パートナー 〜第1回


「王都を出て、もう1週間ですけど、どこへ行くんですか?」
 ヴァイスは、テクテクと2人の後を歩きながら尋ねた。
「コレーオの街に行こうかと思って。」
「コレーオって、魔導師学院本部校のある所ですよね。」
「久しぶりに知り合いに会おうかと思ってね。」
 2人の会話にタビーが入ってきた。
「こう見えても、エルって凄いんだぜ。学院で講師してたんだから。」
 タビーは自分の自慢話でもするかのように胸をはった。
「えっ!すごいじゃないですか!本部校には、入学するのも難しいって聞きましたよ。」
 ヴァイスの驚きように、エルの方が慌てた。
「え、いや講師っていっても半年位だったし。それに、クビになってるのよ。」
「どうしてですか?・・・まさか、二日酔いで授業に遅れたとか。あ、そんな事ないか。」
 酒豪のエルに二日酔いという言葉は無縁だった。ぶつぶつと独り言を言いながら歩くヴァイスにエルが言った。
「ちょっと、上層部と折り合いが悪くてね。私の教え方が気に入らなかったみたい。」
「ま、エルに教えられたら不良魔導師になっちゃうか。」
 ひゃっひゃっと笑うタビーの頭を梟のサリオがつついた。
「痛ててっ!悪かったって。」
 マスターであるところのエルの悪口を聞いて、パートナーのサリオが怒ったのだ。タビーに非があると見て取ったのか、タビーのパートナーで狼のノービアは我関せずを決め込んでいた。
「それにしても、雲行きが怪しいわね。今日は無理せず、近くの村で一泊しましょ。」
 3人は歩を速めて街道沿いの村へ入った。そこは街道を行く旅人を相手にした小さな村で、なかなか設備は整っていた。小さいながらも武器屋もあったし、宿屋は数軒あった。

 夕方近くになって、エルの予想通り雨が降り出した。叩きつける様な雨音を聞きながらヴァイス達は食事を始めた。その時、ずぶぬれになった人影が飛び込んできた。
「あ〜ん、間に合わなかった!」
 その声の主は真っ白のローブを纏った少女だった。ぽたぽたと水を滴らせながら店の中を見渡すと、手をぶんぶん振りながらヴァイス達の方へ近寄って来た。
「あなた、ヴァイス君よね?」
 どう見てもヴァイスより年下の少女は、テーブルの側まで来るとローブを脱ぐと同じテーブルに席をとった。
「私、リートって言います。エルさんとタビーさんですね?」
 ぺこりと頭を下げると店の主人に料理を注文し始めた。
「君、誰?」
 至極当然な質問がヴァイスから発せられると、エルとタビーも「うんうん。」と頷いた。リートと名乗った少女は、ぽんっと手を叩いて自己紹介をした。
「え〜、名前はリート、14歳。オラルの妹です。」
 がしがしとタオルで頭を拭きながら、再び頭を下げた。3人は「え〜っと。」と記憶の引き出しを探し回った後、大声を上げた。
「オ、オラトリオ王の妹ぉ?!」
 大声に驚いたリートは口に指を当てて、「しーっ!」と言った。
「ど、どうして、こんな所に?」
 声を潜めて尋ねたヴァイスにリートは、これまた小声で答えた。
「お兄ちゃんがね、パーティーに回復魔法使える人間がいないから行ってこいって。」
「それだけじゃないでしょ。」
 エルも小声で参加してきた。
「さすが、御名答。実はドゥ家が内乱を企ててるんじゃないかという情報が入ったんです。」
「で、俺達に何をしろって?」
 タビーも参加して、4人は頭を集めてぼしょぼしょと話した。これでは、周りから怪しまれる事うけあいである。
「ドゥ家はハオラーン王国でも最大の貴族。国が表だって動く訳にはいかないんですよ。だから、急ぐ用のないあなた方に情報収集を頼もうと思った訳ですよ。」
「だからって、一国の王女が・・・。」
 ヴァイスが言いかけるとリートは遮って言った。
「いいですか?私、王女であると同時に僧侶でもあるんです。自分で言うのもなんですが、そこそこの能力あるんです。そんな人間が、そうそう城から出る機会なんて無いんです。」
「・・・つまりは、息抜き。なんだって、この王族は気軽に外出するのかしらね。」
 溜息混じりのエルの言葉にリートは嬉しそうに笑った。
「でも、よく俺らの行く先が分かったな。特徴は聞いてたにしても。」
 タビーの疑問にリートは腰の小袋から小さな水晶珠を取り出した。
「私、占いもできるんです。すごいでしょ?」
 やっと届いた食事をリートは、にこにこしながら食べ始めた。
「そんなに、お腹減ってたの?」
「私、この旅を始めるまで暖かい食事とった事なかったから。」
 無邪気に笑う中にも王族の人間である苦労が感じられた。そんなリートが気に入ったのか、エルはリートの方をぽんと叩いた。
「気に入ったわ。情報収集の件、引き受けるわ、仕事としてね。いいでしょ?」
 頷くヴァイスとタビーを見て、リートは嬉しそうに言った。
「本当ですか?」
 こうして、仲間が一人増えたのだった。
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