第9話
野ロバ(onagros)について
ヨブ記に書かれている、「誰が野ロバを放って自由にしたか?」〔ヨブ、第39章5〕。自然窮理家は野ロバについてこう言った、 〔野ロバは〕嚮導者であり、草食む牝たちが牡を産むと、それらの父親はその秘所をすべて噛み切る。精子をださぬようにである。
族長たちが播くことを求めるのは、身体的な精子であるが、これに反して使徒たちは知的な子、すなわち節制に努め、天の精子を願うことは、次のように書かれているとおりである。「喜べ、子を産まぬ石女よ、声をあげ喝采せよ、産みの苦しみを知らぬ女よ、多くの子は独り身の女のもの、その数は夫ある女よりも多い」〔ガラテヤ、第4章27〕。古い女は告知の精子を、新しい女は節制の精子を〔求める〕。
かく美しく、自然窮理家は野ロバについて言った。
註
旧約聖書には、ロバ属を表す5つのヘブライ語が登場する。すなわち、ハモール、アートーン、アイル、ペレ、アーロードである。このうち、ペレまたはフェレの訳語に充てたのが野ロバ(o)/nagroj)である(『聖書動物大事典』)。
『ヨブ記』第39章5は、「誰が野性のペレに自由を与え、アーロードを解き放ってやったのか」とあるところを、七十人訳では同義語と考え、後者を省いている。
アリストテレース『異聞集』10
「シュリアには、常に野生のロバの群に一頭の指導者がいるということである。若いロバが牝と交わろ うと欲すると指導者はひどく怒り、それをどこまでも追跡して捕え、後脚の間にかがみこんで相手の陰茎を口でひき裂くという」。
Cf. Pliny N.H. 8.108.
インドの野生のロバ(onos agrios)を報告したのはクテーシアス(断片45q)であった。この伝承は、やがて野ロバ(onagros)に一角を付与して、幻想動物オナガー(onager)を生むことになる。この系譜は、第45話を考えるとき、重要になろう。
画像出典、Konrad Gesner『Historiae Animallum』I。