すちゃらか御一行来る!〜第1回


「ひゃあ!助けてくれえ!」
 男は叫びながら坂を駆け下りて行った。男の見た物、それはフードの付いた黒いマントに身を包み両手を広げた程もある刃の大鎌をもった影であった。

 サインの街に怪しげな一行が現れた、一人は死神の様な出で立ちの男、もう一人は竪琴を片手に歌いながら歩く色黒の青年、そしてひらひらのスカートを揺らしながら歩く少女、そして最後に全く普通の旅姿をした女がいた。全く普通といっても、ここまでメンバーが異様だとかえって彼女の方が怪しく見えるのは、悲しいかな事実である。
「デュオ!鎌、皆恐がってるじゃない!こら、トリア片っ端からナンパするなっ!フィーア、いらない物買わないで!」
 まるで、子供を引率するかの様に叫ぶ女は、一軒の宿屋を見つけた。
「今日は、ここに泊まるわ。騒ぎをおこさないでね。」
 ありったけの念を込めて言うと、女は扉を開けた。中は片づいていて、落ちついた雰囲気であった。
「すみません、一晩泊まりたいんですが。」
「はいよ。」
 と言って振り向いたおやじの顔がひきつるのを感じながら、女はさっさと宿帳に名前を書いた。
「ウーノ・ネアと。部屋は2部屋、お願いします。」
 鍵を受け取ると一つをデュオと呼ばれた死神モードの青年に渡した。怪しい一行は二階に上がると、部屋に別れて休憩した。
「ねえ、ウーノ。この街には、どの位いるの?」
 ウーノは荷物を降ろすとフィーアに言った。
「んとね、路銀が乏しいから仕事を一つこなすまでね。」
「じゃあ、しばらく居るのね!」
 嬉しそうに言うフィーアにウーノは頷いた。そして、残っている路銀を数えようとした時、フィーアがザックから一冊の本を取り出した。
「えへ、サインの街に来たら行きたいと思ってたケーキ屋さんがあったんだ。」
「ちょっと待てい。」
 がばっと立ち上がると、ウーノはフィーアの頭を叩いた。抗議の視線を向けるフィーアにウーノは、こめかみをピクつかせながら言った。
「いい?フィーア、私さっき言ったわよねえ、路銀が乏しいって。皆の共通のお金から、あんたにいくら貸してると思ってるの?金貨5枚分は貸してるのよ!」
「その内、返すってばあ。」
 そう言って、笑ってごまかそうとするフィーアに、ずずいと近寄ってウーノは言った。
「そう言って、ここまで溜まったんでしょうが!」
 ため息をついてウーノは腰に手を当てると、きっぱりと宣言した。
「いい?金貨の利子として、今回の仕事はフィーアが探してくる事!それと、報酬から順次、貸した分をさっぴくからね。」
「ええー?そんな事したら、可愛いスカートやリボン買えないじゃない。」
「あんたの辞書に反省という文字は無いの?」
 そう言って、ウーノは両手でフィーアのこめかみをグリグリした。
「ひたたたた、分かった。分かったから、やめてえ!」
「分かれば、よろしい。」
 そう言って一息いれた時に階下から悲鳴が上がった。二人は急いで部屋を飛び出し、一階に降りた。そこには、腰を抜かしてへたりこんでいる女性と、黙ったまま突っ起っているデュオが居た。
「・・・大丈夫です。ただの怪しいヤツですから。」
 そう言ってウーノは、頭を抱えた。これで、通算530回目の出来事だった。

「あんた、何度言ったら分かってくれるの?せめて、鎌だけは町中へ持って出るなって。」
 すると、デュオはいけしゃあしゃあと、答えた。
「鎌が無いと落ちつかん。それに皆、剣を持ってるじゃないか。」
「剣は市民権があるから、いいの!」
 まだ、不満げな顔をしながら、それでも鎌を片づけた。部屋にトリアがいないという事はどうやら先に街に出たようだった。
 その時、外から歌が聞こえてきた。うまい事はうまいのだが、修飾語が多く聞いていて恥ずかしくなる内容だった。
「森にわたる鳥のさえずりも君の声には、かなわない。空に輝く夜空の星も、ぐけっ!」
「相手が嫌がってるでしょ!ナンパは時と場所を選べっ!」
 トリアの後ろ頭にウーノの靴がクラッシュした。びよよおんと竪琴の糸が切れ、トリアは地面とキスする事となった。

