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back.gif共感性をもつものらと反発性をもつものらとについて

魔法と科学の間

ボーロス

002 自然学と神秘学
(Physica et mystica)



人物

ボーロス(Bolos) 前3世紀頃。
 エジプトのメンデス出身、次のカッリマコスと同世代。魔法や薬理学(pharmacology)に関する著書がある。彼の著作のひとつである『共感性をもつものらと反発性をもつものらについて』という表題を有する書は、アブデラのデーモクリトスに帰せられる部分を有し、ボーロスは時々偽-デーモクリトスとみなされている。著作は断片が伝存するのみであるが、そのひとつは明らかに、薬種を人工物(Cheirokmeta)と自然物(Physika dynamera)とに分かつ薬物学(materia medica)を内容とする。
 彼はまた『驚くべきことども(Thaumasia)について』を著し、パラドクサ作家の重要な先蹤をなす。スーダは、2人のボーロスがいたと報告し、ひとりは哲学者でデーモクリトスの後継者、もうひとりはメンデス出身のピュタゴラス学派とするが、同一人物と考えられている。
 (OCD に拠る)


[底本]
TLG 1306 002
Physica et mystica (fort. opus Ceirovmhkta) (sub nomine
Democriti) (e cod. Venet. Marc. 299, fol. 66v), ed. M. Berthelot and
C.É. Ruelle, Collection des anciens alchimistes grecs, vol. 2.
5
Paris: Steinheil, 1888 (repr. London: Holland Press, 1963): 41-53.
(Cod: 2,857: Alchem.)




『自然学と神秘学(fort. opusCeirovmhkta)
(デーモクリトスの名のもとに)
(e cod. Venet. Marc. 299, fol. 66v)


2.41."1t"
デーモクリトスの『自然学と神秘学』

2.41.2
 ムラサキガイ1リトラ〔約327.5g〕、雷に打たれた〔?〕鉄屑1リトラを取り、尿7ドラクマの中に〔入れ〕、火にかけよ、そうすれば煎じ出し汁(bravsma)が得られる。次いで、この煎じ液(zevma)を火から取って〔おろして〕、皿に入れ、ムラサキガイを取り出して、このムラサキガイにその煎じ液を注ぎかけ、1昼夜浸しておけ。次いで、海のブリュオン(bruvon qalassivon)4リトラをとって、このブリュオンの上に、指4本分の深さになるように水を入れよ。そして、ブリュオンがふやけるまで静置せよ、そうして、濾して、この濾過液を暖めよ、そして羊毛をいっしょに置いて、〔濾過液を〕注ぎかけよ。こうして、染水(zwmovV)が〔羊毛の〕芯まで達するよう、よく染みこませ、2昼夜放置せよ。 2.41.10次いで、そのあとで〔羊毛を〕取り出し、日陰で乾燥させよ。染水(zwmovV)は〔他の容器に〕あける。次いで、同じ染水(zwmovV)の中に、ブリュオン2リトラを入れ、初めと同じ比率になるよう、この染水(zwmovV)に水を入れよ。 2.42.1そしてふやけるまで〔先ほどと〕同じように静置せよ。次いで、濾過してから、先ほどと同じように羊毛を入れ、1昼夜おけ。次いで〔羊毛を〕とり、尿の中でよく洗い、日陰で乾燥させよ。次いで、アルカンナ(lakcav)を取って、すりつぶせ、また、ラパトン(lapavqon)4リトラをとって、ラパトンが溶けるまで、尿で煎じ詰めよ。 2.42.4そうして水を濾して、〔濾過液に〕アルカンナを入れよ。〔このアルカンナが〕ふやけるまで煮詰めよ。そして、再びアルカンナを濾して、〔濾過液に〕羊毛を入れよ。次いで、その後で尿で洗い、次いで今度は水で洗え。そしてその後で、同じように日陰で乾燥させたうえで、〔この羊毛を〕2日間尿に浸されたのを「海の爪(o[nuceV qalavssioi)」でいぶせ。

