ミステリー
スフィンクスもどきの怪物、
散策者を襲う!!
ハイテク国家日本を襲った
春のミステリー(4)
(4.23. 1996 / 改訂4.17. 1997)
以後2週間、賓客として厚く迎えられた一級僧侶は、ヒトワ出現の報告が途絶えたのを確かめ、いくばくかの謝礼を受け取ると、東へ旅立った。
今となっては、どういったトリックを使ったのかは不明だが、ヒトワ騒動自体が一級僧侶による自作自演のいたずらだったのでは、と考える人が増えてきているようだ。もし読者の身近でヒトワ騒動のような騒ぎが起き、そこへがっちりとした体格の背の高い壮年の男が現われたら、注意深く成り行きを観察してみてほしい。何かがわかるかも知れない。
もちろん今でも、ヒトワは本当の妖怪だったと頑に主張する人も多い。自警団に参加した周辺住民の一人、小笠原権兵衛さん(仮名。45歳、陶芸家)もその一人だ。小笠原さんはヒトワは一級僧侶のトリックだったのではという私にこう語った。
「アホいうたらアカン。そんなことできるわけないやろ。仕掛けもわからんくせにいい加減なこというんやない。一級僧侶の解説はホンマやで。いつかまたヒトワが現れて、忍者の技で散歩しよる人を疎水に尻もちつかせんとは限らん。このことを忘れんと皆、思索するっちゅうことをたまにはしていかんと。あんたなんかとくにそうやで。そやないと、厚生省や住専、TBSみたいになってまう」
この負けず嫌いな頑固さ、そしてそれを穏やかさと奥ゆかしさというオブラートで包み込むしたたかさこそ、1200年の長きにわたってこの国の変化と動乱の中心地でありつづけた古都京都に住まう人々の真髄なのか。妖怪は人々の微笑ましき心の営みが育んでいくのかも知れない。
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