読切短編小説
『さようなら水戸黄門』
あらため
『まだまだお元気? 水戸黄門』
〜シリーズ存続の朗報に添えて〜
by 浮世絵太郎
(1.16. 1997)
庄屋さんは困っていた。代官が娘を差し出せと強く迫り、断る庄屋にさまざまな嫌がらせをするのである。しかも嫌がらせは村の人々にも及びはじめていた。
そんな折、ニコニコ顔の老人が三人のお供を連れて通りかかり、言った。
「庄屋さん。何を悩んでおられるかは承知しています。どうでしょう? この先のことは私に任せていただけませんかな」
「えっ、ご老人さんに? あなたは一体?」
「ただの隠居です。人よりちょっとお節介なところはありますが」
「しかし……」
「無事、お悩みは解決してみせますから。じっちゃんの名にかけて!」
「じっちゃん……?」
じっちゃんは金田一耕助、のわけがなかろう。
代官屋敷に押し入った老人とそのお供は、どこからともなく現れた屈強な男二人と妖艶な女一人の助けを得て、代官の手の者をさんざんに打ちのめした。
庄屋さんはその光景を門の外から、ただただ恐れおののき眺めていた。
(これはとんでもない狼藉ではないか)
打ち首、獄門。凄惨な想像が脳裏をよぎった。
奮闘の最中、老人が言った。
「助さん、格さん、もういいでしょう」
すると二人の凄腕のお供は老人の左右にすばやく寄り添い、供の一人、格さんが印籠を懐から取り出して言った。
「え〜い、者共、控えい、控えい! この紋所が目に入らぬかあ!」
(あの紋所は……)
庄屋さんは驚き、顎がはずれた。
印籠には三つ葉葵の模様が描かれていた。
将軍家の紋所である。
歯向かっていた代官の手下も皆、打たれたように静かになった。
格さんは言った。
「ここにおわす御方をどなたと心得る!
恐れ多くも先の自称副将軍、」
副将軍という官職・官名はないから、格さんの言い方が正しい。しかし老人は不愉快気に言った。
「格さん、自称、は余計です」
「はっ。これは失礼を」
格さんは神妙に一礼し、改めて、
「ここにおわす御方をどなたと心得る! 恐れ多くも先の副将軍、水戸光圀公なるぞ!でよろしいでしょうか」
「良いでしょう」
「ということだ。者共、頭が高い! 控えい、控えい!」
かくして事件は一件落着。庄屋さんの顎は助さんが治し、代官は罷免され、庄屋の娘は相思相愛の隣村の庄屋の息子の元へ嫁ぐことが決まった。
庄屋さん家族は再び旅立つご老公一行を、いついつまでも見送っていた。
ちなみに水戸光圀のじっちゃんは、徳川家康公であった。
めでたし。めでたし。
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