 ムラサキ〔色〕の製法の用材は以下のものらである。
2.42.10
 プセウドコンキュリオン(yeudokogcuvlion)と呼ばれる海藻(fu:koV)
 コッコス(kovkkoV)
 海の花(a[nqoV qalavssion)
 ラオディケイア産のアルカンナという紫の染料
 イタリア産のセイヨウアカネ(ejruqrovdanon)
 夕陽〔色〕のピュッランティオン(fullavnqion)
 羊毛?にわく紫色のウジ(skwvlhx)
 イタリア産のロードスの〔花〕。???
 これらの「花」は、先祖代々尊重されてきたが、色落ちするものは価値がない。すなわち、
 ガラティアのウジ(skwvlhx)
 ラッカ(lakcav)と呼ばれるアカイアの一種の「花」、
 根っこ(rJivzon)と呼ばれるシュリアの〔花〕。
 ムラサキコガイ(kogcuvlion)
 リビュア産のホネガイ(kocliokogcuvlion)
 タイラギ(pivnna)(Pinna rotunda)〕と呼ばれる、アイギュプトス海岸地方の二枚貝(kovgcoV)
 タイセイという植物(i[satiV botavnh)
 〔ナイル〕上流地方の〔花〕
 コンコス(kovgcoV)〔二枚貝=ムラサキガイ〕と呼ばれるシュリアの〔花〕。
 以上のものらは、色褪せしない(akineta)ということもなく、われわれの間では、タイセイ草は除いて、 2.42.10尊重もされていない。

 さて、以上のことは、先に述べられた師匠から学び、物質の相違も心得たうえで、諸自然を調和させるしかたを、わたしは修行した。ところが、わたしたちの師匠が亡くなり、しかもわたしたちはいまだ奥義に達せず、物質の認識(ejpivgnwsiV)になお専心していたので、彼が何と謂うか、冥府から彼を現してくれるようわたしは〔神に〕お尋ねした。そうして、わたしはそこに突き進むと、すぐにこう言って頼んだ。「わたしに賜物を授けてください、あなたのために仕遂げてきた代償に」。そして、こう言うと、わたしは沈黙した。また、多くのことを頼み、いかにすれば諸自然を調和させられるかを質問すると、厄介なことを言う、ダイモーンは自分に許可してくれていないのだから、とわたしに謂った。しかし、ただこう云った。「書物が神殿の中にある」。神殿に引き返し、もしや書物をたっぷり手に入れられるかと探し求めた。というのは、生きながらえていたにしても、彼がそれを書に述べることはなかったであろうから。すなわち、一部の人たちの謂うには、彼は遺言せぬまま亡くなったのであり、それは、魂を身体から解放するために、毒薬を使ったからだという。また、息子の謂うには、亡くなる前に、思いがけず饗応されたが、最初の年頃をすぎたら、書物は息子にだけ現れるだろうと確言したという。しかし、われわれのうち誰ひとり、こういったことを何ひとつ信じなかった。 2.43.10そういう次第で、われわれは探したけれど、何も見つけ出せなかったので、耐火物質(aiJ oujsivai)と諸自然が化学的反応(sunousiovomai)と化学的結合(suneiskrivnomai)をするまで、わたしたちは恐るべき苦労を閲することになったのである。とにかく、物質の化合(sunqevsiV)を達成し、ちょっと時がたって、神殿で全祭(panhguvriV)があったとき、わたしたちはみな食事をとっていた。ところで、わたしたちのいた神殿には、石柱ないし柱のようなものだけががあり、それが破裂したので、わたしたちはそれを調べてみたが、中には何もなかった。しかし、誰あろう、ほかならぬ彼〔再び口寄せで呼び出されたのであろうオスタネース〕は、中に父祖伝来の書物が秘蔵されている謂い、披露するため真ん中に取り出した。わたしたちはのぞきこんで見て驚いた、わたしたちは何ひとつ見落としていなかったはずなのに、きわめて有益な次の言葉をそこに見出したからである。

2.43.20
 自然は自然を喜び、自然は自然に打ち勝ち、自然は自然を支配する。このわずかな言葉によって、この書のすべてを要約していることに、わたしたちはひどく驚嘆した。「わしがアイギュプトスにやって来たのも、自然学をもたらすためじゃ、多くのお節介や、錯綜した物質をおまえたちが軽蔑するようにと」。

 水銀をとって、マグネーシアの物体か、イタリア産硫化アンチモンの物体か、火を通さぬ〔天然〕硫黄か、セレナイト(ajfrosevlhnoV)か、 2.44.1焼いた石膏か、メーロス産明礬か、雄黄か、あるいは思いつく方法で固定せよ(peh:xon)。また、白土を銅に投入(ejpivballw)せよ、そうすれば、錆のつかない銅を得ることができよう。また、黄色い月〔=銀〕を投入せよ、そうすれば、金によって金を得ることができ、黄金珊瑚(crusokovralloV)が固体化するであろう。黄色い雄黄、処理された鶏冠石、完全に変成した辰砂も、同じ作用をする。しかし、銅を錆びなくするのは、水銀のみである。すなわち、自然は自然に打ち勝つ。

