第21話

イタチ(gale)について


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 律法〔レビ、第11章29〕は言う。「イタチを喰らうべからず、これに類したものをも〔喰らう〕べからず」。自然窮理家はイタチについて、次のような自然本性を持っていると言った。〔牝は〕自分の口で牡〔の精液を〕受け、妊娠すると、耳から出産する。不都合なことに、出産は聴覚器官によってである。

 聖霊的なパンを教会の中でむしゃむしゃ食べる人たちがいる。そして出てゆくと、耳から言葉を追放するのであるが、それは不浄のイタチに似ており、自分の耳をふさいだ耳しいの楯〔という名の蛇=コブラ。詩篇、第58章5〕のようになるのである。

 されば、イタチを喰らうべからず、それに類したものも〔喰らう〕べからず。




mustela_putorius.gif 『レビ記』第11章29に出てくる「ホーレド」は、モグラの可能性が高いという(『聖書動物大事典』p.435-7)。しかし、七十人訳の訳者は「イタチ(gale)」と訳した。
 古代のギリシアでは、イタチの1種(Mustela putorius)〔左図〕を家畜として飼い、ウサギやネズミを狩るのに使用していた。

 アリストテレスは、「オオガラスとトキ〔イビス〕は口で交わり、四足類のイタチは口で子を産む」という自然哲学者たちの意見を、単純で軽率説として退けている〔『動物発生論』第3巻6(756b)〕。そして、イタチが仔どもを口にくわえて運ぶことが、そういう見解をつくりだしたのだと、尤もな意見を述べている(757a)。
 プルタルコス『イシスとオシリス』74は、イタチが耳で交尾し口で子を産むというのはエジプトの伝承だという。しかし、『ホルスとセトの争い』〔前1160年頃の文学作品〕には次のようにある。
それからトトはセトの腕に手をのせて言った。「出てこい、ホルスの精液よ。」そして彼(精液)は彼に言った。「どこから私は出てくるべきでしょうか?」そこでトトはそれに言った。「耳から出てこい。」〔筑摩世界文学大系1「古代オリエント集」p.476〕
 『神聖文字法(Hieroglyphica)』は、海鼬は口で受胎するという(II_110)。

 自然究理家が、イタチは口で受精して耳から出産するというふうに変更した理由はよくわからないが、耳=「ロゴスを受け容れる=聴く」、口=「ロゴスを産む」という関係に注目すれば、例えば、プルタルコス『コロテス論駁』1108Bに、「なにしろあの男〔コロテス〕ときたら、いつものやり口で、ソクラテスの前にいわば秣を抛り出して、どうやってこの食物を、耳ではなく口に入れるのか、と尋ねるといった、粗野で下品で傲慢な振る舞いをするのだからね」。
 耳からロゴスを受け容れて口から産むという関係を逆転させていることがわかる。

 画像出典、Konrad Gesner『Historiae Animallum』I。