[シビュラの託宣]訳註(第1巻〜第8巻)
- [001]「タルタロス」
ティーターン族の牢獄。ヘーシオドスによれば、ここは青銅の墻で囲まれており、天地の間が9日9夜の距離隔たっているように、地とタルタロスも9日9夜の隔たりがあるという(Theog.720 ff.)。103行目の「ゲヘナ」はタルタロスの一部ないし同一視されており、80行目以下の「ハーデース」は死者の住処を含意する。
- [002]「わし〔の名前〕は9文字を有す。音節は4つ」
この謎を解くことに、錬金術師たちは没頭した。それは、偽デーモクリトスやオリュムピオドーロスにより引用され、ステパノスにより長文で註釈された(Praxis VI)。ステパノスのテキストを研究したカルダン〔1501-1576〕とライプニッツ〔1646-1716〕によれば、9つの語はajrsenikovnという言葉であろうとされている。また、まったく異なった解釈も与えられている。例えば、Zwhs buqovV〔人生の深淵〕のように。そしてシビュラの書物の版においては、QeoV swthrとかAnexfonoV、FaoV foroVなどのように。(ベルトゥロ『錬金術の起源』p.130-131)
- [003]「一位は8であり、十位も同じである。これに
百位の8が加わって」
ギリシア語の字母は、それ自体で数価を示すことができる。それゆえ、人名の場合も、字母に数価を充てて、その名前に対応する数を得ることができた。ここで問題になっている888は、Ι+Η+Σ+Ο+Υ+Σ=10+8+200+70+400+200=888である。黙示録13章18参照。
- [004]「三つの徴」
終末時の3つの徴「天下開く、喇叭の響き、死人の復活」。『十二使徒の教訓』16.6にも言及がある。
- [005]「四文字のアダム……東西南北を満たす者」
ΑΔ ΑΜは、ajntolivh(東)、duvsin(西)、a[rkton(北)、meshmbrivh(南)から成る。これは古代ではしばしば用いられたモチーフである。
- [006]「三人の人」
第2次三頭政治(オクタウィアヌス、アントニウス、レピドゥス)を指す。
- [007]「すべての人間どもが自分の〔家の〕尾根の下で滅びるだろう」
おそらく前84年のユピテル・カピトリヌス神殿の火災か、前57年のアルバン丘上ユピテル像の落雷事故をさすと云われる。
- [008]「その後、セバステの輩からベリアルがやって来る」
前27年、ヘロデス大王(ユダヤ王 在位 前37-4)は、ギリシア文化を浸透させる意図で、昔のサマリアを復興し、これをセバステ〔アウグストゥスの意〕と名づけた(ヨセフス『ユダヤ戦記』1巻xxi)。
「剛毅かつ賢明な人物であったにもかかわらずイドゥーマ(エドーム)人の血統であったために、国粋主義的なユダヤ人からは歓迎されず、時には「狐のように王位を掠め、虎のように支配し、犬のように死んだ」と酷評されることさえある」(松原國師『西洋古典学事典』)。ベリアルは、ヘブライの伝承では、ルキフェルに次いで怖れられた天使であった。
- [009]「暗い夜が真昼の刻限に起こるだろう」
前585年5月28日、リュディア人とメディア人との戦いのさなか、突然、皆既日食が起こった(Hrd. I-74)。
- [009]「劫掠」
紀元前190年、セレウコス朝シリアのアンティオコス3星は、リュディアのシピュロス山北麓ヘルモス河畔のマグネシアでローマ軍に敗れ、15000タラントンの賠償金を課された(その結果、アジア風の奢侈と洗練された生活習がローマに流入することになった)。
- [010]「大いなる神の種族」
マカベア時代のユダヤ人の独立運動とハスモン王朝時代をさす。
- [011]「王」
アケメネス朝ペルシア初代帝王キュロス2世(在位 前559-530)。
- [012]「剣がおまえの中をへ廻り」
プトレマイオス6世ピロメートールとその兄弟プトレマイオス・エウエルゲテス2世との骨肉の争い。