 銀を含有する黄銅鉱(purivthV) — これはシデーリテースsidhrivthVとも呼ばれる — をば、例によって、流動できないように処理せよ。流動するのは、暗色ないし白色の密陀僧(liqarguvroV)によってか、あるいはイタリア産硫化アンチモン(stivmmi)のせいであろう。 2.44.10そこで、鉛(あなたが迷わないように簡単に言っているのではなく、殺人的〔成分〕を含んだそれのことである)と、わたしたちの〔云ういわゆる〕密陀僧(liqarguvroV)の黒とに、あるいは、思いつく方法で分解せよ。そうして焼け、そうして、黄色くなったらこれを物質に投入せよ、そうすれば染まるだろう。すなわち、自然は自然を喜ぶ。

 黄銅鉱を、黒い色素が脱けて、不燃物となるまで処理せよ。処理は、酢と塩水のソース(ojxavlmh)か、混ざりもののない尿か、海水か、酢蜜(ojxumevli)か、思いつく方法で、金粉のごとく不燃物となるまで行え。そうして、〔不燃物と〕なったら、これに混入するに、火を通さぬ硫黄か、黄色い明礬か、アッティカ産の黄土(w[cra)か、あるいは思いつく方法で行え。そうして、銀には金を使って、金には黄金の殻〔金メッキ〕をつかって投入せよ。すなわち、自然は自然を支配する。 2.44.20

 クラウディアノン(klaudianovn)をとって、大理石をつくり、例のごとく、黄色になるまで処理せよ。ところで、黄変させよとわたしが言うのは、鉱石をではなくて、鉱石の有用性のことである。これをあなたが黄変させられるのは、硫黄とか、雄黄とか、鶏冠石とか、石膏とか、あるいは思いつく方法で変成させられた明礬によってである。そうして、銀に投入すれば、金をつくれる。金に〔投入すれば〕、黄金の殻(crusokogcuvlion)〔金メッキ〕をつくれる。すなわち、自然は自然に打ち勝って支配する。

2.45.1
 辰砂を、オリーブ油とか、酢とか、蜂蜜とか、塩とか、明礬とか、によって白くせよ、次いで、ミシュ(mivsu)とか、インク石(sw:ru)とか、硫酸銅溶液とか、火を通さぬ硫黄とか、あるいは思いつく方法で、黄色に〔せよ〕。そうして銀に投入せよ、そうすれば、金を染色すれば、金になるであろう。銅を〔染色すれば〕、琥珀(h[lektron)〔になるであろう〕。すなわち、自然は自然を喜ぶ。

 キュプリス産カラミン — わたしの言っているのはとびきりよく匂う〔カラミン〕???である — を、例によって白くせよ。次いで黄色にせよ。黄色にするには、子牛の胆汁とか、テレビン油とか、ヒマシ油とか、ハツカ大根の種子油とか、これ〔カラミン〕を黄色にすることのできる卵の気味とかによってである。そうして、金に投入せよ。そうすれば、金によって、また黄金酵素(crusozwvmion)によって、金ができるであろう。 2.45.10すなわち、自然は自然に打ち勝つ。

 ヒ素硫化鉱(ajndrodavmaV)を、辛い酒とか、海水とか、尿とか、酢と塩水のソース(ojxavlmh)とか(これらはそれ〔ヒ素硫化鉱〕の自然を押さえることができる)によって、処理せよ。カルケードーン産アンチモニーとともに捏ねよ。もう一度、海水とか、塩水とか、酢と塩水のソース(ojxavlmh)とかによって、処理せよ。アンチモニーの黒色が落ちるまで洗え。黄色になるまで炙るか焼くかせよ。そうして、純粋な硫黄の水で煮よ。そうして、火を通さぬ硫黄を添加した場合でも、銀に投入し、黄金酵素(crusozwvmion)をつくれ。すなわち、自然は自然を支配する。これが、クリュシテースcrusivthVと言われる石である。

