第7話

ハゲワシ(gyps)について


 例えばハゲワシという、どんな有翼類にもまして貪欲な鳥がいる。これは40日間断食し、今度は、食べ物を見つけるや、40リトラを食して、40日間の断食の分を満喫する。

 さればあなたも、賢明な人間よ、40日間断食し、主の生命をもたらす復活を選びながら、貪欲になって、40日間の断食の分を自分において満喫しようとして、[あなたの報酬を見逃して]はならない。

 なぜなら、このハゲワシは、食べ物を見逃すと、[そして何か喰らうものを見つけられないと]、どうやって食べ物を知るのか。聞け。堅い岩の上にとまって、北方を見やり、どんな場所であれ死の定めがあると、自分の右の爪が[動物の血で]濡れ、食べ物があるとすぐに察知し、すぐに非常な高みにのぼる(uJyou:n)、ハゲワシ(guvy)と名づけられる所以は、大地から高みへと[のぼり、そうして]変わるからである。そうして、最高の高さに上ると、星の蒸気のように別の徴が彼に現れ、彼の眼の前に[雲のように]進み、食べ物の向かいに彼を案内する、[ハゲワシの方は後ろからついてゆくだけで]、[食べ物に近づき]、徴が彼から消えると、[彼の方は]大地に自分を投じ、食べ物を捉えるのである。

 されば、あなたも、賢明な人間よ、あなた自身を高ぶらせることなかれ、高ぶりからあなた自身を置き去りにし、そうして死骸へ、つまり、淫奔の汚物に陥らないためである。

 ところで、雌が身ごもり、これが出産する日々が近づくと、自分の巣の中で懲らしめられる、[眠くてだるくなり]出産できないからである。すると雄ハゲワシは、東方の地、[オーケアーノス河の近く]に出かけて行き、そこには非常に深い裂け目があり、おのれ自身をその裂け目の深みに投じ、子安石を取り、これを引き上げ、自分の巣穴に[置く]、すると雌はやすやすと産卵する、[そうしてすぐにまた石を取る]。以後、雌は陣痛に見舞われることはない、雄がその石をもとの場所に[裂け目に]返さないかぎりは。

 されば、あなたも、賢明な人間よ、罪に陥ったら、これをもとの場所[裂け目]に、つまり、ハーデースの窖に据えよ、不浄の陣痛からあなたを癒すために。すなわち、罪を〔つまり〕懲らしめの母を恐れよ、[そうしてそれを追い払え、〔罪が〕慢性化して、あなたの魂を、その身体ともども滅ぼさないために]。

 美しくも、自然究理家はハゲワシについて言った。




 「現代日本の鳥類学界では、ユーラシアとアフリカのvultureを《ハゲワシ》、南・北アメリカのcondorを《ハゲタカ》としているが、一般には両者を混同して使用している」(『聖書動物事典』p.434-435脚註)。
 そのうえ、ハゲワシ、ハゲタカといっても、必ずしも頭が禿げているわけではないので、さらに話はややこしくなる。
 パレスチナの住民に知られているハゲワシには、次の3種がある —。
1.ヒゲワシ〔Gypaëus barbatus。ドイツ語のLammergeyer。頭と頸は禿げていない〕はどの地方でも数が少なし人跡稀れな山岳地帯だけに見られ、人を寄せつけない絶壁で、冬期に雛を育てる。アラビア人はこのヒゲワシを、ハゲワシというよりはむしろワシの仲間であると見ている。
2.シロエリハゲワシ〔Gyps fulvus。頭と頸は禿げていない〕は、すぐれた視力を持ち、相当高いところを帆翔することでよく知られている。アリストテレス(『動物誌』 vi.5 [563a3])は、シロエリパゲワシが遠くから獲物を嘆ぎつけ、大群をなして集まる様子を記している。同じような珍しい例が、クリミア戦争時[1853-1856年]にも起こり注目されていた。戦時下、物凄い数のシロエリハゲワシがクリミア半島に集まり、この地域ではそれまではほとんど知られていなかったにもかかわらず、戦争の終結まで宿営のすぐ近くに留まっていた。「死体のある所には、はげ鷹が集まるものだ」(マタイ福音書24:28)。「死骸の傍らには必ずいる」(ヨプ記39: 30)。筆者らは、シロエリハゲワシがパレスチナの山岳、および岩石地帯に遍く分布し、とくに南東部に多いことを観察している。このハゲワシが好んで繁殖する場所は、エルサレムとエリコの中間地域、および死海周辺の全域である。
3.エジプトハゲワシ〔Neophron percnopterus〕は、しばしば《ファラオの鶏》と呼ばれている。パレスチナでは、ハッセルクヴィストや彼以後の多くの旅行家たちによって観察されており、この地方にひじように多数生息している。
 その他に、著しく大形の2種、ミミヒダハゲワシVultur nubicus, Smith [Aegypius tracheliotus (Forster)] とチャイロチュウヒワシVultur cinereus、L. [Circaectus cinereus Vieill.]が、近隣の地域に生息し、おそらくパレスチナの南東部にも生息するものと思われるが、その地方での採集例はまだ記録されていない。
     (『聖書動物事典』p.434)
 「ここで留意しておかねばならないのは、シロエリハゲワシは、その行動、そして特徴のすべてにおいて、荘厳かつ高貴な鳥であるということである。パレスチナにいる鳥の中では最も大きくて力強く、ワシをはるかに凌駕しているのである。<……> 同じハゲワシでも、みすぼらしくて警戒心の強いエジプトハゲワシは著しく異なり、東方の町や村のどこにでもいるよく知られた腐肉掃除屋であり、その役立つ習性のゆえに保護はされてはいるものの、嫌われ蔑まれており、その名前は犬や豚と同じく軽蔑の言葉にまでなっている」(『聖書動物事典』p.433)。
 これは自然究理家にも反映し、ハゲワシに負を評価をするのか正の評価をするのか、混乱しているように見える(第1部 第19話「ハゲワシ」が「ワシ」でないことに対するオットー・ゼールの疑念を見よ)。