   フィーアに仕事探しを任せたが少々不安になって、ウーノは街に出た。引き受けるまではいかなくても、仕事の目星を付けておこうと思ったのだった。
   街の一角にある、口入れ屋に足を踏み入れた。そこは、それなりに人が集まり熱心に仕事を探していた。簡単で裏のない仕事は壁に張り出され、報酬の多い仕事や裏のある仕事はカウンターで紹介していた。壁に張り出された仕事は、それなりに簡単で荷物の護衛や人捜し等が占めていた。しかし、報酬の方もそれなりに安かった。この街に長くいるつもりならば、数をこなせばいいのだが、そのつもりもない。特に行き先を決めての旅ではなかったが、この小さめの街にいる事はできない。なんといっても、あの3人が一緒だからだ。ほっとけば、毎日でも騒ぎを起こしてくれるだろう。端から見る分には面白いが、関係者となると笑ってもいられない。もっとも、ウーノも騒ぎを別にすれば3人の事は好きなので別れて旅をするつもりもなかった。
 ウーノは、とりあえず路銀の確保にカウンターへと向かった。
「なにか、お金になる仕事はありませんか?」
「危ないのでも、いいのかね?」
「まあ、そこそこなら。」
「・・・4件ばかりあるよ。」
 ウーノは、考えると返事をした。
「じゃあ、聞かせてもらえますか?」
「そうだな、護衛が1件と裏のあるのが3件か。」
「うーん、護衛の方を教えてもらえますか?」
 口入れ屋の女将は一枚の用紙を手渡し、小声で言った。
「このサンクってのは、この街で一番と言われる商人スタイロ家の息子さ。そのサンクってのが、直接頼みに来たんだよ。内密に、ってさ。家の者に頼まず本人が来たんだ、何かあるよ。」
「まあ、そうかもしれませんね。・・・この仕事、押さえておいてもらえますか?」
「返事は、いつだい?」
「明日の朝には。」
 そう言って、ウーノは押さえの代金として銀貨3枚を渡した。この依頼を受けた後、完了すれば金貨15枚という破格の報酬が手に入るのだった。その為の銀貨3枚なら安いものであった。

 街を歩き旅の道具を揃え、宿に着いたウーノをフィーアの高い声が迎えた。
「ウーノ、遅おい!折角、私が仕事みつけてきたのにい!」
 ウーノは、驚きながらもフィーア達の待つ席に着いた。そのテーブルには3人の他に、一人の青年が座っていた。フィーアは、青年に向かって座りなおすとウーノを紹介した。
「こっちがウーノ。このパーティーのリーダーで、お金にうるさいです。」
 顔をひくつかせながら、ウーノは頭を下げた。
「んで、こちらがサンク・マックさん。護衛を頼みたいんだって。」
 ウーノは、運ばれてきたスープを一口飲んで、大きくむせた。
「やっだあ、ウーノ汚いじゃない。」
「サンクさん、もしかして口入れ屋に仕事の依頼をしてらっしゃいませんか?」
「はあ、しています。」
 その答えでフィーアは、ウーノににじり寄った。
「ひっどおい、私が仕事見つけられないと思って、口入れ屋に行ったの?」
「いや、見つからなかった場合に、ね。押さえてあるだけで引き受けてはないから。」
「なら、いいけど!」
 フィーアは、ぷうと頬を膨らませてパンを食べた。フィーアとサンクが語ったのは、こういった内容だった。
 実は、このたび結婚の話が持ち上がった。どう見ても政略結婚といった相手だし、まだまだ結婚するつもりもない。そこで当分の間、サインの街から姿を消そうという事にしたのだった。ともかく、金持ちの息子なので金だけは、たんまり有る。そこで、1カ月程社会見学も兼ねて、旅に出ようと思ったのだ。
「でも、どうして一人で旅に出なかったんですか?」
「いや、先日の事ですが家を抜け出したんですよ。メノファの街を目指して、歩いていたら死神に出会って・・・。」
「死神?」
 ウーノは嫌な予感がした。なにしろ、メノファの街は、この間ウーノ達が出発した街だからだ。その言葉にトリアが軽く言い放った。
「その死神は、ここにいるデュオじゃないですか?こいつ、大の鎌好きで大鎌を持ち歩いていますからねえ。」
 ウーノは二重依頼の為に損した銀貨3枚を要求しようと思っていたが、これで計画はおじゃんになった。怒るかと思ったサンクは、にっこり笑って言った。
「それは、良かった。おかげで、フィーアさんとお知り合いになれたんですから。」
 どうやら、サンクはフィーアに一目惚れしたようだった。ウーノには、なんとも奇特な男に見えた。
「この事は誰か、ご存じなんですか?」
「はい、私の世話係のヘクスが知っています。今度の計画を考えてくれたのも、ヘクスですし。」
 取りあえず話のまとまった後、サンクは家へと帰っていった。どうやら、門限があるらしい。報酬は口入れ屋で聞いたより多かった、どうやらフィーアが気に入られたいらしい。ウーノ達としても、仕事がやりやすい上に報酬が多いのだから大歓迎であった。

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