第10 話

マムシ(echidna)について


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 美しくもヨハネはパリサイ人たちに向かって言った。「マムシの子らよ、迫っている怒りから逃れられると、おまえたちに誰が教えたのか」〔マタイ、第3章7。ルカ、第3章7〕。

 自然窮理家はマムシについて、雄は男の顔をもち、雌は女の顔をもつと言った。臍まで人間の形をしており、ワニの尾をもつ、と。しかし女は膣に通路ではなく、針の穴のようなものだけをもつ。されば、雄が雌におおいかぶさると、雌の口の中に精子を放出し、雌は精子を飲みくだすと、雄の性器を噛み切り、雄はすぐに死ぬ。そして子が大きくなると、母親の子宮を食い尽くし、そうやって生まれでてくる。されば、父殺しでありまた母殺しである。

 されば、美しくもヨハネはパリサイ人たちをマムシに譬えたわけである。なぜなら、その仕方で、マムシは父や母を殺し、そうやってみずからも自分たちの知的な父親たち — すなわち預言者たちを殺し、彼の主張では、わたしたちの主イエス・キリストも 教会も〔殺したの〕であるから。されば、いかにして来るべき怒りから逃れられるのか? — 父と母は永遠の世界に生き、この者たちは死んだのである。



第10話 再話


 自然窮理家はマムシについて言った。最初、雄が雌と交接するとき、雌の口中に交接し、雌は、精子を飲み下すと、相手の性器を噛み切る。だから、雌と交接したら、死ぬということが〔雄は〕わかっている。だから、何度も引き下がり、またもや雌に接近しては、<またもやすぐに雌の所から方向転換するのである>。けれどもやがて、自分を抑えることができず、雌と交接して死ぬ。されば、雌が膣をもたないのは、自分の腹に胎児を宿すからである。そうして、子が雌の腹中で大きくなると、雌の脇腹を開き、生まれでて、これを殺す。だから、父殺し母殺しなのである。




 ヘロドトス『歴史』第3巻109節
 「ところがこの蛇は一番(つがい)ずつ交尾して雄が受精に入り、精液を射出すると、雌は雄の頸元に噛みついて離れず、これを食い尽して終うまで離さない。雄蛇は右のようにして死ぬのであるが、雌も雄に対して犯した罪の罰を次のようにして受ける。それはまだ母の胎内にある子蛇が、父の仇とばかり母の体を食うのであって、胎内の子は母胎を食い破って外へ出てくるのである」。

 他のヘビが卵生なのに対し、マムシが卵胎生であることは、アリストテレースが正しく観察している(『動物誌』558a)。

 ヘブライ語で、ヘビ類のいずれかの種類をさしているのは、次のとおりである(〔〕内は、七十人訳でのギリシア語訳)。
1)アフシューヴ〔ajspivV(エジプトコブラ)〕詩編140:4。
2)ペテン〔ajspivV, dravkwn, basilivskoV〕 申命記32:33, 詩編58:5[6], 同91:13, ヨブ記20:14, 16, イザヤ書11:8。
3)ツェファまたはツィフオーニー〔e[kgona ajspivdwn(小形コブラ), keravsthV(角蛇)〕 箴言23:32, イザヤ書11:8, 同14:29, 同59:5、エレミヤ書8:17。
4)シェフィーフォーン〔ejgkaqhvmenoV(待ち伏せしているもの)〕 創世記49:17。
5)ナーハーシュ〔o[fiV, dravkwn〕 ヘビ類の一般名称。
6)エフェ〔o[piV, ajspivV, basilivskoV〕 ヨブ記20:16, イザヤ書30:6, 同59:5。
以上、『聖書動物大事典』より。
 聖パウロがマルタ島にいたとき、手にからみついた蛇エキドゥナe)/xidna(使徒行伝28:3)は、おそらくヨーロッパから地中海の島々に広く分布し、英国でも多く見られるヨーロッパクサリヘビPelias Berus [Vipera berus (L.)]か、そうでなければ、地中海の沿岸によく見られるアスプクサリヘビVipera aspis (L.)であろう(『聖書動物大事典』p.379)。

 受精器官の変容については、第21話「イタチ」の註を参照。

 画像出典、Konrad Gesner『Historiae Animallum』V。