- [013]「ゴグとマゴグ」
エゼキエル書38章・39章。「ゴグ」という名はリュディアオウギュゲス(前7世紀半ば。ヘーロドトス『歴史』1章8-14)に通じるか?(月本訳・脚註p.158)。ラビの神学では、神とそのメシアに敵対する者とされる。
- [014]「西に星が輝く」
セネカ『自然誌』7.15は、シリア王デメトリオスの死に際して彗星が現れたことを伝えている。
- [015]「七代目の王」
プトレマイオス6世フィロメトル(エジプト王 在位 前180-145)。
- [016]「大いなる王」
アンティオコス4世エピファネス(セレウコス朝の王 在位 前175-165/4)。第6次シリア戦争が勃発するとエジプトに3度にわたって進攻し(前170-168)、甥にあたるプトレマイオス6世を捕らえて、その弟プトレマイオス8世と張り合わせた。
- [017]「この町」
アンティオコス4世が、エルサレムを監視するために建てられたセレウコス朝駐留軍の要塞都市アクラ。前141年に破壊されたとされる。
- [018]「暗い夜が真昼の刻限に起こるだろう」
前585年、リュディア人とメディア人との戦いのさなか(前585年5月28日)、突然、昼が夜に変わった(Hdt.I,74)。
- [019]「ペルシア人の覇権」
前525年のエジプト征服によってペルシアは世界帝国になる。
- [020]「驕れるギリシアが」
前499年、ペルシアに対して反乱を起こそうとしたイオニア人に、アテネ人は海軍を送って助けた。
- [021]「大いなる王」
前481-480年のクセルクセスの遠征。ヘレスポントスに船橋をかけ、アトス山を崩して運河を造ったという(ヘーロドトス第7巻)。
- [022]「その時」
グラウニコスの戦い(前334)、イッソスの戦い(前333)、ガウガメラの戦い(前331)によるアレクサンドロスの政戦。
- [023]「バビローン」
前331年陥落。
- [024]「覇権はもはやマケードニアのものではない」
マケードニアはローマを相手とした三度の戦争に敗れ、前146年以後、ローマの属州となった。次のコリントもカルタゴも、ローマ軍によって徹底的に破壊された。
- [025]「イタリア出の大いなる王」
ネロ(皇帝在位 後54-68)は、後68年に、迫り来る反乱軍を前に、ローマの郊外にあった側近の別荘で自害した。ネロが死の直前に、パルティアに逃れたいともらしたことから、彼はパルティアへ逃れて生きており、やがて再び帰って来るという噂が絶えなかった。
- [026]「エルサレムの神殿を焼き払い」
後66年に勃発したユダヤ戦争は、70年にティトゥスとローマ軍により徹底的に圧殺され、エルサレムはあとかたもなく破壊された。
- [027]「炬火が放たれ」
後79年、ヴェスヴィオス火山の噴火。
- [028]「アッサラコスの家系また血筋なる者」
トロイアの王。トロイアの英雄アイネイアスの曾祖父。アイネイアスはギリシア軍の放った火に炎上するトロイアから、父の手を引いて逃れたと伝えられる。
- [029]「羊を食う獣の子ら」
「羊を食う獣」つまり狼の子、ロムルスとレムスのこと。「十の二倍」はカエサル、一〇番目はユリウスをギリシア語表記した頭文字、第1字母を頭文字にするのはアウグストゥス。
- [030]「大いなる星が輝やく時」
後73年、著しい彗星が現れ、ローマの運命を示すと考えられた。
- [031]「燃え上がった火」
後63年のローマの大火をさす。
- [032]「惨めなアジアよ」
後17年に大地震が襲い、一夜にして12の町が壊滅し、サルディスは特に被害がひどかった。
- [033]「二回」
後64年、後191年の2回、ウェスタ神殿炎上。
- [034]「アピス」
エジプト名「ハアーピ」。牡牛の形ないし、牡牛の頭をもつ人間の姿で表される神。
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