ミステリー
忘れられた糠味噌
(7.30. 1998)
「糠味噌を、毎日かき混ぜなされ」
大学生の夏山南海さん(仮名。20歳。中京区在住)は、祖母の遺言とともに、先祖代々伝わって来た糠味噌を相続した。去る6月のことである。
以来、糠味噌を地道にかき混ぜつづけて4週間。大学が夏休みに入った夏山さんは、8月の旅行のためのアルバイトに勤しみはじめた。いつしか、糠味噌のことなどすっかり忘れてしまった。
そんなある日。
夜、バイト疲れで眠っている夏山さんの耳元で、亡くなった祖母の声がした。
「糠味噌〜」
はっとした夏山さんは、急いで台所へ行き、冷蔵庫の扉を開け、糠味噌の入ったタッパを手にした。
なんとも言えぬ悪臭がタッパから溢れ出て、思わず顔を背けた。横目で見遣ると、タッパから糠味噌色が溢れ出してくる。夏山さんは悲鳴をあげた。
糠味噌はやがて幾人もの人型になり、徒党を組んで夏山さんを取り囲んだ。
「よくも腐らせたな〜」「よくも腐らせたな〜」
恨み言を浴びせかけられた夏山さんは、気を失ってしまった。
翌朝、夏山さんは、糠味噌を頭からかぶって台所に倒れている姿を両親に発見された。
幸い一命は取りとめた。以来、先祖伝来の糠味噌の味を再現するための勉強と実験を始め、夏の旅行もアルバイトもキャンセルした。
キーワード
糠味噌
毎日、ちゃんんとかき混ぜましょう。
でないと……。
すごいよ。
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