゥス〔r(ou~j、学名Rhus coriaria(右図)。要はウルシのこと。薬味に使われたらしい〕、薬味のこと。〔出典は〕ソローン。
断片42
〔欠番〕
断片43
Choric. or. 2.5 (p.29.10 Foerster-Richtsteig)
大地というものは、住民たちのために、ホーラたち〔四季〕が生みなすかぎりのものを産出すること知っている。真っ平らであり、またソローンの言葉にあるとおり
豊穣なる養母
なのだから。
断片44
〔欠番〕
45
Arist. Eth. Nic. 10.7.1177b31
だが、人間なのだから人間のことを想え、と忠告する人たちに従ってはならぬ。
Michael ad loc. (Comm. in Arist. graeca xx.591.14)
この格言は、ある人たちはテオグニスのものと謂い、ある人たちはソローンのものという。
2006.03.30. 訳了。 |