 白土 — わたしが言っているのは、白鉛と銀の浮きかす、あるいはイタリア産アンチモンとマグネーシア、あるいはまた白い密陀僧からとったもの — をとって、白くする。白くするには、これを海水とか、〔teqrewmevnh(?)〕塩とか、水蒸気とか — わたしが言うのは、露と陽光でという意味だが — によってであるが、これが捏ねられると、白鉛のように白くなる。そこで、これを塗布し、これに銅の華ないし緑青を投入せよ。処理されたものとわたしが言うのは、銅ないし銅鉱石が焼きすぎてだめになったもののことである。そうして、溶解しにくく孔のないものとなるまで、キュアノスkuanovVを投入せよ。そうすれば簡単に生成するであろう。これが 2.46.1鉛と銅の合金(molubdovcalkon)である。そこで、錆に曇らぬものができたかどうか検査せよ、そして、できていなかったら、銅を責めるのではなく、むしろ汝自身を〔責めよ〕、というのは、汝の処理の仕方が美しくなかったのだから。さて、錆に曇らぬものをつくり、粉末にせよ、そうして、黄変させることのできるものらを入れ、黄色になるまで焼け。そうして、すべての物体に投入せよ。なぜなら、錆に曇らぬ銅は、黄色になると、あらゆる物体を染めるからである。すなわち、自然は自然に打ち勝つ。

 火を通さぬ硫黄といっしょにインク石(sw:ru)と緑礬水(cavlkanqon)を捏ねよ。インク石とは、キュアノスのようにざらざらしており、いつもミシュの中に見出される。これは黄緑色の緑礬水とも呼ばれる。さて、これを中火で 2.46.103日間、黄色い薬物ができるまで焼け。わたしたちの作った銅ないし銀に投入せよ。そうすれば、金になるであろう。出来た薄片を、酢と緑礬水とミシュと明礬とカッパドキア産の塩、火色の硝石の中に、あるいはまた思いつく仕方で、3日ないし5日ないし6日間、錆が出来るまで静置せよ、そうすれば、染めあげられよう。緑礬水の錆が金をつくるからである。すなわち、自然は自然を喜ぶ。

 黄金珊瑚(crusovkolla)は、マケドニアの銅の錆に浮かぶが、これを粉末にして、変成するまで、若い雌牛の尿で処理せよ。自然は内に引きこもっているからである。さて、変成したら、これを、ひまし油の中につけよ、何度も加熱しかつ浸しながら。次いで、 2.46.20あらかじめ粉末にしておいたミシュ、ないし、火を通さぬ硫黄に、明礬といっしょに焼きを入れ、黄色にし、金の物体全体を染めつけ〔メッキせ〕よ。

 おお、諸々の自然の造物主たる諸自然よ、おお、諸々の変化によって諸々の自然に打ち勝つ巨大な諸自然よ、おお、自然以上に諸々の自然を喜ぶ諸自然よ。これらこそ、大いなる自然を有するものら〔の働き〕である。 2.47.1染色ということにおいて、これらの諸自然より他には、より大いなるものはなく、等しきものはなく、劣るものはない。これらはみな、分解されることで働きをなす。もちろん、あなたがたは、おお、預言者仲間(sumprofhvthV)よ、不信の徒ではなく、驚嘆者にほかならないことをわたしは知っている。なぜなら、あなたがたは物質の力能をご存知だから。しかるに、若い者たちは、物質に対する無知の内にとどまるゆえに、ひどく誤解し、この書を信じないゆえに、知らないのである、 — 医者の童僕たちは、健康薬をこしらえようとするとき、一貫性のない衝動でそれをしようとするのではない。いや、それどころか、先ずは、熱はいかほどか、これに適合するものは何かを判定し、冷たさとか湿り気とか、あるいは、病状はどうかとか、的中する調合(kra:siV)に対応しているかどうかを〔判定したうえで〕、的中した調合を仕上げるということを。そして、そういうふうにして、健康に利するよう調合された薬物を彼らにあてがうのである。

