第40話

トキ(ibis)について


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 最も不浄なものは、律法〔レビ、第11章17〕によれば、トキである。〔トキは〕潜水を知らず、河や港の岸辺でついばむのみで、清浄な魚たちの泳いでいる深みには入ることができず、不浄な魚たちの棲息場所に棲んでいるのである。

 されば、あなたも、理性的な深い河に — 神の知恵と知識との富の深み〔ロマ、第11章33〕へと入ってゆくために、理性的に潜水する仕方を学びなさい。なぜなら、両手を広げ、磔柱の印を作らなければ、人生の海を渡ることはできないから。すなわち、磔柱の形はありとあらゆる被造物の上に広がっている。太陽は、その光線を広げなければ、輝くことができない。月は、その両端を広げなければ、輝かない。鳥は、その翼を広げなければ、飛翔できない。モーセは、両手を広げなければ、アマレクを亡きものにできず〔出エジプト、第17章11〕、ダニエルはライオンたちを〔亡きものにできない〕〔ダニエル、第6章〕。ヨナは海獣の腹の中に〔ヨナ書〕、テクラは火と獣とアザラシの中に投げ入れられたけれども、磔柱の形が彼女を救った〔新約外典「パウロとテクラの行伝」〕。スザンナは長老たちから〔七十人訳ダニエル書=旧約外典スザンナ物語〕、ユディトはホロフェルネスから〔旧約外典ユデト書〕、エステルはアルタクセルクセス〔ヘブライ語名アハシュエロス、ペルシア語名クシャヤールシャン(「民の支配者」の意)、ギリシア語名クセルクセス1世のこと。七十人訳では、アルタクセルクセスと誤っている〕から、三人の子どもたちは火の炉から〔ダニエル、第3章〕[信仰によって]救済されたが、ありとあらゆるものの中で劣悪なのはトキであって…… 〔欠損〕罪人たちから生まれるのは罪のみである。




threskiornis.jpg アリストテレス『動物誌』第9巻27章 —
 エジプト産のイービスには二通りあり、一つは白く、一つは黒い。ところで、白い方はペールーシオン〔ナイル河口の東岸に近い海岸にあったエジプトの都市〕以外ならエジプトのどこにでもいるが、黒い方はペールーシオン以外にはどこにもいない。
plegadis.jpg Herodotus, II, 65 によると、〔トートの神鳥であるゆえ〕殺してはならぬ聖鳥であり、同75では、アラビアから飛来する翼のある蛇を滅し、76では、ここと同じように、黒いのと白いのに分けて詳しく記載している。白いのはアフリカクロトキ Threskiornis aethiopicus〔右図上。白いのに「クロトキ」と称することが混乱を増大させている!〕で、黒いのはブロンズトキ Plegadis falcinellus〔左図下〕とされる。〔島崎註〕

 七十人訳では、"ibis"は不浄の鳥「ヤンシューフ」の訳語に当てられている〔レビ記11:17、申命記14:16、イザヤ書34:11〕。
 「ヤンシューフがかつてパレスチナで見られたと考える必要はない。レビ記の律法はイスラエルの人々がエジプトを去って間もない時期に作られたので、不浄とされる動物のいくつかはエジプト産であり、パレスチナではまったく見ることのできなかった動物も、それらの中に含まれていると考えるのが、ごく自然である。<……>この語には、エジプト産の別の一種、ブロンズクロトキIbis falcinellus [Plegadis falcinellus (L.)]も含まれる可能性がある」(『聖書動物大事典』p.319)。

 「古代〔エジプト〕人は、ヒエログリフの表記において、黒朱鷺のibis falcinellus, ibis eremita, ibis comataと白朱鷺(ibis religiosa s. aethiopica, threskiornis)とを明確に区別していた」(『エジプトの神々事典』)。

 画像は、Ulysse Aldrovandi『鳥類誌(Ornithologiae hoc est De auibus historiae)』XX。