クロス・ポイント〜第27回〜


 本隊が留守の時を狙った襲撃。かっての上司であるソロジーがその指揮をとっている事を知り、ダイチの動きが一瞬止まった。
「隊長・・・」
 かっての仲間を売り渡し、クロス・ポイントで起こった革命という名の反乱を手助け他した事はわかっている。何が理由か、ダイチは知らなかったが 許せるものではなかった。
 しかし、新人の傭兵だった自分を鍛え育ててくれた恩を忘れられずにも居た。
「ソロジー隊長」
 ダイチの小さな呼びかけをアンの走る足音が打ち消した。建物の爆発音に集まった住民の中に立つソロジーに向かって走るアン。何事かと困惑する住民達。 銃を使う訳にはいかない。流れ弾が住民に当たれば、いかに正当防衛であっても言い訳がたたない。
 アンは大ぶりのナイフを引き抜くと一気にソロジーとの距離をつめた。刺しではなく振り、そして幅は小さく。刺せば筋肉がナイフを捕らえ、次へ繋げ られない。急所である喉や目、そういった場所を狙っての一撃だった。
 ソロジーの側に居た住民は叫び声を上げて逃げ惑った。アンの攻撃をかわし、ソロジーは住民の群れへと足を向ける。
「こんの卑怯もんが!」
 アンの走りは罵声を追い抜く。このままソロジーが抵抗を試みないなら勝負はつくと思われる動きだった。その戦いを動けずに見ていたダイチの五感に 警報が響いた。
(じっとしてちゃ駄目だ!)
 足をくじいたキサラの手を引き、ダイチは物陰へと飛び込んだ。その瞬間、砂煙をあげ地面を走った銃弾の線はダイチ達の後を追った。一秒反応が遅れて いれば、ダイチかキサラかどちらかが致命傷を受けていただろう。
「ごめん、危ない目にあわせて」
 ダイチは銃を引き抜くと、敵の位置を確認した。どうやら、ダイチ達が逃げ出した建物の中からの銃撃のようだった。
 既に住民の避難もほぼ、終了していた。とどまっていたソロジーの役割はアンかダイチをキサラから離す事だったようで、今はアンに対して反撃に出て いる。1対1ではあるが、建物から銃撃を受けないかと警戒しているのがわかる。
 ダイチ達が今居る物陰からは建物に対して斜線が通らない。しかし、出て行けば狙い撃ちされる。
 互いに手詰まりといった状況に陥りかけた時、ダイチが叫んだ。
「アンさん!頼みます!」
 銃を構えたダイチの姿を視界に納めたアンはソロジーの側から飛びのき、銃を構えた。銃口は建物へと向いている。銃声は1発と4発。そして、静寂が 訪れた。
 アンと戦っていたソロジーはダイチの一撃で倒れ、建物からダイチ達を狙っていた者達はアンの銃によって撃ち取られた。反撃は無かった。
「あんたの教え子、なかなかやるだろ」
 アンは胸を打ちぬかれ倒れたソロジーに言った。息と共に血を吐きながら、ソロジーは微かな笑みと共に応えた。
「・・・知ってたさ。優秀な、可愛い教え子、だ」
 駆け寄りたいといった表情のダイチを手で制止したまま、アンは小さな声で訊いた。
「あいつに何か伝えとく事はあるかい」
「何があったとしても・・・俺は、裏切り者だ、と」
「潔いね。伝えとくよ」
 ソロジーは大きく息を吸い込んだ後、動きを止めた。
「潔し、だけど馬鹿だね。一人でできる事は限られてるんだよ」
 アンは死亡したソロジーにジャケットをかぶせ、ダイチ達のもとへと向かった。
「あの、ソロジーさんは」
「死んだよ」
 わかっている事でも聞かずには居られなかったダイチに答え、アンは伝えた。
「おっさんから伝言だよ。『何があったとしても俺は、裏切り者だ』とさ。何かあったんだろうね」
「何か、ですか」
「何かさ。でも、それを聞いてやる訳にはいかないさ。あたし達だって殺されたくはないからね」
 アンの言葉にただ頷き、ダイチは道に横たわるソロジーを見た。
 銃撃戦が収まった町に人の気配が感じられるようになった時、アンの無線機に連絡が入った。
「こちら、アン」
『チェルシーです。終わりましたか?』
「ああ。そっちもかい?」
『ええ。見事な引き際です』
「ソロジーのおっさんが死んだからね。こっちで指示出す人間が居たんだろ。どっちにしろ、これで終わりだよ」
『そうでしょうね。では、こちらも戻ります』
 チェルシーからの連絡を終え、アンはダイチとキサラに言った。
「まあ、そういう事だね。後少し、警戒を続けて皆が戻ってくるのを待つよ」
 その上空に数個の大きな影が現れたのをダイチ達は、まだ気づかなかった。




続く


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