 これに反し、首尾一貫しない道理なき衝動によって、魂の癒し(i[ama)や、あらゆる辛労〔から解放するため〕の身代金を用意しようとする連中は、誤解していることに気づかないであろう。というのは、わたしたちが神秘的(mustikovV)道理(lovgoV)ではなくて、神話的(muqukovV)〔道理〕を告げているのだと連中は思いなして、諸々の試剤(ei\doV)を何ひとつ検査しないからである。例えば、これこれは洗浄剤で、これこれは補助試剤であるかどうかとか、これこれは染色剤で、これこれは貼り薬であるかどうかとか、また、表面を形成するのがこれこれで、そして、表面が色落ちするなら、底部もまた色落ちするかどうかとか、これこれは耐火石(purivmacon)だが、これこれはより強化した耐火石を形成するかどうかとか、例えば、塩は銅の外部を洗浄するが、内部をもあらゆる機会に洗浄するかどうかとか、洗浄のあとで外部を錆びさせるなら、内部をも錆びさせるかどうかとか。また、クリュソカルコス(crusocavlkoV)の外部を白くして洗浄するのは水銀であるが、〔水銀は〕内部をも白くするのかどうかとか。また、外部において色落ちするなら、内部においてもまた色落ちするだろうかとか。若い者たちがこういったことで修行していたなら、判断力を持って諸々の実践に突き進むのだから、失敗することはなかったであろうに。というのは、諸々の自然について、1つの試剤(ei\doV)が10〔の試剤〕を引っ繰り返すがごとき、その反作用(ajntipaqh:)を彼らは知らないからである。

2.48.1
 例えば、オリーブ油の1滴は、多くの緋色を消すし、少量の硫黄も、あまたの試剤を焼きつくすということを知れ。まさしく以上のことが、黄染め法について、またいかなる点に気をつけるべきかも、この書で述べられたとせよ。

 それでは、いざ、諸々の染水(zwmovV)のことをも順次述べてゆこう。ポントス産のルバーブ(rJa:)をとって、ajmhnaivoV〔醸造1月に足らぬ?〕辛いブドウ酒の中で捏ねよ。そして粘り気のある膏薬を作り、月〔=銀〕の薄片を受け取れ、金をつくるためである。爪の病気〔に効く薬〕を調剤せよ。ところで、あなたが必要とするのは、この薬よりもさらに弱いものである。そこで、あらゆるところを密閉された新しい容器に入れ、中程になるまで下から徐々に加熱せよ。次いで、薄片を薬物の残存物の中に入れよ。 2.48.10そうして、既定のブドウ酒によって、液状の染水(zwmovV)があなたに見えるようになるまで希釈せよ。この中にすぐさま薄片をつけて、冷めないうちに浸透させよ。次いで、取って、塗布せよ、そうすれば、金を見出すであろう。ところで、ルバーブが時がたって古い場合は、等量のクサノオウ(ejluvdrion)を、例のごとくあらかじめ塩漬けにしておいて、これに混ぜよ。クサノオウは、ルバーブとの同類性(suggevneia)を有するからである。すなわち、自然は自然を喜ぶ。

 キリキア産のサフランを受け取れ。同時に、サフランの花を、ブドウの既定の汁液によって希釈し、例によって染水(zwmovV)をつくれ。銀を薄片にして、色が充分染まるまで浸せ。薄片が銅なら、もっと善い。その場合は、例によって銅をあらかじめ精錬しておくこと。 2.48.20次いで、アリストロキア(ajristolociva)2,サフランクサノオウをその2倍とって、粘り気のある膏薬をつくり、先ほどの薄片に塗って、最初の手引きどおりに仕上げよ、そうすれば、あなたは驚嘆するであろう。というのは、キリキア産のサフランが、水銀と同じ働きをすること、あたかもカッシアがケイと〔同じ働きをする〕がごとくだからである。すなわち、自然は自然に打ち勝つ。

2.49.1  鉛 — キオス産〔の土〕とパロス産の土と明礬によって、われわれによって融解しがたくされたもの — をとって、カナクソに塗り、黄銅鉱とサフランと、ベニバナ(knhvkoV)およびオイコメニオスoijcomenivon〔?〕の花、クサノオウサフラン泥(korokovmagma)、アリストロキアの中に注げ。激辛の酢で捏ね、例によって染水(zwmovV)をつくれ。そうして、ルバーブが鉛を吸収するに任せよ、そうすれば、金を見出すであろう。この化合物(suvnqema)と、火に通さぬ硫黄少しを静置せよ。すなわち、自然は自然を支配する。

