3.青写真法の発見
写真は何も銀塩写真だけではありません。現在でも将来の大まかな計画のことを「青写真(blue print)」というように、青色の写真も存在するのです。
この青写真の方法が発見(発明)されたのは1842年のことで、イギリスのジョン・フレデリック・ウィリアム・ハーシェル(John Frederick William Herschel)によってでした。彼は、天王星を発見したハーシェルの息子で、父親同様に天文学者でもあるのですが、写真の研究によっても知られる人です。ものの本によれば、彼は写真の定着剤ハイポ(チオ硫酸ナトリウム)の発見者ともされます。
その一方で彼は青写真の方法を発見しました。青写真は原理的には鉄(III)イオンの感光性(還元性)を利用したものです。鉄(III)イオン(Fe3+)は光が当たると還元されて鉄(II)イオン(Fe2+)に変化します。この鉄(II)イオンはフェリシアン化カリウム(赤血塩)水溶液によってターンブル青と呼ばれる濃青色の沈澱を生じます。一方、鉄(III)イオンはフェリシアン化カリウムによって沈澱は生じません。また、鉄(III)イオンはフェロシアン化カリウム(黄血塩)水溶液によって濃青色の沈澱を生じますが、フェリシアン化カリウムでは沈澱は生じません。
そこで、鉄(III)イオンを含む物質(具体的にはシュウ酸鉄アンモニウムやクエン酸鉄アンモニウム)の水溶液を白紙に塗布して乾燥させた「印画紙」に原版を重ねて光を当て、フェリシアン化カリウム水溶液で処理した後に水洗すれば、光が当たったところが青く、光が当たらなかったところが白くなった写真ができます。墨入れをした設計図の原版をこの方法で処理すると,青地に白い線が出るので、これを「青地白線法」といいます。
一方,同じ印画紙に原版を重ねて露光した後,フェロシアン化カリウム水溶液で処理をすると,今度は白地に青い線の青写真ができます。これを「白地青線法」といいます。
なお、青写真では感光する光の波長は 238−435nm くらい(紫外線から青色光付近)とされています。
青写真は、その昔、建築関係でよく利用されました。しかし、もう使われることはないでしょうね。
・チオ硫酸ナトリウム:次亜硫酸ナトリウムともいう。
化学式 Na2S2O3。塩化銀や臭化銀などハロゲン化銀を溶かす作用があるので、銀塩写真の定着剤として使われる。俗に「ハイポ(hypo)」と呼ばれるが、これは次亜硫酸ナトリウムのことを英語で Sodium hyposulfite と言うことから来ている。
・フェリシアン化カリウム:ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムの俗称。赤色結晶のため、赤血塩とも呼ばれる。
化学式 K3[Fe(CN)6]。分解しやすく有毒。
・フェロシアン化カリウム:ヘキサシアノ鉄(II)酸カリウムの俗称。赤血塩 よりも黄色味を帯びた結晶なので黄血塩とも呼ばれる。
化学式 K4[Fe(CN)6]。その昔、血や内臓・植物灰の汁・鉄から作られていた。
・ターンブル青:Turnbull's blue。ヘキサシアノ鉄(II)酸塩と鉄(III)塩から生じる濃青色の沈澱の呼称。以前は、ヘキサシアノ鉄(III)酸塩と鉄(II)塩から生じる濃青色の沈澱を「プルシアン青(Prussian blue)」とか「ベルリン青(Berlin blue)」と呼んでこれと区別していたが、現在では、これらは同一物質と認められている。