ミステリー
プリクラお婆さん
(3.13. 1997)
1997年、春。梅と桜の狭間の京都で、プリント倶楽部などの写真シールを必死に集める一人の老女がいた。
彼女の名は、西陣ぷりん(仮名。86歳)。2年前に夫と死別し、息子夫婦と暮らしていた。
母の突如のプリクラ狂いに、息子が驚いたのは言うまでもない。
「おかん! いったいどないしたんや?」
そう問い詰めたが、母は笑って、答えなかった。
ある晴れた日曜日の夕方、ぷりんは、集めたシール111 種888 枚を張りつけた手帳を持つと、
「ほな、皆、仲良うな」
と言い残して、家を出た。息子夫婦は不安に駆られ、後を追った。
ぷりんは京都御所の白い砂利道で天を仰いでいた。手帳を両手で真上に掲げている。その真剣な、何かを念じているような表情に圧倒され、息子夫婦は声をかけられなかった。
やがて、ぷりんのはるか上空に銀色の円盤が姿を現した。円盤はどんどん降下してきて、ついにぷりんの頭上10メートルほどのところに停止した。直径20メートルほどの空飛ぶ円盤だ。
しばらく呆気にとられていた息子夫婦だが、あわててぷりんに駆け寄ろうとした。だが、見えない壁にはじき返され、届かない。
「おかん!」
悲痛な叫びをあげる息子に向かい、ぷりんは優しく、幸せそうに微笑んだ。
円盤の底が丸く開き、白い光が放射された。光は手帳をぷりんの手から円盤の内部へ吸い上げ、しばらく時間が流れた。円盤から甲高く早口の声がした。
「たしかに、111 種888 枚。よろしい、願いは叶えよう」
白い光が金色になり、息子夫婦は信じられない光景を目撃した。目の前で、金色の光を浴びたぷりんがグングン若返っていくのである。背中も真っ直ぐに伸び、服装も歳相応にどんどん変化していく。ついにはミニスカートにルーズソックスの女子高生スタイルとなり、変化はそこで止まった。
呆然と立ち尽くす息子夫婦。
円盤の底からカードが1枚ヒラヒラと舞い降りて、ぷりんの手にキャッチされた。円盤から声がした。
「その、銀河リパブリック・コーポレーションのマジック・クレジット・カードを使えば、一生お金には不自由しないであろう」
ぷりんは飛び上がって喜びを表わすと、コギャル言葉で円盤にお礼を言い、さらに息子夫婦にサヨナラを告げ、小躍りしながら夕日に向かって走り去った。
なんとも不思議な、春のうたたねで見る夢のように、心地よい物語であることよ。
夕陽に向かって、ぷりんさんは走り去った。
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