 以上が、パムメネースの書 — これを彼はアイギュプトスの神官たちに提示した — のうち、金作りの物質がこの自然学の中に〔関説されている〕かぎりのことである。

2.49.10
 ひとつの試剤が、こういった神秘を作り出すとしても、驚いてはならない。多くの薬物が、時間をかけてやっと、鉄によってできた疵を溶接するのを眼にするのではないか。ところが人糞は、時間をおかずにそれをなすのを〔眼にするのではないか〕。また、焼灼具によってもたらされる多くの薬物が、何らの作用も及ぼさないことしばしばである。ところが、処理されたアスベストスのみは、病状を癒すのである。また、眼病に適応されることしばしばの多彩な処置(pragmateiva)が、害をもたらすことをも彼は知った。が、ラムノスという植物は、そういった病状すべてに作用し、狙いをはずすことがない。だから、虚しく的外れなあの物質は軽蔑し、自然学をのみ用いるべきである。されば今、このことからも、上述の自然学なしに、ひとはかつて仕事をしてきたと判断せよ。しかし、これなくしては何をも為しえないとするなら、われわれが多種の物質から成る現象(poluvuloV fantasiva)を歓愛するのはなぜか? ひとつの自然が全体に打ち勝つというのに、われわれにとって多くの試剤の同時作用が同じものに起こるのはなぜか? 銀作りのための諸々の試剤の化合(suvnqesiV)をも明らかに見てゆこう。

琥珀金(a[shmon ajrguvrion)の作り方について
2.50.1
 雄黄あるいは鶏冠石、あるいは思いつく仕方でつくった水銀を、例によって固定し(peh:xon)、硫化された〔?〕銅〔や?〕鉄に投入せよ、そうすれば、白くなるであろう。同じ作用を有するのは、白くさせられたマグネーシア、変成させられた雄黄、焼成されたカラミン、火を通さぬ鶏冠石、白くさせられた黄銅鉱、硫黄によって同時に焼成された白鉛である。しかし、鉄を溶解させられるのは、マグネーシアか、硫黄の半分か、短い天然磁石(mavgnhV)を投入したときである。なぜなら、天然磁石は、鉄に対する同類性をもっているからである。すなわち、自然は自然を喜ぶ。

 上に書いた昇汞(nefevlh)をとって、短い明礬を混ぜながら、ひまし油ないしハツカ大根の種子油で煮よ。次いで、錫(kassivteroV)をとって、2.50.10例のごとく硫黄か、黄銅鉱か、あるいは思いつく仕方で精錬せよ。そうして、昇汞といっしょに注ぎ入れ、混合物(mivgma)をつくれ。包みこむ〔炎の〕光で焼かれるに任せよ、そうすれば、白鉛に似通ったものを見出すであろう。この薬物は、あらゆる物体を白くする。化合させる際にこれに混ぜるのは、キオス産の土か、星石(ajsterivthV)か、セレナイトか、あるいは思いつく仕方で。というのは、セレナイトは水銀に混ぜられると、あらゆる物体を白くするからである。すなわち、自然は自然に打ち勝つ。

 白いマグネーシアを〔とれ〕。これを白くするには、塩か、海水の中で凝固した明礬か、汁液(シトロンのことである)か、あるいは硫黄の蒸気によってである。2.51.1硫黄の煙は、白いから、あらゆるものを白くするからである。一部の人たちは、コバティア(kobavqia)の煙もこれ〔マグネーシア〕を白くすると謂う。白くしたら、純白になるよう、これに等量の酒石(sfevklh)をも混ぜよ。そうして、やや白い銅(オレイカルコス(ojrecavlkoV)のことである)4#106〔ウンキア〕を受け取って、融解させよ。そのさい、あらかじめ精錬した少量の錫1#106を下に投入し、それらの耐火物質(oujsivai)が同時に結婚するまで、手で下方へと動かしながら。〔そうすれば〕凝固物ができよう。そこで、白い薬物1/2を投入せよ、そうすれば第1〔物質〕ができよう。白くされたマグネーシアは、諸々の物体が凝固することを許さず、銅の影が現れることも〔許さない〕からである。すなわち、自然は自然を支配する。2.51.10

 白い硫黄をとって、尿で白くする。そのさい、陽〔光〕の中で、あるいは、明礬と潮海の塩の中で捏ねながら。手をつけられていない〔純粋な〕硫黄は、まったく純白である。これを鶏冠石か、若い雌牛の尿といっしょに、6日間、薬物が大理石に似通ったものになるまで、捏ねよ。そうして、できたら、大いなる神秘である。というのは、〔これは〕銅を白くし、鉄を柔らかくし、錫を危険のないもの〔?〕にし、鉛を溶けないものに、耐火性物質を壊れないものにし、染料を色落ちしないものに〔する〕からである。なぜなら、硫黄が硫黄に混ぜられると、神的な物質oujsivai〔複数形〕を作り、相互に対して多くの同類性を有するからである。すなわち、諸々の自然が喜ぶのは、諸々の自然である。

2.51.20
 白くされた密陀僧をば、もはや流動しないよう、硫黄とか、カラミンとか、雄黄とか、黄銅鉱とか、酢蜜とかで捏ねよ。これを、用具を強化したうえで、より輝く〔高温の火の〕光で焼け。この化合物(suvnqema)をして静置せしめ、洗浄力を高めるため、酢で湿らされた石膏で3日間、焼け。2.52.1かくして、これに白鉛よりはむしろ、白くなった〔密陀僧〕を投入せよ。ところで、〔炎の〕光を当てすぎると、しばしば黄色くなることもある。しかし、黄色くなったら、今の場合はあなたの用をなさない。諸々の物体を白くすることを望んでいるからだ。そこで、これを段階的に加熱し、白くする必要性のあるあらゆる物体に投入せよ。というのは、密陀僧は、溶けないものとなると、もはや鉛ではないからである。〔鉛は溶けるのが〕容易である。だから、すぐさま多くのものらに変化するのが、鉛の自然である。すなわち、諸々の自然は諸々の自然に打ち勝つ。

 キリキア産サフランをとって、海水か塩水で擂りつぶし、染水(zwmovV)をつくれ。2.52.10火を当てながら、あなたの得心のゆくまで、これに銅、鉛、鉄の薄片を浸せ。すると、白くなるであろう。次いで、薬物1/2をとって、鶏冠石か、白い雄黄か、火を通さぬ硫黄か、あるいは思いつく仕方で捏ねあわせよ。そうして、粘り気のある膏薬をつくれ。薄片に塗布し、例によって密封した容器に入れよ。まる1日、おがくずのゆっくりした火にかけよ。次いで、取り出して、きれいな染水(zwmovV)に入れよ、そうすれば白くなるであろう、銅なら、真っ白になるであろう。残りは、職人のように仕上げよ。というのは、キリキア産のサフランは、海水では白くなるが、ブドウ酒では黄色くなるからである。すなわち、自然は自然を喜ぶ。

2.52.20
 白い密陀僧を受け取り、これを、月桂樹の葉、キモーロス島〔キュクラデス群島中の島〕産の土、蜂蜜、白い鶏冠石といっしょに捏ね、ニカワ質のものをつくれ。薬物の半分を塗り、例によって下から焙焼せよ。薬物の残りの中に浸せ、白い樹木の灰水で希釈しつつ。というのは、作用が表面的な(ajnouvsia)?混合物(mivgmata)は、火がなくても美しく活動するからである。これらは染水(zwmovV)によって耐火物を作る。すなわち、自然は自然に打ち勝つ。

2.53.1
 上に書かれた昇汞をとり、これといっしょに明礬とミシュ(mivsu)を捏ねあわせよ。そして酢で洗い落とし、これに、少量の白いカラミンか、マグネーシアか、アスベストスを加えよ。物体から物体が生じるために。真っ白な蜂蜜といっしょに擂りつぶせ。染水(zwmovV)を作り、この中に望みのものを浸しつつ火にかけよ。下方へと放せ〔?〕、そうすれば生ずるであろう。この化合物(suvnqema)、および火を通さぬ〔=天然〕硫黄をして、薬が内部から脱けるよう、静置せしめよ。すなわち、自然は自然を支配する。

 雄黄1#106,硝石(nivtron)1/2#106、ペルシアの柔らかい植物の樹皮2#106,塩1/2,クロミグワ(sukamivnoV)の樹液1#106,スキステー(scisthv)〔滑石?〕等量を受け取れ。酢か、尿か、スタクテ香油のアスベストスによって、2.53.10染水(zwmovV)ができるまで、捏ねあわせよ。この中に、火によって変色した薄片を浸せ、そうすれば曇りを除けよう。すなわち、自然は自然を支配する。

 金と銀の用途はすべて領収済みとせよ。余すところは何もなく、足らざるところは何もない、ただし、昇汞と水の蒸留は別である。これらのことについて故意に口をつぐんだのは、それはわたしの他の書き物の中でも、惜しみなく記されているからである。この書は述べられたとせよ。

 //END
 2006.12.13.

forward.GIF002 レウキッポスに宛てて出されたデーモクリトスの手紙 V
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